欅坂46の活動休止に思う | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ

本日7月26日は、2017年、5大キツネ祭り in JAPAN 白キツネ祭り@東京Zepp Divercityが行われた日DEATH。

2016年4月、BABYMETALと欅坂46が『ミュージックステーション』で共演した直後、ぼくはこのブログで「秋元康批判」というタイトルの記事を書いた。


最年少センター平手友梨奈の才能とスター性は認めるが、「アイドル」フォーマットにはそぐわないという主旨で、このままでは欅坂46はどっちつかずになってしまうので、平手友梨奈はアーティストに徹し、早く独立した方がいいというものだった。
BABYMETALファンの立場から、欅坂46を批評したこの記事は「炎上」し、以降、当ブログのアクセス数は飛躍的に増えた。
そして、その時の予想は図らずも的中してしまった。
またも「炎上」するかもしれないが、今日はこの問題に関するぼくの考えを書いてみる。
欅坂46に興味のない方は、例によって「そっ閉じ」してください。
欅坂46は、BABYMETALの海外進出成功を機に、いわゆる「ラウド系アイドル」というジャンルが台頭した2010年代中盤のアイドル界で、従来の「アイドル」を脱却し、“大人への反抗”をテーマにし、「媚びない」「笑わない」といった、エクストリームさを訴求するコンセプトのもとに、2015年8月に結成された。
通常、「アイドル」グループは、楽曲では多人数の歌割りとフォーメーションダンスを演じるだけではなく、同じ比重で、テレビのバラエティ番組で明るく愛嬌を振りまき、当意即妙の受け答えや、意外な特技で視聴者をエンターテインするのが本務である。ファンはパフォーマンスを楽しんだり、楽曲に勇気をもらったりしながら、メンバーが過酷な状況の中でがんばる姿に「健気さ」や「成長」を感じて応援する。
未熟であること、常識を知らないこと、気が弱いことなども「アイドル」では、“親しみやすさ”や“伸びしろ”としてプラスに働く。
その点、人格や私生活はともかく、卓越した表現力で勝負するアーティストとは根本的に違うし、私生活を隠して「高嶺の花」を演じていた70~80年代のアイドルとも異なる。
一言で言うなら、「アイドル」フォーマットとは、魑魅魍魎の跋扈する芸能界で生き抜くために、メンバーがそれぞれ内的な成長を遂げていく『千と千尋の神隠し』なのだ。だから、メンバーがグループを離れることを「卒業」という。
実例として、現在、日本のトップ女性「アイドル」グループに昇りつめた乃木坂46を見てみよう。
乃木坂46は、当時絶対的な存在だったAKB48の“公式ライバル”として、同じ秋元康のプロデュースで、2011年8月に結成された。
2ndシングル「おいでシャンプー」は、AKB48の指原莉乃のソロプロジェクト「それでも好きだよ」と同じ2012年5月2日にリリースされ、売り上げ枚数を競い合った。デイリーでは指原が1位だったが、ウィークリーでは乃木坂が1位になった。“強大なライバル”に対抗するプロモーションは、ファンに「判官びいき」の心情を抱かせるものだった。
乃木坂46のメンバー選定は、エネルギッシュなAKB48と差別化するため、「ハイソで清楚なお嬢様」というグループイメージで行われた。その中にはSU-METALの姉である中元日芽香もいた。
だが、冠番組ではコメディアンのMCが、笑いの「お手本」を示し、メンバーがそれを学ぶことによって、バラエティの才能が引き出されていった。
『NOGIBINGO!』(日本テレビ)ではMCイジリー岡田が一人ボケツッコミを担当。
『乃木坂ってどこ』~『乃木坂工事中』(テレビ東京)ではバナナマンがMCとなり、設楽統のワードセンスあふれる無茶ぶりと自虐的にイジられる日村勇紀というコンビネーションの「お手本」を示しつつ、サディスティックなまでの追い込みによって、切羽詰まったメンバーの受け答えや意外なキャラクターが引き出され、視聴者にグループの面白さとメンバーの健気さを感じさせるのに成功した。
『乃木どこ』~『乃木中』では、スタジオ内のチーム/軍団対抗ゲームは、大縄跳び、綱引き、バルーン相撲、足つぼマット競争など、多くが肉体を酷使するものであり、絶叫マシンやお化け屋敷でのロケ、ゲテモノ食い、蛇や蜘蛛に触る催眠術、立候補による後輩からのバレンタイン告白、水風船キャッチなど、「清楚なアイドル」にはおよそ相応しくない過激な企画が次々に行われ、勝者にご褒美の高級料理がふるまわれる一方、敗者の罰ゲームでは顔面パイ、高所からの落下&粉まみれ、激マズドリンク、電気ショックは当たり前で、メンバーの悲喜こもごものリアクションが引き出された。


頭脳/NO王決定戦、絵、手料理、内輪モノマネ、夏休みの課題などの回では、意外な才能を披露するメンバーとともに、桁外れのダメさ加減を示すメンバーにもスポットが当たった。
シングルヒット祈願や罰ポイント清算ロケでは、西野七瀬が泣き出してしまった街頭でのティッシュ配りに始まり、バンジー、スカイダイビング、登山、氷瀑登攀、外国人の母の故郷への一人旅、海亀を探すアクアダイビング、ハブ捕獲など、これまたフィジカルに過酷なロケが行われた。
『乃木どこ』最終回は、設楽、日村が迫真の演技でメンバー全員を泣かせた後で、実は『乃木中』への番組リニューアルのドッキリだったと種明かしされるなど、スタジオ、ロケのいずれも、過酷な課題や状況にメンバーが健気に挑むところに演出の力点が置かれ、「恥をかくこと」「泣くこと」を「がんばったね」「素直でいいね!」と積極的に評価する雰囲気があった。
しかも、その大前提として、乃木坂46では、AKBグループの選抜総選挙がない代わりに、シングルごとにスタッフが決めた選抜メンバーとポジションの発表が行われるグループ内競争があった。
握手会での人気や番組内での頑張りなどを基準にしていると思われ、傷つくメンバーもいたが、選抜入りを目指して過酷な状況の中で健気にがんばる姿に心動かされるファンが増えたことが、乃木坂46が、初期メンバーの抜けたAKB48を抜いてトップアイドルに上り詰めた原動力になったのだと思う。
一方、欅坂46の一期生は、結成時のコンセプトから、内向的でクールに構えがちなメンバーが多く、バラエティ向きの前へ出るキャラクターが少なかったことは否めない。


アーティストなら、音楽的クオリティで勝負し、ライブ巡業で徐々にファンを増やしていくのが王道だが、欅坂46のプロモーションは、デビュー前の2015年8月から『欅って書けない』(テレビ東京)をスタートさせたように、乃木坂46同様、「アイドル」としての地上波冠番組主体だった。
『アイドリング!!!』(フジテレビ)のバカリズム、『AKBINGO!』(日本テレビ)のバッドボーイズとウーマンラッシュアワー、『有吉AKB共和国』(TBS)の有吉弘行など、「アイドル」冠番組のコメディアンMCは、メンバーのバラエティ対応を引き出すのが腕の見せ所である。
『欅書け』のMCは、ハライチの澤部佑と、ピン芸人の土田晃之だった。
番組では、本来ノリツッコミの澤部がフリとボケを両方こなした。年齢的に一回り上の土田は、メンバーの反応にシニカルなツッコミを入れつつ、「芸能界」のしきたりや常識を教えるという役割だった。
ハライチで澤部の相方の岩井勇気は、ロケを中心に、スポット的にゲスト出演するだけだった。
ハライチの漫才は、岩井勇気がシュールな状況設定をし、それにバカ正直に従おうとする澤部が翻弄されるというパターンでできている。これは「ボケとツッコミ」という大阪漫才スタイルとは異なり、コント55号から続く「命令者と被害者」というパターンで、バナナマンも同じ構造である。
ハライチは、℃-uteの岡井千聖とのアプリ紹介番組『神アプリ@』(テレビ東京)で、MCをバナナマン(2010-2011年)→オードリー(2012-2014年)から引き継いでいたから、「アイドル」とのレギュラー番組MCの経験も積んでいたのだが、『欅書け』では、土田晃之の蘊蓄おじさんキャラクターを優先したのだろう。
番組内企画は、インテリ女王、ポンコツ女王、運動能力チェック、〇〇キャラ決定戦、ファッションチェック、妄想恋愛演技力、内輪モノマネなど、乃木坂番組を踏襲するものが多かったが、織田奈々をめぐるグループ内の疑似恋愛や、カップルロケ、スーパーボールのコップ受けなどはオリジナルだった。
ヒット祈願は、好きな芸人巡り、立憲民主党の枝野幸男代表を含む有名人訪問、Twitter写真の募集、ARポスター貼りなど、乃木坂と比較すると、フィジカルな過酷さの要素は薄かった。
内向的なメンバーが多かったためか、MCがサディスティックな言葉で追い込むことはほとんどなく、過酷な罰ゲームが行われる比率も少なく、メンバーがエモーショナルなリアクションをしたシーンをあえて「黒歴史」と括って振り返るなど、演出方針は一貫して「メンバーを傷つけること」「笑い者にすること」を避けている印象があった。


それでも、キャプテンの菅井友香をはじめ、長沢菜々香、土生瑞穂ら、本来、人の前に出るのは苦手に見えるメンバーも、企画にまじめに取り組み、MCのイジリに応えてバラエティに適応しようとする雰囲気はグループ全体にあった。
あえて比較すれば、乃木坂の番組が「フィジカルな過酷さ」へのがんばりを感じさせたのに対して、欅坂では内向的なメンバーが自分の殻を打ち破る「メンタルな過酷さ」への挑戦に焦点をあてているようだった。
ただ、抜本的に乃木坂と異なったのは、欅坂46では、8thシングルまで全員選抜制であり、グループ内競争が行われなかったことだ。センターは平手友梨奈に固定されていた。
そのため、もともと「特例加入」の長濱ねるのためにアンダーチームとして募集され、2016年5月に結成された「けやき坂46」(ひらがなけやき)のメンバーは、シングル選抜昇格のチャンスがなく、2017年にひらがな単独ライブツアーを行ったが、その他は欅坂46のライブで数曲披露するにとどまり、『欅書け』には準レギュラー的に出演するだけだった。
だが、そのことが、ひらがなメンバーの奮起を生んだ。

性格的に井口眞緒、加藤史帆、斎藤京子などバラエティ適性や運動能力に優れたメンバーが多く、出演回では積極的に前へ出てがんばった。
大食いキャラ決定戦や対抗運動会ではおとなしい欅坂メンバーを圧倒し、慣れないスーパーボールコップ受けでは敗れて大粒の悔し涙を流した。カラオケ対抗戦でもひらがなチームが勝った。ガツガツ来るひらがなメンバーが出演すると番組が明るくなった。
シングルヒット祈願で唯一過酷といえる滝行をやったのはひらがな2期生であり、バスケ企画で澤部を翻弄した渡辺美穂もひらがな2期生メンバーだった。
その「アイドル」らしいがんばりと明るさに独自のファンが付き、平手友梨奈が負傷欠場した2018年1月30日~2月1日の日本武道館公演では、3日間すべてがひらがなけやきの単独ライブとなった。
この年からオードリーMCの『ひらがな推し』(テレビ東京、現:『日向坂で会いましょう』)、サンドウィッチマンMCの『KEYABINGO!4 ひらがなけやきって何?』(日本テレビ)がスタートした。


『ひらがな推し』当初の企画は、オードリー春日によるメンバー紹介、楽屋のバッグチェック、ひらがな2期生の特技披露など、乃木坂の番組を踏襲したものだったが、メンバー自身のテレビバラエティ的発想力が旺盛で、春日との大喜利対決、野球シリーズ、井口眞緒の「スナック真緒」、ぶりっ子選手権など、オリジナル企画も生まれた。
そして2019年2月には日向坂46に改名し、完全に独立したアイドルグループとなった。
2018年6月リリースのデビューアルバム『走り出す瞬間』はオリコン週間1位、2019年3月の日向坂46としてのデビューシングル「キュン」は、欅坂46が2016年4月の「サイレントマジョリティ」で作った新人女性アイドルデビューシングル売り上げ枚数記録を更新した。
一方、欅坂46は、2018年1月30日~2月1日の日本武道館公演をひらがなけやきに譲ったあと、3月に6thシングル「ガラスを割れ」をリリースし、4月には武蔵野の森総合スポーツプラザメインアリーナで3日間の振り替え公演を行った。7月には7thシングル「アンビバレント」をリリースし、11月には坂道グループ合同オーディションで選ばれた新たなメンバーを「2期生」として加え、ひらがなけやきとは異なるグループとしての展開を示した。


2019年2月に8thシングル「黒い羊」をリリースし、9月には東京ドーム公演を成功させた。

だが、12月に9thシングルのリリース延期が発表され、2020年1月~3月にかけて織田奈那、鈴本美愉、平手友梨奈、長沢菜々香が相次いで「卒業」「脱退」し、週刊誌でグループ内の派閥対立や「いじめ」が報道されるなど、ネガティブな話題が続いた。
2020年7月19日の無観客ライブ中に、キャプテン菅井友香から10月予定のライブを以て5年間の活動に終止符を打ち、改名して新たなグループとして生まれ変わることが発表された。
なぜこんなことになったのか。
この結果を、特定のメンバーや冠番組MC、現場スタッフの責任に帰することはできない。
メンバーはライブのクオリティをあげるためにものすごい努力をしていた。平手友梨奈は、ブログでMVのダンス見どころ解説までやっていた。負傷以降、冠番組には出演しない時期が長かったが、その他のメンバーは、バラエティに適応しようとして精いっぱい明るく振舞っていた。
すべては、欅坂46のコンセプト設定の矛盾に起因していたというのがぼくの考えである。
秋元康は構成作家/作詞家として、テレビ番組の過酷な企画に耐え、成長していくというドキュメンタリー性をベースに、自ら作詞したシングル曲のCDに握手券や投票券を封入して、シングル選抜=グループ内競争にファンを参加させて売り上げを伸ばす多人数の「アイドル」という仕組みを作った。
だが、逆に言えば、プロデューサーとしての秋元康は、エクストリームな音楽やアーティスティックなダンスに造詣が深いとはいえず、テレビを主媒体とした「アイドル」しか作れなかった。
平手友梨奈の表現者としての才能を訴求したかったのなら、本来、多人数「アイドル」のフォーマットは必要なかった。ソロ、あるいは数人の先鋭的ダンスユニットでよかった。グループ内ユニットとして分離・独立すべきだったのはひらがなけやきではなく、平手友梨奈だったのだ。
だが、そもそも平手友梨奈をアーティストとしてプロモーションする発想は、秋元康にはなかった。「反抗的アイドル」というコンセプトで募集し、たまたま合格したメンバーの中に、突出した才能の持ち主がいたというだけだ。
繰り返すが、私生活とは関係なく音楽性で勝負するアーティストと、テレビバラエティでキャラクターを売る「アイドル」とは対立概念である。もしそれを「融合」させようとするなら、BABYMETAL=「会いに行けないアイドル」のように、独自のアイドル像そのものを提示しなければならない。それはコンセプトメイキングする者の責任である。
結成時にコンセプトの詰めを十二分に行わないまま「アイドル」フォーマットを採用したため、「アイドル」なのにグループ内競争がなく、「無茶ぶりにがんばるメンバーの姿」を見せるべき冠番組なのに、メンバーを追い込まない配慮をした結果、欅坂46はクオリティの高いダンスユニットに成長しながら、「アイドル」としては中途半端になってしまった。
ファン、視聴者にとっては、モヤモヤした中で明るくがんばり抜いたひらがなけやき=日向坂46こそ、正統派の秋元流「アイドル」に見えた。冒頭に書いたように、「強大なライバル」=欅坂1期生を乗り越えるという構図こそ、ファンに「判官びいき」の心情を抱かせる最も効果的なプロモーションである。人気が出るのは当然だった。
欅坂46の活動休止が決まった今、秋元康は、現メンバー、とりわけまだ若い欅坂2期生が、日向坂46に対抗する新しい正統派「アイドル」ユニットを結成するのを全力サポートすべきだろう。
もし、現メンバーの中に平手友梨奈と合流してアーティスティックなユニットを結成したい者がいるなら、秋元康がプロデュースするのではなく、Avex、アミューズなど、プロフェッショナルなアーティスト事務所にゆだねた方がいい。
それは、秋元康が本物のアーティストをプロデュースできない証明になってしまうが、そのくらいの恥はかくべきだと思う。秋元康にとっては数多くの手掛けたグループの一つに過ぎないかもしれないが、欅坂46のコンセプトを愛した多くのファンが生まれ、何より在籍したメンバーは、青春を賭けて、秋元先生の矛盾したコンセプトを全うしようとしたのだから。
2016年4月の「秋元康批判」で書いたように、批評した以上、ぼくは欅坂46の活動をできる限りフォローしてきた。今後も欅坂46から派生した日向坂46と新しいユニットを見守ってゆくつもりである。

 

※あさんのご指摘により、人名の誤りを修正いしました。(7月27日)