10年のキセキ(90) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日7月25日は、2017年、5大キツネ祭り in JAPAN 銀キツネ祭り@東京Zepp Divercityが行われた日DEATH。2016年、初めてフジロックに出演した日DEATH。

2019年6月29日、BABYMETAL AWAKENS -THE SUN ALSO RISES-二日目が行われた。
休日だったため、横アリ周辺に並んだ来場者は前日とは大きく変わって家族連れが目立った。ベビメタコスプレの女の子も多かった。
開場、開演とも定刻通り。
セットリストや神バンド、オープニングの「紙芝居」や幻想的な演出も前日と同じだったが、その意図が鮮明にわかった。
BABYMETALの過去を振り返りつつも、日本武道館DOOMS DAY黒い夜-召喚の儀-の再現のような「Vocal & Dance、SU-METAL」「Scream & Dance、MOAMETAL」という登場の仕方、前日終演後に発表された3rdアルバムのタイトルが『METAL GALAXY』だったこと、その名前を冠したワールドツアーが2019年9月4日~10月16日の全米横断ツアー、11月16-17のSSAと11月20-21日の大阪城ホールのジャパンツアー、2020年2月3日のスウェーデン・ストックホルムから3月1日のロシア・モスクワに至る極寒の汎ヨーロッパツアーに至る壮大なものだったことを考え併せると、あのオープニングは新生BABYMETALが過去の痛手から蘇り、本気で「世界征服」に向けて再出発するための神聖な儀式だったのだ。
ただ、新たな二つの「謎」が生じていた。
ひとつは、残り二人のアベンジャーは誰なのか、アベンジャーズはBABYMETALの正式メンバーにはならないのかということ。
もうひとつは、新生BABYMETALでのMOAの役割。横アリ初日に「Scream & Dance」と紹介されたことで、とりあえず従来通りの役割を担うことがわかったが、PMなごやのLegend-M-で「もう一人の女神」になった暁には、二人目のシンガーとなる可能性はまだ残っていた。
この二つは、実はつながっている。
MOAがもう一人のシンガーとなり、ツインVocal&Dance体制になれば、新生BABYMETALは一対のユニットとしてバランスがとれ、三人のアベンジャーズが二人の回りを回るダンサーになるスタイルができる。

その場合、アベンジャーはあくまでもサポートダンサーであり、正式メンバーになるわけではない。
だが実際にぼくらが横アリで観た「三人目」は、鞘師里保というビッグネームだった。

鞘師は卓越したダンサーだが、モーニング娘。ではエースとして、歌割りの中心でもあった。BABYMETAL流にいえば「Vocal & Dance」だったわけだ。
もちろん、SU-METALのロックボーカリストとしての実力と評価は世界的なものだ。
2016年の『Kerrang!』誌の「Greatest Rock Star in the World」ランキングでは男女を含めて13位。

最新のThe Toptens.comの「Best Female Metal Singer」ランキングでは、フロール・ヤンセン(After Forever)、ターヤ・トゥルネン(Nightwish)、シャロン・デン・アデル(Within Temptation)、シモーネ・シモンズ(Epica)に続く第5位で、6位のアリッサ・ホワイト=グラズ(Archenemy)よりも上位にランクされている。
https://www.thetoptens.com/best-female-metal-singer/
2016年のWhite Mass@Zepp Nagoyaの待機列で、BABYMETALのリハーサルが始まったとき、分厚い防音壁を通して、神バンドの爆音はほとんど聴こえないのに、SU-のボーカルだけはハッキリ聴こえたという証言動画もある。
偉大なボーカリストであるSU-の回りを「双子の天使」であるYUI・MOAがScream & Danceするというトライアングルは理にかなっていたが、二人組になった今、そのバランスは崩れてしまった。
実はMOAもまた、よく通る澄み切った声の持ち主で、正確なピッチで歌える類まれなシンガーでもある。
ライブに行けばわかるが、神バンドが奏でる爆音メタルサウンドの中でも、「メギツネ」の「♪ソレソレソレソレ!」や「ギミチョコ!!」の「♪あたたたたーた…ドッキュン」は、非常によく聴こえる。ヘッドセットのマイクを通した声は、金属的ともいえるほど余計なブレス成分が少なく、さくら学院時代の音源を聴けば、すぐMOAの歌割がわかるシグネチャーボイスである。
ちなみに、さくら学院では、在籍年数やステージ経験、人気とともに、武藤彩未、中元すず香、堀内まり菜、菊池最愛、山出愛子、藤平華乃など、その学年で最も歌が上手く、多くの歌割をこなせるメンバーが生徒会長になることが多い。
すぐそばに偉大なSU-METALがいるため、おいそれとシンガーの名乗りをあげることが難しいのは承知しているが、BBM楽曲だけでなく、MOAMETALのために書かれたソロ曲があれば、BABYMETALの表現の幅はもっと広がる。
だが、モーニング娘。のエースだった鞘師里保がアベンジャーになったことで、別の見方もできる。
普通のアイドルグループなら当然ソロをとれるボーカリストの才能を持った鞘師とMOAを、SU-METALの回りで踊る天使にとどめることで、ちょっともったいない気もするが、BABYMETALのクオリティは一段と高まるということだ。昭和プロレス的にいうなら、実はめっぽう強い藤原喜明が前座にいることで、メインイベンターのアントニオ猪木が輝くというような。ちょっと違うか。
要するに、アベンジャーの役割を、Scream & DanceのMOAとともに従来のトライアングルを補強するものと考えるのか、BABYMETALの表現を広げるために、MOAだけでなく、シンガーの才能をもったアベンジャーを入れてコーラスグループ的な体制にするのか、二つの方向性が生じたのだ。そして、その方向性はMETAL GALAXY WORLD TOURを半ばで中断された現在でも、まだ定かではない。
というのも、横浜アリーナ二日目のアベンジャーは、さくら学院2019年度生徒会長の藤平華乃だったからだ。
YUIとMOAがSonisphere Festival 2014に出演したのは、菊池最愛が生徒会長、水野由結がプロデュース委員長だった中学3年生のときだった。だから、同じく中3でさくら学院在籍中の藤平華乃がアベンジャーとはいえBABYMETALのメンバーとしてデビューしても、不自然ではない。
藤平華乃は菊池最愛と水野由結が卒業した2015年、二人と同じ最年少の小学校5年生でさくら学院に「転入」した。
山出愛子会長時代の2017年度さくら学院祭では、中1の藤平華乃が、中2の麻生真彩、日高麻鈴と共に“一夜限りの重音部”として「ギミチョコ!!」を披露。ポジションはYUIMETALのパートだった。

藤平は終演後、学院日誌に「一生の宝物になりました。」と書いたほど、BABYMETALに憧れていた。


藤平華乃の歌唱力は、菊池最愛、山出愛子に匹敵する上手さで、ややハスキーなロック向きの声質を持っている。
彼女もまた、歌えるダンサーなのだ。
しかし、横アリ二日目に初登場するまで、藤平華乃はどれだけの練習を重ね、プレッシャーと戦ったことだろう。
思えば、さくら学院在籍中のSU-、YUI、MOAが、単体のBABYMETALとして初めて観客の前に立ったのは、2011年のNo Music No Idol@新宿LOFTだったが、そのときのレパートリーは「ド・キ・ド・キ☆モーニング」と「いいね!」の2曲で、観客は300人だった。
YUIとMOAは中3の年にSonisphere Festival 2014に出演したが、それはSU-とともに三人が2013年まで国内での単独公演やロックフェスの出演経験を積み、日本武道館を終えた後のことだった。
さくら学院でMIKIKO師に鍛えられ、生徒会長に選ばれた才能とはいえ、現役中3の藤平華乃が、いきなり18,000人のBABYMETALファンの前で、BABYMETALの13曲ものセトリ(「FUTURE METAL」を除く)を、しかもBABYMETALのメンバーとして、YUIMETALの代わりに、前日はモー娘。のエース鞘師里保が演じたパートを演じなければならなかった孤独なプレッシャーは、想像を絶する。
しかし、横浜アリーナ二日目の藤平華乃は、ダンスのキレ味はもちろん、ステージでの観客への目線の送り方や表情の作り方なども臆することなく堂々と披露した。
2曲目「メギツネ」の「ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ!」の空中浮遊平行移動は、誰よりも高く飛び、3曲目「Elevator Girl」では、メリハリの効いた動きとくるくる変わる表情で、都会で仕事に追われる若い女性の心情を表現した。


5曲目「Shanti Shanti Shanti」では、体・首・手の先から視線まで連動するセクシーな動きは鞘師里保に軍配が上がり、手足の長い藤平華乃はシャキシャキして元気いっぱいに見えた。ここで特筆すべきは、MOAが、ペアになるアベンジャーによって、ダンスのスタイルを微調整していたことだ。MOAは鞘師が相手だとエネルギッシュに、藤平相手だと、より繊細でしなやかな動きを見せた。この時点では練度の問題かもしれなかったが、全米横断ツアーで、鞘師と岡崎百々子が日替わりアベンジャーになったとき、それがハッキリと分かった。MOAは常に観客からの見え方を俯瞰してバランスをとる天才なのだ。
のちのインタビューでMOAはこう語っている。
「…私たちは“BABYMETAL+アベンジャーズ”っていう形ではなくて、あくまでも、“BABYMETAL”として戦っていきたい。そう考えた時に、サポートダンサーに合わせるんじゃなくて、相手に寄り添いながら自分たちの芯は動かさないようにしようと思ったんです。そのへんのさじ加減…どこまで合わせてどこまで合わせてもらうかは、これからも考えながらやらないといけないなと思います。」「<アベンジャーズ>シリーズは3人体制なので、「前に戻ったね」っていうよりも「進化したね」って言われるような形がいいと思っていて。なので、私は進化するためにどうするかを考えるようになったし、さっきも話したように、その日のサポートダンサーの振りに合わせて自分のダンスを変えてみたり、日々臨機応変に動くことを学びながらライブをしている気がします。」
(『PMC Vol.15』P.13)
アジアの熱気を感じさせるボリウッドメタルはBABYMETALにとって新境地であり、まさに「進化」だった。
8曲目の「ヤバッ!」は、前日同様、アベンジャーが否応なくYUIMETALと比較される曲である。行進ダンスや「ヤバッ」ポーズは、Kawaii METALの真骨頂だが、藤平華乃は、体型的にもMOAMETALとの“双子感”が一番強く、しかも手足が長くダイナミックな動きで、会場の目を惹きつけるダンスを見せてくれた。


MVにもなった「PAPAYA!!」では、F.HEROが登場し、ラップパートに入る直前で「BABYMETAL!!」と叫ぶ瞬間、SU-を挟んで下手にMOA、上手に藤平が腕組みして、ドヤ顔でメンチを切る姿が、バッチリ決まっていた。
10曲目の「ギミチョコ!!」は、藤平にとって思い出深い曲だが、頭を指差して腰をグラインドさせるタイミングやチョコを食べる際のMOAとのアイコンタクトなど、ピッタリ息があっていた。
11曲目の「KARATE」では、さくら学院ファン=父兄にとっては感動的なシーンが生まれた。
2018年のシンガポール~オーストラリアで「三人組」に戻って以来、この曲の間奏部は、三人が倒れ、SU-がまず起き上がって上手のMOAを助け起こし、次に下手の「三人目」を助け起こし、三人で肩を組み、こぶしを振り上げて前進する2016年初期仕様に戻っていた。
SU-METALこと中元すず香は二代目。MOAMETALこと菊池最愛は四代目。藤平華乃は九代目のさくら学院生徒会長である。
2019年の国内ライブが、横アリとPMなごやで行われたのは、以前も書いたように、YUIMETALとMOAMETALの聖誕祭を行うためだったと考えられる。もし、YUIMETALが復帰できたなら、横アリは彼女が主役だったはずだ。
YUIMETALは「私は誰よりもさくら学院を愛している」「BABYMETALの活動は、さくら学院という世界一素晴らしい学校を世界に広めるため」「いつか水野由結としてさくら学院に戻ってきたい」と言っていた。


志半ばで進路変更しなければならなかった彼女の無念さを背負い、何があっても立ち上がり、三人の歴代生徒会長が肩を組んで進む。それはBABYMETAL魂であり、さくら学院の校訓である「スーパーレディ」の具現化だった。「父兄」としては確かに感極まるものがあっただろう。
「FUTURE METAL」をはさんで、13曲目「THE ONE」。
だが、横アリのライブタイトルは「THE SUN ALSO RISES」であり、「太陽」となったSU-が新生BABYMETAL の誕生を宣言する場となった。
ステージにスモークが焚かれ、後光のようなバックライトの中から現れたSU-が静かに歌いだす。
「THE ONE」は、2015年12月の横アリ初日の1曲目、2日目のフィニッシュ曲として初披露された。そのとき、三人はゴンドラに乗って観客の上を飛翔した。2016年4月のウェンブリーでは、この曲で、各国から集まったファンが色とりどりの国旗を振った。のべ11万人を動員した2016年9月の東京ドームのフィニッシュ曲も「THE ONE」だった。
Unfinished Ver.の披露は、2016年4月のNHK『BABYMETAL革命~少女たちは世界と戦う~』のスタジオが最初で、客前では2017年12月のLegend-S-が初披露だった。そして、そこからDarksideが始まり、2018年はずっとこのバージョンで通した。
これらのシーンは、「THE SUN ALSO RISES」冒頭の飛翔するBABYMETALスクリーンに映し出されていた。そして、今また、SU-の歌う「THE ONE」によって、それらのシーンが、時間を超えて観客の脳裏に蘇った。
間奏部、神バンドの演奏が始まり、MOAが藤平華乃を率いてSU-のもとに集まり、八角形ステージに乗って「♪ララララー…」と観客にシンガロングを促し、観客は大合唱で応えた。それはDarksideが終わり、懐かしい過去を背負いながら、新しいBABYMETALが誕生したことを宣べしらせる光景だった。
2日間のフィナーレは14曲目「Road of Resistance」。
前奏に続いて現れた三人が持つのは、懐かしのBABYMETALロゴ旗。棒の角度のそろい方は、必死だった昨年の四人体制、七人体制に軍配が上がる。だが、なんといっても三人組ポニテ・ツインテのBABYMETALがこの旗を担いでいるのを見るのは、ファンにとって大きな喜びだった。
「♪Woh Woh Woh Woh」のシンガロングで花道を進む三人。前日の鞘師里保も笑顔を振りまいていて感動したが、藤平華乃も初めて本物のBABYMETALの一員としてライブを無事終えた喜びを全身で発散させていた。
MOAも笑顔にあふれる。SU-は、島舞台、下手、上手の順に「We are?」と叫び、観客席は「BABYMETAL!」と叫ぶ。最後にステージ正面で「We----ar---e?」「BABYMETAL!」の応酬があり、「Get you FOX Hands U---p!」に応えて観客全員がキツネサインを掲げたところで、特効の爆発音。2日間のライブを終えた。
終演後、前日の「新たなるお告げ」に加えて、大スクリーンには最後に、「20201010」という文字が現れ、そこにBABYMETALのロゴが重なった。
これこそ、現在情報が途切れたままになっているBABYMETAL結成10周年記念の「METAL RESISTANCE Episode X」に他ならなかった。
(つづく)