ISAO&星野沙織『soLi』 | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ
本日2月19日は、2016年、「Metal Resistance」の曲目・アートワークが発表され、2020年には、UK・グラスゴー公演(開演19:00)が行われる日DEATH。なお、9時間の時差とOAのためBABYMETAL登場は、日本時間2月20日05:00頃と推定されます。

これもまた、凄いアルバムである。Djentな8弦ギターの使い手ISAOと、クラシックヴァイオリンのテクニシャン星野沙織という現代日本を代表する弦楽器の二人のソリストがデュオを組んだ。


メタルギターとヴァイオリンが、とんでもない速さで絡み合い、重なり合い、美しく、かつスリリングなハーモニーを響かせる。それを支えるドラムスはブラスト・ビート。つまり、このアルバムのフォーマットは、パワーメタルなのである。
いや、あえてそう聴く必要はないかもしれない。ぼくの考えでは、クラシックの楽曲の中には魂を震わせるロック衝動に満ちた曲があり、楽器構成を変えただけでメタルになってしまうものもある。
だからネオクラシカルメタルというサブジャンルが存在するのだし、このアルバムをクラシックと考えたっていい。数百年後の世界では、エレクトリックギターだって古典楽器だ。
要するに、凄い演奏の前では、ジャンルなんてどうでもいいのだ。
能書きはこれくらいにして、楽曲を解説してみる。( )内はISAO、星野沙織以外のミュージシャン。

1.Opening Gambit(ドラムス:原澤秀樹、ベース:BOH)
シンセサイザーのループ音が響く中、星野沙織の美しいメインテーマのメロディに続いて、いきなりISAOの速弾きギターが入り、パワーメタル空間に変わる。魂をわしづかみにされ自然に「ええぞ!ええぞ!」というオジサン的感想が漏れてしまう。ISAOの上行する速弾きに同期して、星野沙織のヴァイオリンが下降し、絡み合う。
2.Burning Blood(ドラムス:原澤秀樹、ベース:BOH)
短いイントロに続いて、いきなり2ビートの疾走が始まる。目に浮かぶのは宇宙空間かバトルフィールドでの戦闘シーン。星野沙織はあくまでも美しいテーマを弾いているのだが、そこに絡むISAOのリフは歪んでおり、時折入るブリッジは暴力的なほどの速さだ。ピチカートを挟んで、疾走空間は続き、そのまま曲が終わっても、おそらく戦闘はまだ続いている感じ。
3.Behind U!(ドラムス:前田遊野、ベース:瀧田イサム)
ブルージィなISAOのリフで始まり、そのまま曲のモチーフにつながるが、ドラムスが前田遊野に代わり、途中、変拍子になる。星野沙織のヴァイオリンはブルースフィドルのような奏法が用いられ、アニメの世界のようなお祭り空間になる。ISAOは時折ピッキングハーモニクスで茶々を入れるが、星野沙織は動じず、最後までファニーな演奏を貫き通している。
4.Mirror’s Nest(ドラムス:前田遊野、ベース:瀧田イサム)
エレピのアルペジオに、美しいヴァイオリンのテーマが奏でられるが、ISAOが入ってくると8ビートのドラムスにロックのリフとなる。だが、サビに入るとISAOも美しいメロディを「こだま」のように奏でていく。2度目のサビのあとは、おそらく瀧田イサムによるベースのボウ弾き=コントラバスも加わりドラムスとヴァイオリン、コントラバスの弦楽空間に変わる。
5.Der Baum(弦楽四重奏団)
この曲は、ドラムス、ベースが入らず、星野沙織を中心とした弦楽四重奏団+ISAOという構成の曲である。まとわりつく襞のように濃密なクラシック空間。ISAOは、エフェクターはディレイだけというシンプルな機材で、演奏技術を駆使し、空間に音を散りばめるコンチェルトの一員という立場を崩さない。すばらしい完成度。
6.The Flamer(ドラムス:前田遊野、ベース:瀧田イサム)
ビリビリと響くベースファズのリフで始まる。BOHの新兵器「龍之栖」(りゅうのすみか)かと思ったら、この曲のベースは瀧田イサムだった。ISAOと星野沙織によるリフから、どっしりしたビートが2倍速になると、ISAOが中東テイストのテーマを弾き、そこへ星野沙織が絡む。
ヴァイオリンもギターももともとは中東発祥の楽器である。ソロに入ってもISAOはアラビアンスケールを貫き、星野沙織の奏でるヴァイオリンもエスニックな情緒を醸し出す。
終盤、ISAOによる超速弾きに、星野沙織がゆったりしたテーマを返し、曲が終わる。
7.Plasma(ドラムス:原澤秀樹、ベース:BOH)
速弾きといえばこの曲だろう。美しい曲想は一貫しているが、曲の背骨になっているISAOが創り出したリフは、キーボードかと思わせるようなDjentな速弾きによるもの。
ドラムスの原澤秀樹の叩き出すブラスト・ビートに乗って、星野沙織がメインテーマを弾き、曲が進む。ISAOの速弾きに対して、星野沙織も美しい音で絡んでいく。二人の卓越した演奏家は、全く違うフレーズを弾いているのに、そこに見事なハーモニーが生まれる。
一瞬たりとも聴き逃せない。
8.Quiet Walz(ドラムス:前田遊野、ベース:瀧田イサム)
タイトルから、静かな曲をイメージしていたのだが、前田遊野のドラムスはパワフルで、ISAOの奏でるギター、星野沙織の奏でるヴァイオリンは情念が迸る演奏である。後半は6拍子の雰囲気になり、ISAOの超絶的な演奏に星野沙織のすべてを包み込むようなメロディが重なる。
9.the Tower(ドラムス:原澤秀樹、ベース:BOH)
幻想的なピアノのアルペジオから、正真正銘の6拍子のビートに乗って、ドラマチックな輪舞曲が始まる。映像的にはファンタジックな塔へ向かう冒険者たちといった雰囲気。途中、ISAOと星野沙織の二人だけになる瞬間があり、そこからドラムス、ベースが入って連続3連符の「キャプチュード」(前田明のテーマ)のリズムで進軍が始まる。
とはいえヴァイオリンが入ると、ロマンチックでクラシカルな雰囲気は崩れず、最後には塔を征服した歓喜の長調に転調して大団円を迎える。

『soLi』も、インストゥルメンタル・アルバムであり、人の代わりに楽器が思う存分歌っている。
歌詞はない。タイトルがヒントになるくらいだが、ひとつひとつのフレーズに込められたプレイヤーの気持ちやコード進行、リズムの変化などの編曲の妙が、ぼくらの脳が本能的に持っている「普遍音楽文法」を刺激し、さまざまな感情が伝わってくる。
何度もいうようだが、これほどの演奏家をバックバンドにするBABYMETALの贅沢さと、そのご縁で、こんなにも凄いアルバムを手にできることに感謝したい。