メタルファンタジーとしてのPV(8) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日123日は、2017年、ファンサイトThe Oneの登録と、The One限定東京ドームBDCDセットの予約販売が開始され、購入者限定エクスクルーシブイベントOnly the Five Knowsのエントリーが開始された日DEATH

 

Within Temptationのシャロン・デン・アデルや、Evanescenceのエイミー・リーは、バンドを始めた当初からメタルディーバとして出発したし、Arch Enemyのアンジェラ・ゴッソウやアリッサ・ホワイト=グラズは、「女性なのにデス声」が売りである。

一方、In This Momentのマリア・ブリンクは、2005年のデビュー当時には、オルタナティブメタルを歌うブロンドのカワイ子ちゃんを演じていたが、2012年の『Blood』からガラリと変わり、現在は脂っこいほどの「魔女」を演じている。オルタナティブな価値観の訴求という意味では変わらないが、よりエクストリームな表現者へと「成長」したともいえる。

その意味で、音楽性はともかく、アーティストの軌跡という点では、BABYMETALIn This Momentに近いところにいるのかもしれない。

もちろん「脱Kawaiiメタル」するにしても、BABYMETALOnly Oneである。

そもそもBABYMETALの音楽性は、他の女性ボーカルメタルバンドとは全く違う。

ハードコア(「ギミチョコ!!」)、デスメタル(「BABYMTAL DEATH」)、Nu-メタル(「いいね!」「おねだり大作戦」「GJ!」)からメロスピ/パワーメタル(「イジメ、ダメ、ゼッタイ」「Road of Resistance」「Amore-蒼星-」)、ジャパメタ(「紅月-アカツキ-」)、和風メタル(「メギツネ」)、フォークメタル(「META!メタ太郎」)、ジェント(「Distortion」「Starlight」)まで幅広く、その多様性と、ダンスをメタルに取り入れたという点が、その他の女性ボーカリストのメタルバンドとは一線を画している。

そして、デビュー時にローティーン=Kawaiiメタルだったメンバーが、世界市場に進出し、「成長」していくのを愛でるファンの「親目線」という、日本のアイドル文化を体現しているところも、従来のロックバンド、メタルバンドとの大きな違いだろう。

もっとも、これについては日本のアイドル文化が発祥というわけではない。

ビートルズに熱狂的ファンがいるように、欧米でもバンドのメンバー変遷史というより、初期メンバーの個人史を追っていく「マニア」的なファンの在り方がある。

日本のアイドル文化は、それを定式化したのだと思う。

しかし、ファンでない人にとってはどうでもよいメンバーの生育歴や、服装や食べ物の好みを限りなく愛しいものに思い、訪れた場所や、ジャケ写を撮った場所を「聖地」として崇めるという心理は、いったい何なのだろうね。

ぼく自身も、海外にフェスやライブを見に行くだけでなく、目黒鹿鳴館周辺とか、明和電機とか、阿佐ヶ谷神明社とか、渋谷のアミューズ本社とか、広島ASH前のバス停とか、お好み焼き厳島とか、ロンドン・アイとか、WEMBLEY ARENAとか、アビーロードスタジオとか、ラスベガスのFonda Theatreとか、デトロイトのThe Filmoreとか、とにかくメンバーがいた「その場所」に立ちたいという衝動に駆られて、行ってしまったクチである。キモチワルイよね。

これまで、色んな歌手やバンドを好きになってきたが、いい歳こいたオジサンになって、メンバーゆかりの場所に立ってみたいと思うほど好きになったのは生まれて初めてなのだ。自分でも、どうしてここまでBABYMETALが好きなのか、わけがわからない。

それはともかく、BABYMETALは、楽曲の多様性、ダンスの導入、「成長」を見守るという点が、他の女性ボーカリストメタルバンドとは大きく異なる。

前回書いたように、PVが、歌い演奏するバンドの訴求媒体というより、生身の生きざまが反映された物語になっているというのも、BABYMETALが「成長」を見守るバンドだからだろう。

Starlight」も「Distortion」と同じく、メンバーは登場しない。

「♪ララララララ…」という牧歌的なコーラスが流れる中、夜空に輝く大きな星と無数の星の映像から一転して、モノクロームの曇天の下、荒野を呆然と彷徨っているような東欧風の民族衣装を着た真ん中分けの女性(外人モデル)。

ジェントのリフに続いて、ブラストビートが始まる。楽曲は超カッコいい。

歌詞は「♪時を超えて解き放てFar away」「走り続け遥か彼方Run away」「♪AhHigher in the lightAhHigher in the sky」「♪StarlightStarlight、光照らすその先へ。」

荒野にはブロンド短髪のダンサーや、上半身をはだけた男性ダンサーもいる。彼らは、灰色の荒野で、踊り、走り、跳躍する。黒い雲に覆われた天に向かって大きく手を広げ、叫ぶ。

ときおり、「Distortion」に出てきた廃墟の街や勇者たちも、フラッシュバックのように挿入される。白骨化した鹿のマスクをかぶった者、熊皮をまとった者、編み笠をかぶった求道者、大きな翼と角を持つ堕天使…

要するに「Distortion」の世界観を延長したのが「Starlight」のPV世界なのである。

だが、戦いはまだ終わっていなかった。Distortion」で倒したはずの理不尽な現実=巨大な怪物は、運命という名の不可視の魔物に変わっていた。

このPVがアップロードされた日、YUIMETALの脱退が発表された。

2018年の前半、藤岡神の逝去とYUI休演という状況の中、5月からのUSツアー、6月からのヨーロッパツアーを、BABYMETALDarksideの新ロゴ、新コスチューム、MINAKOMINAMIの両ダンスの女神の力強い参加を受けて、何とか乗り切った。

しかし、待望の日本ツアー直前、体調が回復しなかったYUIMETALは、メッセージを残して脱退してしまった。

ファンに向けて書かれた生身のYUIの文章に触れるのは、さくら学院日誌以来だったかもしれない。

手書きでなくても、そこには彼女の「声」があった。

「何度も考え直した」というフレーズも、「今も体調が万全でない」というフレーズも、「ごめんなさい」というフレーズもあった。

それが、すべてである。

YUI脱退に関して、SU-MOAの公式なコメントは現在に至るまで一切ない。

だが、「Starlight」を見れば、彼女たちの思いが伝わってくる。

あのPVが、藤岡神の逝去に続き、YUIMETAL脱退という絶望的な事態の中で、それでも走り続けるという覚悟を表現したのでなければ、何だというのか。

思いを託された登場人物たちは、モノクロの荒野で叫び、激しく踊る。

どうにもならない悲しみと、次々に襲い掛かる運命への怒りと、激しい感情を込めて。

一瞬、モノクロームの空を大きな白い鳥が飛んでいく。日本では古来、白鳥は死者の魂を象徴する表現だ。

そこにかぶさる「♪ララララララ…」というコーラスは、藤岡神への惜別の鎮魂歌であり、その素朴なメロディは、かつて幼かった三人が仲良く遊んでいた姿を思わせもする。

「♪Wherever we are, we’ll be with you. We’ll never forget shining starlight」(どこにいようと、私たちはあなたとともにいる。私たちは決して輝く星を忘れない。)

「♪Wherever you are, you live in my heart. We’ll never forget shooting star」(あなたがどこにいようと、あなたは私の心の中にいる。)

ラストシーンに輝く大きな星は、メタル銀河の彼方から、BABYMETALの行く末を優しく見守る、本当の神様になった藤岡神である。

空に広がる無数の星は、メタルの先人たちをあらわすとともに、東京ドームで、巨大キツネ祭りで、広島で、観客席がメタル銀河とオーバーラップしたように、ぼくらファン一人ひとりの思いでもある。

曲が終わり、モノクロのまま、遠くを見つめてアップになる二人を、SU-MOAだと思わない人はいないだろう

満天の星は、まだ夜は明けないが、空が晴れ渡ったことを示している。

最後のシーンで、二人を先頭に、星に導かれ、荒野に向かって歩き出す七人のガウンは、赤い色を取り戻す。

戦い続けるなら、世界は終わらない。新たな地平線に向かって、BABYMETALは再び歩き出す。それがこのPVの意味だろう。

こういうことは、BABYMETALの歴史や、藤岡神の逝去~YUI脱退までの経緯を知らない人には、さっぱりわからないかもしれない。

だが、その説明不足な感じがまた、BABYMETALの魅力でもある。

一般的なPVは、メンバーが出演して演奏や歌を聴かせ、歌詞のメッセージを映像で表現することによって、バンドの魅力を訴求し、CDやライブチケットのセールスにつなげるのが目的である。

しかし、BABYMETALPVは、BABYMETALという生身の存在を、ファンタジー=現存する神話として表現することが目的なのである。ファンタジーでありながら、リアルな現実を表現しているといってもいい。

Starlight」のラストシーンに「To be Continued…」(つづく)という文字はない。

だが、間違いなくこの物語には続きがある。

Chosen 7体制のまま行くのか、誰かが正規メンバーに昇格して、新三人組になるのか、それとも正八面体が意味するように、もうひとり新たなメンバーが加わるのか。

あるいは、7月のMOAMETAL聖誕祭を機に、ツインゴッデスになるのか。

SU-MOAの二人組になったBABYMETALが、かつての三人組以上の魅力を打ち出すには、MOAのシグネチャーボイスを生かしたツインボーカル体制がいいのではないかとぼくは思っている。すでに「GJ!」はMOAのソロ曲となった。女性ボーカリストが二人いるメタルバンドは、世界的にも珍しい。

新生BABYMETALの全貌が明らかになるのは、今月中なのか、4月なのか、それはOnly The Fox God Knowsであり、ぼくらは待つしかない。

だが、真っ赤なガウンをまとったBABYMETALが、輝く星に導かれてメタルの荒野を歩き始めていることは確かである。

(この項、終わり)