メタルファンタジーとしてのPV(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日122日は、2017年、Guns N’ RosesSupport Actとして、神戸・ワールド記念ホールに出演した日DEATH

 

さて、肝心のPVの中身である。

BABYMETALの最新スタジオPVは「Distortion」と「Starlight」である。

ここには、SU-MOAも出てこない。

演奏する神バンドも出てこない。

だが、凝ったコスチュームの外国人モデル/ダンサーを演者として、廃墟や荒野を舞台に、走り、飛び、戦う神秘的な映像のクオリティは高い。

ここで表現されているのは一体何なのだろう。

Distortion」の舞台は、廃墟のようなビルが立ち並ぶ街である。

廃墟や、内戦で炎上した市街、核汚染で荒廃したコンビナートといった舞台設定は、これまで見てきたように、岩山や荒野と並んで、メタルバンドのPVの常套手段である。

普通は、そこでバンドが演奏し、女性ボーカリストが歌い、煽ってメッセージを伝えるのだが、「Distortion」では、ペプシコーラCMの「鬼」を思わせる巨大な岩のような怪物が暴れまわる中、奇抜なコスチュームをまとった7人の勇者が現れ、空を舞い、水を操り、火球を放射する。

ファンは、動画がリリースされた直後、これがSU-、これがMOA、これがYUIと見当をつけていたが、World Tour 2018が始まってみるとYUIは不在で、SU-、MOAのコスチュームも、PVとは似ても似つかなかった。キャラクターをメンバーに比定するより、動画そのものがChosen 7Darksideというテーマになぞらえた、楽曲世界を表現する心象風景と考えた方がよさそうだ。

「♪歪んだカラダ叫びだす…」「♪偽善者なんてKill 捨てちまえよ」「キタナイセカイだった」「このセカイが壊れても」という歌詞から、ぼくがイメージするのは、「世界が終わっても私たちは戦い続ける」というメッセージだ。

なぜ、廃墟や終末世界がメタルのテーマになるのか。

身もふたもない言い方をすれば、それが幸せな幼年期を脱し、厳しい現実に直面した若者、あるいは希望を奪われ、失意の底にある人間の心に映る世界の姿だからだ。

メタルバンドとは、絶望の中にある者の代弁者として、現実を断罪し、怒りや悲しみをぶちまけ、オーディエンスの負の感情に深くシンクロする存在である。

アイドルが、元気いっぱいの笑顔で聴く者を励ますように、メタルもまた爆音のカタストロフィーで、聴く者を慰め、癒し、立ち上がらせるのだ。

メタルバンドが廃墟や荒野で演奏し歌うのは、そこがオーディエンスの心の風景だからだ。

だが、「Distortion」では、バンドが演奏し、歌姫が歌ってメッセージを伝えるのではなく、抗いがたい理不尽な現実が、巨大な怪物に具象化され、「戦い続ければ世界は終わらない」というメッセージが7人の勇者たちに仮託されている。

要するにあれは、新しい「紙芝居」なのではないか。

2012106日のLegend “I”の紙芝居は、「昨今、世界は巨大勢力アイドルの圧倒的な魔力によって支配され、メディア・政治・経済を含む全てがアイドルに牛耳られていた。アイドルソング以外の音楽は全て有害とされメタルもその例外ではなかった。」で始まる。

それに対して立ち上がったのがBABYMETALMetal Resistanceであるという「設定」だった。

だが、壮大なテーマに反して、「紙芝居」の画調はヘタウマであり、あくまで「設定」であることは明白だった。特にYUIMOAが「スネーク」の「チェケラッチョコ」にたぶらかされてBLACK BABYMETALに変身してしまうくだりは、ほとんどギャグみたいなものであった。

だが、生身のSU-、YUI、MOA歌唱、ダンス、演奏は、「アイドル離れ」しており、Metal Resistanceは現実に大成功する。BABYMETALは日本の「アイドル」界を飛び越えて、世界的メタルバンドとなった。

そしてワールドツアーを転戦する中で三人は成長し、「設定」ではない、現実社会にある本当の矛盾やゆがみを知ることになる。

過酷なツアーのさ中に、経済的な不平等や、戦争や政治の問題を知って、考え込むことがあったかもしれない。2016年から2017年にかけて、北朝鮮はミサイルをバンバン打ち上げていた。

いろいろなアーティストの人生ドラマや人間関係の問題を見聞きしたかもしれない。メタリカ、ガンズ、レッチリの波乱万乗のバンド人生にも直接触れた。

けらけらと笑っていた無邪気な小中学生時代はあっという間に過ぎ、誰もが、大人になる過程で、見たくないものを見てしまう。

実際に1年前、三人は予想だにしなかった藤岡幹大氏の急逝という事態に直面した。

現実が思いどおりにならない以上、人はそれと向き合わざるを得ない。自分の限界を思い知らされ、落ち込むこともあるだろう。何もかも投げ出したくなる時があるだろう。だが、そこで逃げずにかすかな光を見出し、乗り越えていけるかどうかが、人間の価値を決める。

今思えば、「Distortion」が突如リリースされた時期、YUIは復帰できる状態ではなかった。

2016年の「KARATE」のように、SU-YUIMOAの三人がそろって、ドラマ仕立てで「絶望と戦う」映像を撮影できるはずがなかった。だが、世界中のBABYMETALファンが、藤岡氏の逝去を悲しんでいるとき、「世界は終わらない!」「私たちは戦い続ける!」と訴えることは、BABYMETALがまさにBABYMETALであることの存在証明だった。

生身のメンバーではなく、アニメのような7人の勇者たちに自分たちの意志を仮託した理由は、そういうことだとぼくは思う。

強烈な個性とグラマラスな肉体を持つ“強い女”であるメタルディーバとは違って、放つオーラは激しくてもまだまだ幼く見えるSU-と、芯は強くても盟友を失った悲しみを笑顔に隠すMOAの苦闘に、次々に勇者たちが戦列に加わり、理不尽な現実という巨大な怪物を、心を一つにして倒す。

これは、World Tour 2018で、実際に起こったことそのものではないか。

アメリカとヨーロッパツアーでは、神バンドにISAO神が加わり、MINAKOMINAMIの各ダンスの女神が加わった。

日本ツアーでは、SAYAKOTONOSHOKOの各ダンサーが加わってくれた。

Darknight CarnivalではドラマーEIJI神が加わり、Galactic EmpireSABATONがMETA!メタ太郎」で共演してくれた

さらにはシンガポール&オーストラリアツアーでは、頼もしき新ギタリストYUSUKE神が加わってくれた。

ひとりでは立ち向かえない強大な敵に対しても、勇気と知恵と献身的なチームワークで戦い抜く。そしてその戦いを通じて、ひとりひとりが成長していく。これぞ、日本のコミックやロールプレイングゲームやアニメの大テーマであり、なんなら日本人の国民性そのものではないか。

かつての「紙芝居」が、「設定」を乗り越えて、現実を変えてしまったように、「Distortion」も、理不尽な状況と戦うBABYMETALが、7人の勇者に仮託して、現実を乗り越えるPVなのだ。

それは、廃墟や荒野で歌い演奏するメタルディーバのメッセージ性とは一味違う。

アニメのように見えても、実は、より現実とリンクした生身のBABYMETALの「世界の終わりに生きること=戦い抜くこと」というメッセージが含まれているのである。

(つづく)