メタルファンタジーとしてのPV(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日119日は、1981年、藤岡幹大神が誕生した日で、2019年は洲本市文化体育館にて、第2回「My Little God」ライブが行われる日DEATH

 

20174月に、レッチリとともにBABYMETALも訪れた米アーカンソー州リトルロック出身のEvanescenceは、女性ボーカリスト、エイミー・リーを擁するゴシックメタル/オルタナティブメタルバンドである。

2003年のデビューアルバム『Fallen』のリードシングル「Bring me to life」が、映画「デアデビル」の主題歌となり、いきなり全世界1400万枚の大ヒット。グラミー賞の最優秀新人賞と最優秀ハードロック・パフォーマンス賞を受賞した。

エイミー・リーと中学時代に出会い、バンド結成のきっかけとなったベン・ムーディ(G)をはじめ、メンバーは次々と変わっていくが、エイミーは現在に至るまで、一貫してEvanescenceのフロントマンであり続けている。

2006年のセカンドアルバム『The Open Door』は、ビルボード200で第1位を獲得。

2011年のサードアルバム『Evanescence』も引き続き第1位。そこに所収された「Never Go Back」は、東日本大震災をテーマとした曲だった。

配信のみのコンピレーションアルバム『Lost Whispers』(2016年)を挟んで、最新のスタジオアルバムは201711月リリースの『SYNTHESIS』はビルボード8位で、フルオーケストラを帯同したワールドツアーのライブを収録したDVD/Blu-RaySYNTHESIS Live』が201812月にリリースされている。

エイミー・リーは2017年からソロ活動も始めており、「LOVE EXIST」、「SPEAK TO ME / THE FILM, VOICE FROM THE STONE」の2曲の配信シングルをリリースしている。

さてEvanescencePVだが、そこに岩山や荒野は出てこない。

代表曲「Bring me to life」(UL2006/01/21)は、ゴシック風の古いビルの一室で眠っているエイミーが、ネグリジェ姿のままビルから落ちていく悪夢にうなされているところから始まる。リフが始まると、エイミーは夢遊病のように窓からビルの外に出て歩き始め、冷え切った夫婦の部屋やピエロが乱痴気騒ぎをしている部屋、孤独な男の部屋など、外から室内の様子を眺めていく。上の階ではバンドが演奏しており、足を滑らせて落ちそうになったエイミーを男性ボーカリストが助けようとするが、結局悪夢どおり、エイミーはビルから落ちていくというプロット。

夜のゴシック風ビルでバンドが演奏しているといえば、シャロン・デン・アデルを擁するオランダのシンフォニックメタルバンドWithin Temptationの「Stand My Ground」(2009/10/27UL)もそうなのだが、こちらは中世の巻物の映像がカットインしたり、神殿にペンダントをはめ込むと「秘密の書」がせり上がってきたりといった凝った作りになっているので、あとでまた触れたい。

Evanescenceの場合は、こういうゴシック風のギミックを使わず、あくまでも現代の都会に潜む悪夢とか、衝動みたいなものがテーマになっているようだ。

同じく2003年の『Fallen』 に収録された美しいピアノバラード「My Immortal」のPV2009/12/02UL)は、ヨーロッパ風の路地をそぞろ歩くベン・ムーディと、屋根の上で寝たまま歌うエイミーのモノクロ映像が中心。

2006年の『The Open Door』収録の「Lithium」(2009/12/02UL)は、エイミーが雪の森の中でピアノを弾くところから始まるが、歌に入るとエイミーはやっぱり寝たまま、誰かを思って歌っている。エイミー寝てる率、高し。

ちょっと戻るが2003年の『Fallen』 収録の「Going Under」(2009/12/02UL)は、水の中を白い服のまま泳ぐエイミーの映像を挟みつつ、メイクをする大勢の女性が白眼の魔女に変わったり、ベン・ムーディにインタビューする記者たちの顔がガーゴイルに変わったり、ついには観客も悪魔に見えてしまうという映像。これはいきなり世界的スターになってしまった彼らの心象風景なのだろう。

同じく「Everybody's Fool」(2009/12/02UL)も、シリアルのCM撮影でカワイ子ちゃんを演じるエイミーが、楽屋や自宅でフードを被り、心を病んでいくというプロット。

要するに、Evanescenceないしエイミー・リーのメタルとは、現代に生きる者の心の歪みを表現する手段なのだ。

病んでいるから寝ている。自室に引きこもり、寝そべったまま歌うのである。

エイミー・リーの夫はセラピストであり、「Bring me to life」は彼にインスパイアされて書いたと言われる。

若者特有の不安感や焦燥感を退廃的な曲調で表現するオルタナティブ・ロックのテーマを、女性ボーカリストのメタル(ゴシックメタル/オルタナティブメタル)という手法を使って表現したのが、Evanescenceなのである。

2006年の『The Open Door』収録の「Good EnoughPV2007/09/13UL)は、古き良きアメリカの部屋でピアノを弾くエイミーの回りの小物が、時間とともに変形し、炎上してしまう。そこへ雨が降って来て火を消す。さらに時間はどんどん経っていき、最後には植物が生え、青い花を咲かせる。それを「I feel good」だと歌うのだ。

2011年の『Evanescence』収録の「What You Want」(2011/09/13UL)になると、夜の大都会、地下のクラブで演奏するバンドと観客という映像で、歌詞の内容も「あなたのやりたいことをやれ」というポジティブなものに変わる。

同じく「My heart is broken」(2012/01/23UL)では、やっぱり曲の始め、エイミーは寝ているのだが、衣装は19世紀風のドレスであり、場所は都会ではなく、枯れた草原や、その中にあると思われる昔の建物に変わっている。そこでエイミーは光を集めて星を作り、最後には鏡を割るところで終わる。

オルタナティブ・ロック的な主題から、神秘的な「治癒」としてのゴシックメタルへ。

1981年生まれのエイミー・リーは、貫禄こそついたが、40歳近くなった現在でも、その歌声は澄み切っている。

2018年の『SYNTHESIS』ライブにオーケストラを導入する意図や苦労について、YouTubeにアップされた『EVANESCENCE - Inside Synthesis』で、エイミー本人が語っている。

技術的に乗り越えねばならないことは多かったそうだが、やはりオーケストラの持つ、人の心を揺さぶる力を楽曲に導入したかったとのこと。

ツアーのセットリストでは、「Overture」に続いて2曲目が東日本大震災をテーマにした「Never Go Back」だった。

2003年、22歳でいきなり世界的な歌姫になってしまったエイミー・リー。

過酷なツアーや多忙なスケジュールやバンドの人間関係で、心を病みそうになったときもあったかもしれない。だが、彼女はそれを乗り越え、一貫してオーディエンスの心を解き放つ表現者であり続けている。

Evanescence同様、若くして世界にその名をとどろかせるBABYMETAL

ツインディーバ体制になった今、表現しようとするのは、何だろうか。

(つづく)