山口真帆事件に思う | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日115日は、2016年、2nd アルバムのタイトルが『Metal Resistance』であると発表された日DEATH

 

NGT48の山口真帆さんが、自宅前で「ファン」と称する男たちに待ち伏せされ、暴行を受けた事件が明るみに出て、地上波、ネットともさまざまな意見が出ている。

色々見てみたが、論点の中心は、1)運営の実務上の問題点と、2)事件に関与したメンバーの処分の可否という2点にしぼられるように思う。

まずもって、今回の事件は、憧れと現実の区別がつかなくなってしまったストーカー気質の男たちによって起こされたものであり、NGT48の大多数のファン、AKB48グループ、「アイドル」ファン全体がそのような目で見られることはあってはならないと言っておく。

その上で、ぼくはやはり、運営の実務的な問題、メンバーのプライバシー管理の問題という以上に、この「会いに行けるアイドル」というコンセプトないしシステムに、根本的な問題があるという持論を展開せざるを得ない。

実際に事件が起こったのは昨年128日午後9時ごろ。自宅前にいた男たちが、山口さんの顔をつかむなどしたというが、山口さんが激しく抵抗したので、逃走したという。

山口さんの通報を受けて、男たちは翌9日、新潟県警に逮捕された。おそらく顔見知りだったのだろう。でなければすぐに特定できるはずがない。だが、男たちは1228日に不起訴処分となった。

これが公になったのは、約1か月後の今年19日、山口さんが自身のツイッターでツイートしたことによるもの。ツイートの動機は、この間NGT48運営が、本人が要求した処分や対策を怠っていたことを受けてのものだということだった。

110日、NGT48劇場での「NGT483周年記念公演」に山口さんは出演し、「世間をお騒がせしたこと、関係者に迷惑をかけたこと」への謝罪を行った。

NGT48運営がコメントを発表したのはその後のことで、昨日14日になってAKBグループ全体を統括・運営するAKSの責任者が謝罪するという後手後手に回った対応だったため、タレントの安全管理に関する運営の杜撰さが、またも浮き彫りになった。

本人のツイートには、当初、NGT48のメンバー複数が、「ファン」の男たちに山口さんの帰宅時間や自宅の場所を教え、「直接会う」することを示唆していたらしいことが書かれ、事件後、それを運営に伝えたのに、該当メンバーへの処分・解雇が行われないことへの不信感もつづられていた。

しかしAKSは、「メンバー内に違法行為をした者はいない」として、事件に関係した処分・解雇を行わないことを表明しつつ、「第三者委員会」による真相究明と、NGT運営責任者の交代を発表した。

このことから、同僚のプライベート情報を「ファン」に漏らしたメンバーが処分されないのはおかしいという声も上がっている。

一方、当該メンバーが「ファン」と親しかったのは、その「ファン」が、NGT48草創期から熱心に応援する固定ファンの「Z会」と称するグループで、運営側がメンバーに、チケット、グッズ、選挙対策等の営業面から、「Z会」グループと親しくするよう指示していたとの情報もある。

「上司」である運営の暗黙の了解の内に、当該メンバーが「Z会」の「ファン」と気安く話していた中に、山口さんのプライベート情報も含まれていたとすれば、重大なプライバシー漏洩であるが、少なくともこんな事件が起きることを予見できなかったという事情もあるため、該当するメンバーがいても、処分すべきではないという意見もあるようだ。

なお、通信添削・学習塾経営の企業「Z会」は15日、「NGT48の「ファングループ」の「Z会」は、当社とは一切関係ありません」という異例の記事をリリースした。

「アイドル」が、運営のユルさから危険な目に合う事件は、これで何度目だろうか。

このブログでも何度か取り上げたが、「会いに行けるアイドル」というコンセプトは、80年代のアイドルとは決定的に違う。

80年代のアイドルは、コンサートで歌い踊り、楽曲をヒットさせるのが仕事で、コメディアンに交じってコントを演じ、親しみやすさをアピールすることはあっても、決してプライベートを露出しないのが不文律だった。賛否両論あるが、ファンクラブのコアには「親衛隊」がいて、不埒なファンが出ないよう、統制していた。

しかし、現代の「会いに行けるアイドル」は、ライブで楽曲を歌い踊り、地上波で「バラドル」的に扱われるほかに、「お見送り」や「握手会」「撮影会」などをこなしつつ、「選抜」に入るためのプレッシャーに晒され、ファンの「疑似恋愛対象」を演じることが仕事になっている。「親衛隊」のようなファン統制組織は、「会いに行けるアイドル」のコンセプトに反するので、存在しない。

もし、NGT48の運営が、営業成績を上げるために、メンバーに「Z会」のファンとのプライベートな付き合いを奨励していたとすれば、それはもうキャバクラの「同伴」「営業」と変わらない。

「アイドル」といい条、ここまでファンとの敷居が低くなってしまえば、もはや歌手ではなく、接待業である。18歳未満あるいは高校在学生に接待をやらせるのは、風営法違反である。営業のために、「客=ファン」と喫茶店に行くのも、ボーリングするのも接待だからね。

接待の定義はこちらhttps://ja.wikipedia.org/wiki/接待

自分の部屋にあるテレビの中の有名人は、どうしたって身近に感じる。

ごく少数だが、彼我の「距離」を正常に測れず、ストーカーになってしまうバカが出ることは、統計的に避けられない。

その「距離」をさらに縮めようとしたのが、常設劇場を持つ「会いに行けるアイドル」なのだから、こうした問題が発生するのは、ある意味必然である。だからこそ、スタッフがタレントを自宅や寮まで送迎するなど、防犯、安全対策が必須なのは子どもでも分かる。

人気者になれば、メンバー一人ひとりにマネージャーが付き、外出先や自宅までエスコートするというのが、本来のアーティストの扱いだろう。ファンは時として危険だからである。プライバシーが極秘にされるのも当然である。

BABYMETALでは、メンバーがプライベートにSNSに書き込むことも制限している。

それはこうした事情によるもので、メンバーが表現者としての自己責任でやり始めるまで、待つことはちっとも苦にならない。そもそも、音楽性とプライバシーは無関係である。

ぼくは表現者としてのアーティストに惹かれるのであって、SNSで、飯食った洋服買ったというプライバシーはあまり興味がないな。オジサンだからかもしれんが。

音楽性や楽曲に関係ある日常生活のエポックやエピソードは、SNSでなくても、楽曲解説やインタビューで語られるものだ。

要するに、「会いに行けるアイドル」は、アーティストとして扱われていないのだ。

ここに本質的な問題がある。

「推し」ファンを獲得するため、「握手券」を売るため、むやみに1グループのメンバーの数を増やせば、運営が責任をもって所属タレントの安全対策を行うことは、物理的に不可能になる。

指原莉乃が「ワイドナショー」(2019113日放送分)で語ったところによれば、現在62名のメンバーがいるHKT48で、運営に当たるスタッフは8名だという。

そんな環境で、ファンの「推し」感情を強めるべく、メンバーを選挙で競わせるというのは、どう考えてもシステムそのもの、コンセプトそのものが間違っているのだ。

そもそも、大勢の中から客の「指名」によってセンター=No.1を決めるというのは、何のことはない、昔からあるホステスやキャバクラのシステムだ。

それは接待業の世界で生きる覚悟を決めた女性同士の小世界における「戦い」である。

だが、年端もいかない「アイドル」志願の少女たちが目指すのは、ヒット曲を歌う人気歌手であって、グループ内にそんなものを持ち込むのは、ルール違反だ。

だが、世の中、正義が正しいとは限らない。

「会いに行けるアイドル」は、「疑似恋愛対象」の敷居を低くしたという意味で、アイドルファンにウケたのだ。

AKBグループの総合プロデューサーである秋元康は、今回もまたAKS責任者の松村匠氏に、「君が(運営の)責任者なんだから、経験もあるわけだからしっかりと考えなさい」と言っただけだという。

しかし、この言葉はむしろ秋元康自身にこそ言うべきだろう。

「君が(運営の)責任者なんだから、経験もあるわけだからしっかりと考えなさい」と。

もっとはっきり言えば、「君がこのシステムの考案者で、最も利益を得たのだから、莫大な資産の中から、AKS運営の不手際でメンバーが危険な目にあった場合には、最高責任者として、ちゃんと賠償金を払いなさい」ということになる。

3.11の原発事故と同じだ。津波の危険が予見できたのに対策を講じなかったのは、本社の最高責任者の刑事罰になるはずなのだ。

しかし、今回の事件で、マスコミはそれを云わない、書かない。

国民主権と同じで、1消費者であるということは、本質的には消費社会では一番強いはずである。だが、事実上、政治についての意見も、消費者としての意見も、1市井人が自由に、かつ広く発言できるようになったのは、インターネット以前ではありえなかった。

もし、ツイッターがなければ、山口さんの事件も、うやむやにされてしまっただろう。

今回の事件で、善後策が講じられ、山口さんが心の平安を取り戻し、「アイドル」が安全に芸能活動できるような環境ができればいいと思う。

だが、多人数の「会いに行けるアイドル」をちゃんと安全管理し、労働条件や賃金を保証するには、膨大なコストと手間が必要になる。

「疑似恋愛」を求めるファンの多様な嗜好をすくい上げ、「推し」ファンを増やし、「握手券」や「投票権」を売るためにメンバーを多人数にするというコンセプトは、きちんとやれば絶対に採算が合わないのだ。だから、10代~20代前半の女性「アイドル」たちを無防備のまま競い合わせ、運営に逆らえないようにして辛うじて維持されているのだ。

それが今回の事件の本質である。

このニュースは、ネットを通じて瞬く間に世界中に広まってしまった。

日本の「アイドル」は、セキュリティさえ整わない過酷な労働環境にいる、と。

わが国の恥晒しである。

どうか今後二度とこのようなことがありませんように。