ヘーゲルの憂鬱(3) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日という日

本日1115日は、1977年、当時13歳の横田めぐみさんが学校帰りに、北朝鮮の工作員に拉致された日です。あれから41年。BABYMETALとは関係ありませんが、日本国民として、決して忘れてはなりません。

 

年末恒例のNHK紅白歌合戦の出場者が発表された。

もちろんBABYMETALは入っていない。敬愛する「BABYMTALの楽園」の管理人様も書いておられたが、去年まで「メギツネ」でお茶の間のジジババを踊り狂わせたいと割と本気で思っていたぼくも、さすがに今年はもういいやと思うようになった。

YOSHIKI feat.Hydeというユニットが「メタル枠」、Suchmosが「ロック枠」ということで、ここ数年生バンドの出演枠が確保されたらしいのは喜ばしいと素直に思う。

注目はDAOKOで、サマソニではSHOKOがバックダンサーを務めたから、もしかしたら一緒に出るかもしれない。「特別企画枠」の椎名林檎のバックダンサーでELEVENPLAYが出るかもしれんし。そうなればベビメタ本体は出ないけど、Chosen 7から2名が紅白出場ということになるね(^^♪。

いずれにせよ、紅白出場が決まったアーティストの方々、おめでとうございます。

 

さてヘーゲルの話のつづき。

ヘーゲルは、現実社会や政治とは距離を置いて人間の本質を追究しようとする多くの哲学者とは違って、人類は、長い歴史を経て近代に到り、理性と自由意志によって社会を構成する主体となったと考えた。宗教改革や産業革命、フランス革命といった歴史上のできごとは、自由を求める人類普遍の「絶対精神」の表れである。だから、ヘーゲルは民主主義政体、自由と人権の保障、法治国家、法の下での平等を基盤とする近代法体系や、市場原理・資本主義に基づく経済の仕組みといった近代国家像こそ、人類すべてが希求してきた究極の政治体制であると考えたのである。

また、ヘーゲルは、祖国プロイセンにとっては敵であったにもかかわらず、フランス革命の完成者であるナポレオンの進軍を、歴史の必然であるとして歓迎した。

ヘーゲルは、祖国愛という素朴な国民感情よりも、人類全体の進歩の方が重要であるとみなした。封建的な古い体制に縛られた祖国が、自由や人権を土台にした新しい仕組みを取り入れた敵国に敗れ、それらを取り入れざるを得なくなることで、結局は祖国が進歩することになるのだという大局観を持っていたともいえる。

ヘーゲルの弁証法とは、哲学的思考というだけでなく、現実に起こる事件として、新しいもの(テーゼ)と古いもの(アンチテーゼ)との血みどろの戦いが起こり、その中で止揚・昇華(ジンテーゼ)という現象が発生し、全体として人類が一段階進歩するというダイナミックな歴史観のことだった。

仮にその当事者となり、一敗地に塗れることになったとしても、そこから立ち上がり、新しい仕組みを取り入れる契機となるなら、その敗北には意味がある。

むしろ、戦わないことは進歩するチャンスを逸することであり、停滞、衰退、そしてついには滅亡を招くことになる。

ヘーゲルにとって「戦い」こそ、歴史を動かし、進歩させる原動力なのである。

こういう考え方って、BABYMETALの「世界観」によく似ていると思いませんか。

「アイドルとメタルの融合」とは、異なる二つの要素がお行儀よく共存するのではなかった。幼かったメンバーの生身のKawaii肉体と、KOBAMETALのイメージするメタル音楽とが激しくぶつかり合い「なんじゃこりゃ⁉」となることによって、BABYMETALとしか名づけようがない何かに昇華したものだった。

「イジメ、ダメ、ゼッタイ」だって、学級という閉鎖空間の同調圧力に対して、一人の少女が勇気を奮って立ち上がり戦うことによって、そこになぜかキツネ様が降臨し(「キツネ、飛べ!」)メタルのパワーで問題を解決するという楽曲だ。YUIMOAの偽闘は、まさにその葛藤や戦いを示しており、割って入るSU-は、二人の対立を止揚し、昇華させる役割を見事に演じている。

Amore-蒼星-」は「♪憂鬱な雨雲破って24時間走り続ける」「♪走り続ける定め」という歌詞で、メタル戦士の心意気を表現しているし、「No Rain No Rainbow」は「♪絶望さえも光になる」と、絶望的な状況でも、そこから立ち上がることで、それが希望に変わることを訴えている。

KARATE」は、「♪涙こぼれても立ち向かってゆこうぜ」「♪セイヤソイヤ戦うんだ」「♪悲しくなって立ち上がれなくなっても」と、戦う者のド根性を歌い上げる。

かと思えば「Sis.Anger」では、「♪反省してもいい後悔してはダメー」と、「戦わない者」を叱咤する。

BABYMETALもまた、ヘーゲル同様、生きることは「戦い」なのだという世界観を、聴く者に伝えようとしているではないか。

その「戦い」とは、もちろんヘーゲルのいう国同士、共同体同士の戦争のことではない。

オーディエンス一人一人が直面している、日常生活や、職場や家庭や人生の局面における理不尽な仕打ちだったり、不条理な人間関係だったりのことだ。

我慢して耐え忍ぶ時期も必要だろう。だが、そうして戦いを避けているうちに、君は元気を失い、笑顔を忘れ、衰退し、やがて無気力になってしまうかもしれない。そうならないうちに、立ち上がり、戦え。

戦うことを躊躇させるのは、たいていの場合、今得ているものさえ失ってしまうのではないかという惧れ、恐怖心だ。

だが、勇気を出して戦えば、それまで怖いと思っていたものが怖くなくなる。

たとえ状況がより悪化したように見えても、そこには意味がある。君自身が変わるのだ。君が変われば世界が変わる。それが戦いによってしか止揚・昇華しない「何か」だ。

敵は今のところ、強大だ。したがって、それは正面切っての闘いではなく、ささやかな「抵抗」に過ぎない。だからBABYMETALの闘いはWarではなくResistanceなのだ。

Road of Resistance」の歌詞は言う。

「♪東の空を真っ赤に染める狼煙の光が 孤独の闇の終わりを照らす新たな道しるべ」

「♪くじけても何度でも、心の炎燃やせ」と。

まりんさんは、コメントで「実は私もロードオブレジスタンスを聞いた時、世界精神の現れだと思いました」と書いてくれた。

2015110日の新春キツネ祭りでこの曲が披露されたときの映像は、公式MVに残っており、誰でも見ることができる。DVDBDに収録された実際のライブでは、この曲の前に2014年の初欧米ツアーにおける各地の公演のスチール映像が挿入され、BABYMETALの過酷な戦いが紹介され、観客は大歓声でその健闘を称えた。

そして、曲中、シンガロングのパートで、「♪Woo Woo Woo Woo」と歌いながら、BABYMETAL旗を持った三人が花道を歩き始めたとき、それは文字通り「世界征服」への進軍となった。

Metal Resistanceという言葉は、2012年のLegendI”で初登場した。

その時の仮想敵は「巨大勢力アイドル」だった。

歌で人を感動させる人気歌手という存在を、数百人にも達する疑似恋愛対象=「アイドル」へと解体し、楽曲を劣化せずに保存できるCDという科学の粋を集めた音楽媒体を、大量に廃棄されるプラスチック=集金のための投票券に変えてしまったポストモダンの権化だった。

それに対してKOBAMETALの確信に基づく、世界に通じる普遍的な音楽=ヘヴィメタルという世界観に則って登場したBABYMETALは、まさに王道だった。

Road of Resistance」の終盤、SU-METALは天に向かって「かかって来いやあ‼」と叫んだ。

ぼくらはその先の歴史を知っている。

2015年の苦闘、2016年のウェンブリーから東京ドームへ至る飛躍。

2017年の大物バンドとの前座修行、国内での5大キツネ祭りと巨大キツネ祭り、そして広島Legend-S-でのYUIMETAL欠場という事態。

キツネ様の天敵=戌年2018年の藤岡幹夫神の急逝と、YUIを欠いたDarksideへの暗転、とどめのYUIMETAL脱退、Chosen 7という新体制。

だが、そこに貫かれているヘヴィメタル=世界に通じる普遍的な音楽という世界観は、決して変わってはいない。

何よりヘーゲルと同じく、生きることは戦うことなのだ、というメッセージは、新曲「Starlight」にも貫かれている。

―引用―

時を超えて解き放てFar away 走り続け遥か彼方Run way

Dream now Dream now Ah Higher in the star Ah Higher in the light

Starlight Starlight 光照らすその先へStarlight Starlight

探し求め駆け抜けてGet away 記憶のかけらデジャブメジャブFade away

Dreamin’ now Dreamin’ now Ah Higher in the light Ah Higher in the star

Starlight Starlight 光放つあの場所へStarlight Starlight

Wherever we will be with you, we never forget shining star light

Forever you will be in my heart, we never forget shooting star

―引用終わり(聞き取り:Jaytc

この曲に藤岡幹夫氏に対する追悼の意味が込められていることは論を俟たない。

イントロと終盤の牧歌的なメロディに乗せて、「私たちはどこにいても輝く星の光(になったあなた)を決して忘れない」「永遠にあなたは私の心にいるから、私たちは決して流れ星(になったあなた)を忘れない」と言っているからだ。Shining StarとShooting Starの二つが入っていることから、もしかしたら脱退したYUIMETALのことも入っている可能性がある。

だが、その悲しみや感傷、「記憶のかけらデジャブ」を抱きつつも、BABYMETALは「光照らすその先へ」と「走り続け」、「光放つあの場所へ」と「探し求め駆け抜け」るのだ。

立ち止まり、落ち込んだりはしない。絶望から立ち上がり、前へと進むのだ。

ポストモダンの「巨大勢力アイドル」のように、「僕たちは戦わない」などと言っている余裕はない。戦いに傷つき倒れる仲間がいたとしても、小さき者は、戦い続けることに活路を見出すしかないからだ。

古臭く、時代遅れのヘーゲル的世界観を、BABYMETALは共有しているのだ。

貴い。心底ぼくはそう思う。

(つづく)