『なぁ、あの頃のオレ。』青春編 第103話「一回だけ天才になれたオレ」 | 『なぁ、あの頃のオレ』青春編

『なぁ、あの頃のオレ』青春編

失敗だらけの人生を、
今のオレが昔のオレにツッコむ。

16歳で一人イタリアへ。
気ぃ使いすぎて空回り。

失敗も、勘違いも、だいたい自分発。

全部実話。1話完結。

『なぁ、あの頃のオレ。』連載中。



◆ 左利きになりたい

なぁ、あの頃のオレ。

オレは、
右利きやった。

でも昔から。

なぜか左利きに、
妙な憧れがあった。


理由?


……。


カッコええから。


以上。


『浅っ!!』


技術的にどうとか。

サッカーに有利とか。

そんな分析、
一切ない。


左利き。

なんか、
カッコええ。


それだけ。


箸も、
左で持ってみる。

文字も、
左で書いてみる。


……。


汚っ。


何書いたんや。


文字か?

暗号か?


ミミズでも、
もうちょいキレイに歩くぞ。


結局。

左で字を書くんは、
早々に諦めた。


でも。

イタリアへ来ても、

左への憧れだけは、
消えへんかった。


(左足、
使えたらカッコええやん。)


……。


『またそれだけか!!』


◆ 勝手に左足縛り

午前練習の最後は、

日本人だけで、
ミニゲームをする。


その時間が、
めちゃくちゃ好きやった。


そこでオレは。

誰にも頼まれてへんのに、
勝手なルールを作った。


左足しか、
使わん。


右で蹴れる場面でも、
左。

右で止めた方がええボールも、
左。


どう考えても、
右。


それでも。


左。


『何の修行や!!』


コーチ。

言うてへん。


先輩。

頼んでへん。


オレ。


勝手に、
左足縛り。


『一人だけ別メニュー始めんな!!』


当然。

最初は、
うまくいかへん。


トラップ。

デカなる。


パス。

ズレる。


シュート。

飛ばん。


「あーーっ!!」


……。


『誰に腹立てとんねん!!』


その不自由な世界、

お前が自分で、
作ったんやぞ。


それでも。

毎日、
しつこく左足を使った。


すると少しずつ。

左足が、
言うことを聞き始めた。


そんなある日。


「オレさん、

両利きですか?」


……。


…………。


キターーー!!


「いや、

右利きやで。」


平静。


顔は、
平静。


心の中。


……。


優勝。


『何の大会や!!』


「サッカー上手いですね。」

ちゃうぞ。


「両利きですか?」

やぞ。


質問や。


まだ、
褒められたとも限らん。


でもオレの中では。


金メダル。


『勝手に表彰台乗るな!!』


そして。

その一言で、
完全に調子に乗った。


左。


左。


また左。


なぁオレ。


お前。

褒められて伸びるタイプやな。


……。


調子が。


◆ 一回だけ天才になった

そして、
ある日のミニゲーム。


オレに、
ボールが入る。


目の前には、
相手が一人。


軽くボールを、
前へ出した。


その瞬間。


「よっしゃあ!

もらったーー!!」


相手は完全に、

ボールを取ったと、
思っとる。


その時やった。


左足首だけで。


クルッ。


一瞬で、
切り返した。


相手。


完全に、
置き去り。


「えっっっーーー!!」


「なんでぇぇぇーーー!!」


グラウンド中に、
響く。


……。


いや。


一番ビックリしたん。


オレや。


(え?)


(今、オレ……

何した?)


『やった本人が
説明求めんな!!』


身体が、
勝手に動いた。


自分でも、

何が起こったんか、
分からん。


でも。


……。


スゲェ。


……。


(もしかして。)


(オレ……。)


(天才ちゃうか?)


……。


『早い早い早い!!』


一回や。


まだ。


クルッ。


一回やぞ。


◆ 左足、覚醒

でも。

もう遅かった。


たった一回の、
切り返しで。


オレの頭の中の左足は。


……。


覚醒した。


頭の中では。


味方が、
ディフェンスの裏へ走る。


左足。


スパーン。


ディフェンスの間を抜いて、
足元へドンピシャ。


……。


完璧。


『待て!!』


お前。

そんなパス、

右足でも、
出したことないぞ。


何で左足になった途端、

視野まで、
広がっとんねん。


次。


左足。


ズドーン。


ゴール右上。


キーパー。

一歩も、
動けへん。


……。


完璧。


『だから、
いつ蹴ったんや!!』


現実。


クルッ。


一回。


妄想。


スルーパス。

シュート。

ロングキック。

フリーキック。


全部、
一流。


『一回の切り返しから
どんだけ才能枝分かれすんねん!!』


右でも、
蹴れる。

左でも、
蹴れる。


どっちでも。


完璧。


相手。

困る。


オレ。

困らん。


……。


(最強やん。)


……。


『誰や、そいつ!!』


もう完全に、
お前ちゃうぞ。


そしてついに。


オレの中で、

ある考えが、
浮かぶ。


……。


(右足。)


……。


(いらんのちゃうか。)


……。


『捨てるなーーー!!』


左で一回。


クルッ。


それだけで、

長年の相棒を、
戦力外にすな!!


昨日まで。


レギュラー。


今日。


左足が一回、
ええプレー。


明日から。


無職。


『右足の扱い、
ひどすぎるやろ!!』


その日のオレは、
完全に思っとった。


(見つけた。)


(オレの、
武器。)


(明日から、
オレは変わる。)


(この左足が、

オレを変える。)


……。


左足本人。


たぶん、
そこまで聞いてへん。


◆ 翌日

そして、
翌日。


ミニゲームで、

昨日と似た場面が、
来た。


相手が、
ボールを取りに来る。


……。


来た。


昨日の。


あれや。


左足で。


クルッ。


……。


できへん。


普通に、
取られた。


……。


(あれ?)


もう一回。


クルッ。


……。


できへん。


もう一回。


……。


できへん。


さらに。


……。


できへん。


……。


『閉店早っ!!』


昨日、
開店したばっかりやぞ。


左足専門店。


翌日、
閉店。


『一日もたんかったんか!!』


なぁオレ。


昨日の夜まで。


スルーパスも。

シュートも。

ロングキックも。

フリーキックも。


全部パーフェクトやった、
お前の左足。


……。


どこ行った。


いや。


そもそも。


一個も、
やってへん。


全部。


妄想や。


現実で成功したん。


クルッ。


一回だけ。


ほんで。


そのクルッすら、
今日できへん。


……。


なぁオレ。


右足。


戦力外にせんで、
ホンマよかったな。


◆ 結論

結局。


何日か試しても、

あの切り返しは、
二度とできへんかった。


天才の時間。


……。


約三秒。


『短っ!!』


妄想の中では。


左足。

パーフェクト。


現実では。


翌日。

切り返しすら、
できへん。


なぁオレ。


才能って。


一晩で、
なくなるんやな。


……。


ちゃう。


最初から。


ない。


でもな。


あの一回が出たんは、

偶然だけでも、
なかったと思う。


毎日、
左足を使って。


失敗して。

ズレて。

取られて。


それでも、
また使った。


その積み重ねが、

ほんの一瞬だけ、
形になったんやろな。


……。


せやのにお前。


一回成功した瞬間。


(オレ、
天才ちゃうか?)


……。


『努力した自分、
三秒で忘れたな!!』


何日もやった努力を、

全部、
才能の手柄にした。


なぁ、
あの頃のオレ。


天才には、
なれへんかった。


でも。


あの三秒だけは。


……。


天才ってことに、
しといたるわ。


【一言まとめ】
天才になれた。
約三秒だけ。


【次回】

元代表に

追いかけられたオレ。