『なぁ、あの頃のオレ。』青春編 第102話「オカンにまかせたオレ」 | 『なぁ、あの頃のオレ』青春編

『なぁ、あの頃のオレ』青春編

失敗だらけの人生を、
今のオレが昔のオレにツッコむ。

16歳で一人イタリアへ。
気ぃ使いすぎて空回り。

失敗も、勘違いも、だいたい自分発。

全部実話。1話完結。

『なぁ、あの頃のオレ。』連載中。



◆ 日本食が食いたい

なぁ、あの頃のオレ。

イタリアへ来て、
数か月。

朝。

ラスク。

昼。

パスタ。

夜。

パスタ。

昨日も、
パスタ。

今日も、
パスタ。

明日も。

たぶん、
パスタ。

……。

なぁオレ。

イタリアまで来て、

(パスタ多ない?)

って思うな。

向こうからしたら、
知らんがな、や。


もちろん、
うまい。

でも。

食べられへんと思うと、
急に恋しくなる。

ラーメン。

味噌汁。

海苔。

梅干し。

日本の味。


そんなある日。

スーパーで、
見慣れた赤いキャップを見つけた。

……。

しょう油。

しかも。

"KIKKOMAN"

……。

(しょう油やーー!!)

『落ち着け!!』

しょう油一本で、

生き別れた家族と、
再会したみたいになっとるぞ。


その瞬間。

決めた。

(オカンに、
日本のもん送ってもらお。)


◆ 注文、雑すぎる

実家へ電話。

もちろん、
携帯なんかない。

テレホンカードや。


まず、
オトン。

「元気か?」

「元気や。」

「サッカーどうや?」

「まぁまぁ。」

「そっちは?」

「まぁまぁ。」

……。

沈黙。

……。

『国際電話で、
“まぁまぁ”交換すな!!』

黙っとる間にも、

テレホンカードだけは、
全力で仕事しとるぞ。


「ほな、
オカンに代わるわ。」

「もしもし。」

「何か、

日本のもん、
送って。」

「分かったで。」

……。

終了。


『注文、雑っ!!』

ラーメンとも。

海苔とも。

梅干しとも、
言うてへん。

ただ一言。

「日本のもん。」

……。

範囲、
広すぎるやろ。


ラーメンも、
日本のもん。

海苔も、
日本のもん。

梅干しも、
日本のもん。

扇子も、
日本のもん。

こけしも、
日本のもん。

……。

下手したら。

木彫りの熊、
届くぞ。

『北海道まで
選択肢に入っとるやないか!!』


しかも。

何を送るか。

何を入れるか。

全部。

オカン任せ。


『国際仕送りで
“おまかせ”頼むな!!』


イタリアから、

オカンのセンスだけを信じて、
注文投げとるぞ。


◆ オレの荷物だけ船旅

一週間。

来ぇへん。

二週間。

来ぇへん。

一か月。

来ぇへん。


周りに聞く。

「荷物、
どれぐらいで届いた?」

「三週間ぐらい。」

「オレ、
一か月かな。」

……。

オレのだけ、
来ぇへん。


もう一回、
実家へ電話。

「オカン。

ホンマに送った?」

「送ったで。」

「何で?」

「船便。」

……。

船便。

……。

船?


『大航海時代か!!』


周りの荷物。

飛行機。

オレの荷物。

船。


みんなのラーメン。

空を飛ぶ。

オレのラーメン。

海を渡る。


……。

(今ごろ、
どこやろ。)

(太平洋?)

……。

いや。

イタリア行くんやったら、
そっちちゃうか。

……。

(大西洋?)

……。

(スエズ運河?)

……。

『知らん!!』

お前、
サッカー留学しに来たんやぞ。

荷物届かんだけで、
海運会社みたいになっとるぞ。


そのうち。

頭の中では、

オレの段ボールが、

荒波に揺られながら、
イタリアを目指し始める。


ラーメン。

海苔。

梅干し。


ザッパーーン。


……。


『荷物に壮大な冒険さすな!!』


お前より、

段ボールの方が、
イタリア来るの苦労しとるぞ。


まぁ。

船便なら、
しゃあない。

待とう。


……。


二か月。


来ぇへん。


……。


長ない?


ここから。

オレの、

いらん想像力が、
動き始めた。


(もしかして。)

(税関で、
止められとる?)


……。


何で?


……。


(オカン、
何入れた?)


(違法なもん、
入れてへんやろな?)


……。


『オカンを
密輸業者にすな!!』


でも。

オレ、
中身知らんぞ。

頼んだん、

「日本のもん。」

だけや。


……。


(まさか。)


(エロ本とか、
入れてへんやんな?)


……。


『何でやねん!!』


何でオカンが、

遠いイタリアにおる息子への、
仕送りに、

エロ本を、
チョイスすんねん。


オカン。

息子から、

「日本のもん送って。」

と頼まれる。


ラーメン。

海苔。

梅干し。

……。

そして。

(これも、
いるやろ。)

エロ本。


……。


『どんなオカンや!!』


でも。

もし入っとったら。


税関。

段ボール、
開ける。


ラーメン。

海苔。

梅干し。


……。


エロ本。


係員。

止まる。


……。


ページ、
めくる。


『めくらんでええ!!』


ほんで。

別の係員、
呼ぶ。


二人で、
見る。


……。


『増やすな!!』


しかも。

オレの頭の中では、

なぜか二人とも、
真顔。


『仕事みたいに読むな!!』


荷物が遅い。

ただ、
それだけや。


それだけで。


オカン。

密輸疑惑。


エロ本。

税関。


係員。

二人。


……。


『お前の妄想だけ
先にイタリア入国しとるやないか!!』


◆ ようやく届いた

そして。

三か月後。


……。


届いた。


普通に、
届いた。


……。


『普通に届くんかい!!』


税関も。

違法物も。

エロ本も。

二人の係員も。


全員、
無罪。


『最初から誰も
容疑者ちゃうわ!!』


段ボールを、
開ける。


ラーメン。


(オカーーン!)


海苔。


(最高!!)


梅干し。


(これや!!)


そして。


その横。


……。


スパゲッティ。


……。


…………。


『なんでやねん!!』


オカン。

息子が、
イタリアにおること。

忘れたんか。


いや。

忘れてへん。


送り先。

イタリアや。


その住所を書きながら、

スパゲッティを、
箱に入れたんや。


……。


『どういう判断や!!』


イタリアに、
スパゲッティ。


砂漠に、
砂。


海に、
水。


……。


『現地調達できるもん
わざわざ海渡らすな!!』


しかも。

三か月。


イタリアにあるスパゲッティを、

三か月かけて、
イタリアへ。


……。


『壮大な里帰りやないか!!』


さらに。

Tシャツ。


広げる。


当時、
大リーグで活躍しとった、

日本人選手。


……。


(なんで?)


『こっちが聞きたいわ!!』


息子。

イタリア。


目的。

サッカー。


届いた服。

野球。


……。


『情報、
一個も噛み合ってへん!!』


オカン。

お前の息子、

三か月の船旅の間に、

メジャーリーガーへ、
転向してへんぞ。


さらに奥から。


侍の絵が入った、
Tシャツ。


……。


サッカー。

野球。

侍。


……。


『オカンの中で
息子の職業どうなっとんねん!!』


その侍Tシャツは、
ロベルトじいにあげた。


「オォーーー!」


めちゃくちゃ、
喜んどった。


……。


ように見えた。


『最後の最後まで、

イタリア語分からんのに
表情だけで話まとめるな!!』


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。


あの頃は。


(船便かい。)


(スパゲッティ
入れるんかい。)


(野球ちゃう。)


そんなことばっかり、
思っとった。


でも。


今なら、
少し分かる。


飛行機便は、
高かったんやろな。


せやから。


少しでも安く送れる、
船便を選んで。


何を入れたら、
息子が喜ぶか考えて。


箱いっぱいに、
詰めてくれた。


ラーメン。


海苔。


梅干し。


野球のTシャツ。


侍のTシャツ。


……。


まぁ。


スパゲッティだけは、
今でも分からん。


でもな。


あの箱の中には、

日本食だけやなくて。


オカンの、

「頑張りや。」

も入っとったんやと思う。


それが。


三か月かけて、
海を渡ってきた。


その間。


お前は。


(違法なもん、
入れてへんやろな?)


(エロ本、
送ってへんやんな?)


……。


『オカンが送料節約しとる間に、
お前は何を心配しとんねん!!』


……。


ただな。


オカン。


最後に一個だけ、
言わせて。


イタリアに。


スパゲッティは。


……。


送らんでええ。


【一言まとめ】
愛情は届いた。
スパゲッティまで、
届いた。


【次回】
一回だけ、
天才になれたオレ。