『なぁ、あの頃のオレ。』青春編 第89話「真面目な生徒のつもりのオレ」 | 『なぁ、あの頃のオレ』青春編

『なぁ、あの頃のオレ』青春編

失敗だらけの人生を、
今のオレが昔のオレにツッコむ。

16歳で一人イタリアへ。
気ぃ使いすぎて空回り。

失敗も、勘違いも、だいたい自分発。

全部実話。1話完結。

『なぁ、あの頃のオレ。』連載中。



◆ サッカー留学で勉強する

なぁ、あの頃のオレ。

イタリアでの生活は、
ほぼ、
サッカーだけやった。

朝起きて。
飯食って。
練習して。

昼飯食べて。
また練習。

……

なぁオレ。

昨日もサッカー。
今日もサッカー。
明日もサッカー。

お前の人生、
ボール中心に、
回りすぎや。

なぁオレ。

よぉ、
飽きひんな。

でも。

そんな毎日の中に、
週に一度だけ、
ちょっと違う時間があった。

イタリア語の、
レッスン。

……

勉強。

なぁオレ。

急に、
留学っぽいこと、
始まったやないか。

◆ 先生がキレイ

先生は、
日本語も話せる、
五十代くらいの、
イタリア人女性。

ほんで。

これがまた、
なかなか、
キレイやねん。

……

「うわぁ……。」

オレ。

授業始まる前から、
ちょっと、
見とる。

……

なぁオレ。

黒板見ろ。
イタリア語、
覚えろ。

お前、
何の授業、
受けに来とんねん。

でも。

近くで見ると、
もう一つ、
気になったことがあった。

……

目尻のシワ。

笑った時なんか、
目元に、
思ってたより、
シワがある。

「へぇ……。」

オレ、
そこで初めて、
思った。

ヨーロッパの女性って、
若い頃は、
キレイやけど。

日本人より、
シワが出るん、
早いんかな。

……

なぁオレ。

サンプル、
先生一人やぞ。

何でそれだけで、
ヨーロッパ全体を、
分析し始めとんねん。

お前、
イタリア語の授業中やぞ。

勝手に、
ヨーロッパ女性研究、
始めるな。

でも、
当時のオレには、
それも、
ちょっとしたカルチャーショックやった。

「キレイ」と、
「シワがある」が、
普通に、
一緒にある。

それまでのオレは、
シワって、
もっと年を取ってから、
出てくるもんやと。

勝手に、
思っとった。

……

まぁ。

三十数年後。

自分の顔にも、
普通に、
出てくるんやけどな。

なぁオレ。

人のシワ、
観察しとる場合ちゃうぞ。

未来のお前、
ちゃんと、
順番待っとるからな。

◆ 生徒が消えていく

最初の授業。

教室には、
それなりに、
人がおった。

先生が話す。
みんな聞く。

ちゃんと、
授業や。

ところが。

二回目。

……

「あれ?」

ちょっと、
減っとる。

三回目。

……

また、
減っとる。

四回目。

……

先生、
近っ。

なぁオレ。

先生が、
近づいてきたんちゃうぞ。

周りが、
消えたんや。

最初は、
みんなで受けとった、
イタリア語レッスン。

気ぃ付いたら、
だいぶ、
少人数制に、
なっとった。

「みんな、
どないしたん?」

もちろん、
練習で疲れとる人も、
おったと思う。

でも、
どうやらみんな、
そこまでイタリア語を、
勉強したいわけでもなかったみたい。

……

なぁオレ。

まぁ、
分からんでもない。

朝から、
走らされて。

午後も、
サッカーして。

その合間に、
「さぁ勉強しましょう。」

……

寝たいわ。

◆ オレだけ帰られへん

でも。

オレは、
何となく、
休まれへんかった。

別に、
イタリア語を、
誰よりも、
極めたかったわけちゃう。

……

先生が、
一人で待っとる姿を、
勝手に、
想像してもうた。

「誰も来んかったら、
先生、
かわいそうやな……。」

……

なぁオレ。

出た。

お前の、
勝手に相手の気持ち、
背負うヤツ。

先生、
プロやぞ。

お前一人来んでも、
普通に、
帰るわ。

でも、
当時のオレ。

「オレが行ったら、
ええか。」

になる。

……

昔からやな。

断るより、
行く。

放っとくより、
気にする。

ほんで、
あとから、
自分が疲れる。

なぁオレ。

そのシステム、
今になっても、
わりと残っとるぞ。

◆ 得することもある

ところがや。

人数が減ると、
ええこともあった。

先生との距離、
めちゃくちゃ近い。

質問し放題。

「先生、
これ何て言うん?」

「こんな時、
どう言えばええん?」

聞いたら、
全部、
笑顔で教えてくれる。

……

なぁオレ。

これ、
ほぼ、
家庭教師やないか。

しかも、
追加料金、
ゼロ。

みんなが、
来なくなった結果。

結局、
最後まで残った、
オレら数人。

めちゃくちゃ、
得しとるやないか。

……

人生、
分からんな。

人がおらんから、
寂しいと思っとったら。

人がおらんから、
めちゃくちゃ、
教えてもらえる。

ほんで。

その結果、
オレのイタリア語は、

どんどん……

……

上達……

……

したはずや。

たぶん。

……

なぁオレ。

現在、
ほとんど、
覚えてへんやないか。

先生、
ごめんなさい。

◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

お前は、
イタリア語を、
誰よりも勉強したくて、

授業に出とったんやない。

先生が、
一人で待っとったら、
かわいそう。

ただ、
それだけやった。

……

勝手に想像して。
勝手に心配して。

勝手に、
授業へ行く。

なぁオレ。

相変わらず、
生き方、
ちょっと面倒くさいな。

でも。

そのおかげで、
人数が減っても、
先生と話して。

質問して。
笑って。

少しずつ、
イタリア語にも、
イタリアにも近づいていった。

覚えた単語は、
ほとんど、
忘れてもうた。

でも。

あの教室の空気も。
先生の笑顔も。

人数が、
どんどん減っていったことも。

なぜか、
今でも覚えとる。

……

なぁオレ。

勉強した内容より、
先生の方が、
記憶に残っとるやないか。

……

まぁ。

若いから、
しゃあないか。

……

って。

ここまで書いて、
今、
思い出した。

……

オレも、
何回か、
休んどったわ。

……

なぁオレ。

お前、
さっきから、
何を偉そうに、

「みんな来なくなった。」

みたいに、
語っとんねん。

お前も、
そっち側やないか。

……

先生。

今さらですけど、

二回目の、
ごめんなさい。

【一言まとめ】
イタリア語は忘れたけど、
先生は覚えとる。

【次回】
本物は、
立ってるだけで違った。