
なぁ、あの頃のオレ。
待て。
そう言われるほど、
待たれへん。
待て言われて、
待てたこと、
一回もない。
1週間経つ。
オレ、
会社へ電話する。
「まだ企画中です。
決まりましたら、
こちらからご連絡いたします」
「分かりました」
電話を切る。
……。
また1週間。
電話する。
「まだ企画中です」
「分かりました」
……。
また1週間。
電話する。
担当者。
「あっ」
……。
なぁオレ。
その「あっ」。
「また電話してきた」
っていう、
あの「あっ」や。
しかも毎回、
「今回は決まってるかも」
って期待して、
電話してる。
何回やっても、
返ってくる答え、
全部一緒や。
なぁオレ。
毎週電話して、
毎週同じ答え聞いて、
毎週ちゃんと
ガッカリしとるやん。
ほんで、ある日。
担当者。
「決まりましたら、
こちらからご連絡しますので、
少々お待ちください」
……。
なぁオレ。
やんわり、
電話してくんな。
言われとるやん。
なぁオレ。
担当者、
敬語で言うてるだけで、
内容は、
「もう電話せんと、
待っといて」や。
そりゃそうや。
1週間に一回、
同じヤツから、
電話かかってくる。
担当者からしたら、
「また、あの人や」
やったやろな。
なぁオレ。
完全に、
要注意人物一歩手前や。
◆ 先が見えへん
それから、
電話せんようにした。
……いや。
正確には、
我慢した。
朝起きる。
現場行く。
土運ぶ。
汗だくになる。
昼飯食う。
また土運ぶ。
帰る。
風呂入る。
寝る。
また朝。
また現場。
毎日、
同じことの繰り返しや。
親方は、
相変わらず淡々と言う。
「オレくん、
これ頼むわ」
「終わったら、
次これな」
怒鳴ることもない。
でもな。
オレの心の中だけ、
何かモヤモヤしてた。
なぁオレ。
何やってるんやろ。
イタリアへ行くため。
そう思って、
始めた仕事や。
でも、
そのイタリアが、
全然見えへん。
電話も来ぇへん。
話も進まへん。
毎日働いて、
毎日疲れて、
気付いたら寝てる。
また朝。
また仕事。
また汗。
なぁオレ。
夢ってな。
終わった時より、
先が見えへん時の方が、
しんどい。
「このまま、
終わるんちゃうかな」
そんな言葉が、
少しずつ頭に、
増えていった。
イタリアへ行くために、
働いてるはずやのに、
何のために働いてるんか、
分からんようになってきた。
◆ 少しずつ遠ざかる夢
気付いたら、
イタリア語の本も、
開かんようになってた。
机の上で、
ホコリかぶっとる。
写真も、
前みたいに、
毎日見ぃひん。
「また行ける」
そう思ってた気持ちも、
仕事終わって、
クタクタで帰ってきたら、
そんな元気、
残ってへん。
なぁオレ。
夢って、
諦める時は一瞬ちゃう。
少しずつ、
離れていくもんや。
「ホンマに、
電話来るんかな」
「この話、
無くなるんちゃうかな」
「結局、
夢見ただけやったんかな」
そんなことばっかり、
考えるようになってた。
土木の仕事も、
何となく、
やる気が出えへん。
身体は動いてる。
でも、
心は止まったままや。
なぁオレ。
働いてるんか、
時間だけ過ぎてるんか、
分からんようになってた。
毎日、
同じ景色。
同じ仕事。
同じ汗。
同じ帰り道。
気付いたら、
「何やってるんやろ」
その言葉ばっかり、
頭の中で、
繰り返してた。
夢があるって、
幸せやと思ってた。
でもな。
先が見えへん夢ほど、
苦しいもんも無かった。
◆ 家の電話
そんなある日。
いつも通り、
仕事終わって、
家へ帰る。
玄関開ける。
靴脱ぐ。
すると、オカン。
「あんたー!
電話やでー!」
オレ。
「誰?」
オカン。
「知らん」
……。
なぁオレ。
そこ、
一番聞いといてくれ。
「男の人や」
いや、
情報、薄っ。
「会社の人ちゃう?」
……。
「ちゃう?」
て何やねん。
そこ、
一番大事な情報、
全部予想やん。
なぁオレ。
推理ゲームちゃうぞ。
慌てて、
受話器を取る。
「もしもし」
電話の向こう。
あの担当者や。
「あっ、
以前お問い合わせいただいていた
件ですが……」
……。
なぁオレ。
その瞬間、
心臓、
一気にバクバクや。
担当者。
「企画が決まりました」
「イタリアサッカー留学の、
募集を開始いたします。」
……。
「はいっ!!」
返事した瞬間、
身体中、
鳥肌立った。
電話を切る。
……。
しばらく、
動かれへんかった。
さっきまで、
「もう無理なんちゃうかな」
思ってた夢が、
急に現実になった。
なぁオレ。
人生って、
分からんな。
諦めかけた時に、
急に扉が、
開くことあるんや。
◆ 結論
なぁ、あの頃のオレ。
お前な。
待つん、
ホンマ苦手やったな。
1週間で電話して。
また1週間で、
電話して。
担当者からしたら、
「またアイツや」
やったやろな。
勝手に期待して。
勝手に落ち込んで。
勝手に諦めかけて。
ホンマ、
忙しい男や。
でもな。
夢って、
走る速さでは、
決まらへん。
電話した回数でも、
決まらへん。
待つしかない時間も、
夢の途中なんや。
あの一本の電話は、
急に来たんちゃう。
お前が、
立ち止まりながらも、
歩き続けた時間の先に、
ちゃんとあったんや。
まぁお前の場合、
待ち続けたというより、
途中まで、
めちゃくちゃ電話してたけどな。
【一言まとめ】
待つことは苦手やった。
でも、夢はちゃんと
待っててくれた。
【次回】
二度目のイタリアへ。