
つげ義春さんの漫画は、他とは違う味わいがあってファンも多い。
これまで映画化も、何度もされてきた。
竹中直人監督の「無能の人」や山下敦弘監督の「リアリズムの宿」は、傑作と言っていいでしょう。

他に「ねじ式」や「ゲンセンカン主人」、近年でもかなり攻めてた「雨の中の慾情」があった。
つげ義春さんの漫画を撮るということは、現代に抗うということ。
旅や夢、静謐、決して派手な展開にはならず、淡々と日常の 可笑しさを描く。

「旅と日々」は、「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」を映画化したもの。
「ほんやら洞のべんさん」は読んでいたが、旅先の可笑しさを掬い取った秀逸な作品だ。
雪の山、奥まった民宿での主人とのエピソードを綴る。

特に大きく物語が動くわけでもなく。
主人との語らいや間がユーモラス。
竹中直人さんや柄本明さんが演じそうな主人の役だが、堤真一さんが好演している。

何も起きないからこそ、人と人の空間が大切。
その世界観を損なうことなく、「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督がつげ義春ワールドを展開する。
これこそ、つげ義春さんの世界。

映画内映画でヒロインを演じるのは、河合優実さん。
昭和顔でエロティック、つげ義春ワールドにぴったりのキャスティング。
佇まいが、もう漫画から飛び出して来たよう。

映画はロカルノ国際映画祭でグランプリ。
こんなに静かで、雪のしんしんと降る音さえ聞こえてきそうな静寂を映した映画もそうはない。
耳を澄ますことが大事だ。
自分はのんびりした、旅先の自然が大好きなので、また旅に出たいなと思った。
都会の煩わしさから、時には抜け出すことも大事。
現実を忘れさせてくれる貴重な89分。