映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン -10ページ目


映画「爆弾」のほとんどは、限られた密室だ。
取調室である。
この限定された空間で、よくぞここまでのエンターテインメントに仕上げたなと、感心するばかり。


酔っ払って暴れ、警察に連行された男。
男は、爆破事件が次々起こることを予測する。
このスズキタゴサクと名乗る男、一体何者なのか?


対する刑事との攻防が見物だ。
おちょくったように相手を挑発する容疑者。
刑事との心理戦。


映画に引き込まれていくのは、役者によるところも大きい。
容疑者佐藤二朗さんに、取り調べをするのは染谷将太さん、渡部篤郎さん、山田裕貴さん。
ゲームのように予告があり、東京が次々爆破されていく。


一方、伊藤沙莉さんと板東龍汰さんのバディが、爆弾探しに奔走する。
こちらも同時進行で、サスペンスを楽しめる。
永井聡監督の手腕、八津弘幸さん、山浦雅大さんの脚本も隙がない。


佐藤二朗さんの怪優振りに当然、注目は集まるだろう。
あの長台詞をまくし立て、特に動画で持論を早口で語るシーンは鳥肌もの。
暴走を重ねる容疑者と、それを受ける刑事の芝居がまた緊張感を煽る。


この世界を作り出した原作の呉勝浩さんの力量も特筆もの。
映画は一人では出来ない。
この作品を観ると、多くの人が関わり、それぞれが手を抜かずに一丸となって作り出したことが分かる。


日本映画でも、良質のエンタメが作れる。
静と動の美学。
「国宝」、「宝島」、「爆弾」、今年公開のクオリティー高い邦画の数々、日本映画の未来は明るい。












自分が日本映画に出演したいと願っていた頃、阪本順治監督や北野武監督の存在は大きかった。
北野武監督は、独自のヤクザ映画を撮り、阪本順治監督は男と男の熱いドラマを撮っていた。
1990年代だ。


「どついたるねん」も「王手」も「傷だらけの天使」も、正直で真っ直ぐで男の無様さも晒して、打ちのめされた。
それから阪本順治作品を追い掛けるが、後に実は彼が男性映画に負けない程、女性映画の名手であることに気付かされる。
「顔」や「魂萌え!」で、より阪本順治監督は世間に評価されていく。


「北のカナリアたち」で吉永小百合さんを主演に迎えてから、再びのタッグとなる。
「てっぺんの向こうにあなたがいる」
エベレストや七大陸最高峰を制した女性登山家、田部井淳子さんの物語である。


常に前向きで、不可能を可能にしていくパイオニア。
困難にも立ち向かい、山道を踏み締めるように人生も一歩ずつ歩を進めていく。
この生き方は、まるで吉永小百合さんのようではないか。


家族の愛の物語であり、夫婦の物語でもあり、友情も描き、とことん人間を掘り下げる。
主人公が病に倒れながらも日々を生き抜いていく姿勢に力を貰う。
実際に富士山や日和田山で撮影を敢行、山の迫力、美しさも映画の見所だ。


生前、自分のラジオ番組に田部井さんが出演したことがあったと言う吉永小百合さん。
彼女が書いた本も何冊も読んでると言い、吉永さんもこの出演は運命的なものを感じたのではないか?
「女のくせに」と言われた時代に、登頂を成功させた女性である。


ただ山が好きだったから登り続けたと言う。
息子との軋轢もあり、山を登る以外でも乗り越えなければいけない課題がいくつもあった。
映画には、妻を支え、じっと見守る夫の姿もある。


自分は自然が好きで、虫も生き物も好きで、高尾山、御岳山とかしか登らないけど、それでも山には馴染みがある。
山が好きだから登る。
シンプルだが、彼女の人生と共に重みがある言葉だ。








仲代達矢さんが亡くなった。
92歳。
自分が好きな映画に、仲代達矢さんはいつもいた。


黒澤明監督の「天国と地獄」にも「用心棒」にも、「椿三十郎」にも。
三船敏郎さんが好きだったので、その敵対する向こうにいる仲代さんの存在感。
いい男だったが、濃い顔でギラギラしてて。


THE 役者という佇まい。
無名塾を背負い、演技に常に向き合った人。
元無名塾の俳優と付き合いがあったので、自分が演技と向き合うのに、とても刺激になった。


晩年の「春との旅」の執念。
ただただ圧倒された。
徹底して老いと死を描き切った。


日本映画が世界を席巻した頃の立役者の一人。
役者の中の役者、本物の役者。
語っても語り尽くせない、偉大な人だ。