映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン -7ページ目


1980年のアメリカ映画「ジャグラー~ニューヨーク25時」が復活。
新たに作られたパンフレットには、町山智浩さんや蓮實重彦さんの投稿が。
この作品の期待度が分かる。


目の前で娘を誘拐された元警察官の男。
当時の治安の悪いニューヨークの街を追跡する男と、逃走する犯人。
時には車で、時には電車で、ひた走る攻防が見物だ。


1960年代後半から1970年代、カーアクション映画は量産された。
スティーヴ・マックイーン主演の「ブリット」やジーン・ハックマン主演の「フレンチ・コネクション」、ジャン・ポール・ベルモンド主演の「華麗なる大泥棒」、スピルバーグの「激突!」やニューシネマの「バニシング・ポイント」、B級ホラーの傑作「悪魔の追跡」。
名作も凡作も、とにかく車をぶつけまくった。


CGではない生の迫力、何でもありの荒々しい演出に、自分達は酔いしれた。
怪獣に食い付いて車にはさほど興味を示さなかった幼児の自分も、 カーアクションは別だ。
追う、追われる、この単純な構造が面白いのだ。


「ジャグラー~ニューヨーク25時」も、これまでの誘拐ものやカーアクションの影響を受け継ぎ、暴走しまくる。
悪徳刑事も加わり、主人公に街中で銃をぶっ放し、滅茶苦茶だ。
雑多なB級感も含めて、この映画が愛される理由が分かる。


社会に恨みを持つ犯人と、娘を救いたい主人公のエネルギーがバッチバチに全開なのである。
この二人の執念がクライマックスに激突する。
ジェームズ・ブローリンもクリフ・ゴーマンも、一流俳優とは言い難い。


人気のあった俳優でもないし、アカデミー賞受賞俳優でもない。
その二人の体を張った剥き出しの演技が、映画のボルテージを上げるのだ。
物語だって唐突で、計算され尽くしたものではない。


この洗練されてなさ、無軌道だからこそ、この映画の疾走感が生まれたのだ。
今の映画にはない、人間の生身の凄味を味わえる。
オープニングからエンディングまで、狂ったように突っ走るこの映画は、製作から45年経った今も輝き続ける。





中野量太監督とは、一度だけお会いしたことがある。
映画の上映会で、ある女優さんに紹介して頂いた。
まだ彼が今ほどの地位を築いていなく、監督作が評価され始めた頃。


実に素っ気なく、感情は無のままで頭を下げられた。
まあ、そうだろう。
知られていない、誰も知らない自分に、興味を 持つはずがない。


その後、彼の映画を観て、毎回驚きと感動を与えられている。
「兄を持ち運べるサイズに」
家族の死と向き合いながら、常に軽妙さとユーモアを散りばめる。


だからこそ、最後にガツンとやられるのだ。
「湯を沸かすほどの熱い愛」でも、「長いお別れ」でも、死を暗く重く描くことはしない。
亡くなったのは、自由で駄目過ぎる兄。


お金を貸してくれと嘘ばかりつき、迷惑掛け通しで疎遠になり、急に死の報せが届く。
村井理子さんのエッセイ「兄の終い」が原作。
兄にさんざん振り回された妹と、離婚した元嫁が兄の後始末をする4日間の物語。


そこには自分達の知らない兄、元夫がいた。
駄目さ加減につい笑ってしまうが、自分もどちらかというと駄目男である。
数え切れない程、やらかしてきた。


何も成し遂げていないし、50歳代になってようやく先が見え始めた。
オダギリジョーさんは愛すべきキャラクターだが、身近にいたらうんざりする存在だろう。
それでも、駄目な兄でも、失ってみると良き思い出も蘇って来るのだ。


中野量太監督の描く家族はどうしようもない。 どうしようもないながら、微笑ましくもあり、生きてるパワーを感じさせる。
毎回、まんまと泣かされてしまうのだな。








MTVが登場して、音楽を見る時代になった1980年代。
マイケル・ジャクソンにデヴィッド・ボウイ、ポリス、マドンナ、とても恵まれた時代だった。
ブルース・スプリングスティーンは、アメリカのロック。


しゃがれた声で骨太。
パワフルで男臭く、熱狂的なファンがいた。
特に1984年に発表されたアルバム「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」の勢いは凄まじかった。


「スプリングスティーン~孤独のハイウェイ」
この映画は、アルバムが発表される前のスプリングスティーンが精神的に病んでいた時代の映画である。
人気もあり曲もヒットし、充実しているはずの彼だったが、内心は苦しんでいた。


自分の内と向き合い、闘い続けていたのだ。
1982年に発表された「ネブラスカ」の前夜である。
内省的で、スプリングスティーンの真実に迫る物語だ。


自分の周りには、多くのファンがいた。
自分はそこまでではなかったので、彼がこれ程
追い込まれていることを知らなかった。
現在も鬱病と闘っているのだと言う。


スプリングスティーンを演じるジェレミー・アレン・ホワイトは、本人に決して似てない。
けれども、ギターを抱え歌うと、スプリングスティーンが憑依する。
歌唱シーンは圧巻である。


「アプレンティス~ドナルド・トランプの創り方」でトランプに影響を与える弁護士を演じたジェレミー・ストロングが、スプリングスティーンのマネージャーを演じている。
スプリングスティーンは父親との間に確執があった。
彼を追い込んだ理由のひとつだ。


スターに付きまとうのは、光と影。
栄光ばかりではない。
スプリングスティーンのファン必見の作品である。