映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン -18ページ目


シネマート新宿ハードコア傑作選。
「キング・オブ・ニューヨーク」
役者をやっていた頃、クリストファー・ウォーケンも好きな俳優の1人だった。


特に「ディア・ハンター」のベトナムに捕らわれた兵士と、「デッドゾーン」の特殊能力を持つ男。
この2作品における彼の演技は特別だった。
虚ろな目と壊れそうな佇まい、哀しみが似合う。


アベル・フェラーラ監督が「キング・オブ・ニューヨーク」でマフィアのボスに選んだのは、この虚ろな目をした男だった。
5年の刑期を終え出所した男は、他の組織との抗争へと駆り出されていく。
そして自身も追い込まれていくのだった。


強そうとか怖そうとか迫力、そういったものをウォーケンは翳さない。
冷酷無比で感情を表に出さず、他を圧倒していく。
それがウォーケンの個性だ。


野望を抱きながら、果たせずに追い詰められていくウォーケンの演技が素晴らしい。
この感情を殺した演技が、フェラーラが彼をボスに選んだ理由だろう。
タランティーノの「トゥルー・ロマンス」での名シーンも、この役があったからこそ。


街の喧騒、警察に囲まれ、ひっそりと息を引き取るシーン。
ウォーケンはこれまでの作品でも、死で客の心
をぐっと掴んだ。
この映画でも、極悪非道を繰り返しながら、死は厳かで美しい。


孤高の死だ。
晩年にも彼は長身を生かし、他の俳優なら陳腐になるような役を好んで演じた。
同世代の俳優にはないオリジナリティで、彼の存在は輝くのだった。









シネマート新宿で開催されているハードコア傑作選。

観逃している、ちょい激しめの映画を映画館で堪能出来るチャンスだ。

「ローリング・サンダー」



ベトナムで精神をやられた帰還兵の復讐劇。

この前、「メルト」という異色のリベンジ映画を紹介した。

「ローリング・サンダー」は実にストレートなバイオレンスだ。



思い出すのは、同じく帰還兵で病んだ男が主人公の「タクシードライバー」

「タクシードライバー」のポール・シュレーダーが脚本であるから、似るのも当然か?

こちらは妻子も右腕も奪われ、復讐鬼と化す。



相棒にまだブレイク前のトミー・リー・ジョーンズが出演しているのも嬉しい。

端正な顔立ちで、若くて初々しい。

トミー・リー・ジョーンズが復讐を手伝うのだ。



監督は「ロックアップ」等を手掛けたジョン・フリン。

アクション映画を得意としたが、あまり優れた作品は残していない。

しかし、「ローリング・サンダー」は、70年代のあの時代とマッチして、快作に仕上がっている。



主役はウィリアム・ディベイン。

この人もそれほど知られていない。

がしかし、ゴリラ顔の渋い顔立ち、一世一代の名演と言っていい。



娼館でのクライマックス。

これも「タクシードライバー」を彷彿とさせる。

70年代のB級アクション映画、眠らせるには惜しい。












「木の上の軍隊」
井上ひさしさんが書こうとしていた物語。
沖縄県伊江島で、戦中に2人の日本兵が約2年間生き延びた実話。


彼らが過ごしたのは、ガジュマルの木の上。

敗戦を知らず、身を潜めて生き抜いた。

こまつ座が井上ひさしさんの意志を継いで舞台化。



今回、ついに堤真一さんと山田裕貴さん共演で映画化となった。
小野田さんや横井さんの話はニュースにもなり有名だが、この話は我々の世代にはほとんど知られていない。
生死の境で何とか生き、しかも木の上で生き続けるとは、どんな思いなのだろう?


共に生きるのは、世代の違う2人。
価値観も違うし、ぎくしゃくするのは当たり前。
理解し合い、時にはいがみ合い、ユーモアも交えての奇妙な2人暮らし。


戦争は悲惨で多くの命を奪うが、我々人間は学ぶことをしない。
人間は数え切れない生命を奪って来たが、人間を滅ぼすのも人間だろう。
それでも、作品のメッセージは胸を打つ。


作られることは無駄ではないし、語られ、伝えられてゆくのは大切なことだ。
母の父親もビルマで亡くなった。
小野田さんや横井さんのニュースを見た時、もしかしたら私のお父さんもどこかで?と思ったと言う。


日本中の誰もが、そう過ったに違いない。
それを息子に語った母の顔は忘れられない。
木の上で過ごす2年間、想像してみよう。