洋子を愛し、鴉に憑かれたカメラマン | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


「レイブンズ」とは、鴉(カラス)のことである。
1970年代に活躍した、深瀬昌久というカメラマンがいた。
愛する妻洋子を撮り、鴉を撮って成功したカメラマンである。


日本ではそこまで有名ではない。
自分もこの映画を観るまでは知らなかった。
劇的な人生がそこにはあった。


芸術家の岡本太郎さんも、鴉が好きで飼う程だった。
芸術家にとって、鴉は惹かれるものなのだろうか?
深瀬昌久さんの生き方は破天荒。


写真への想いは強く、酒に溺れ、弱さや脆さを持ち、そこがまた魅力だったのかもしれない。
洋子というかけがえのない存在を手にし、洋子によって幸せを掴み、そして自分を破壊していった。
器用には生きられないのだ。


浅野忠信さんが、人間のどうしようもなさを剥き出しで演じる。 
対するは、今年公開の「敵」や「ゆきてかへらぬ」にも出演し、引っ張りだこの瀧内公美さん。
二人の関係が人間臭くて、愛おしい。


父親役の古舘寛治さんも凄まじい迫力で君臨する。
暴力的で無軌道で多くを語らず、主人公と激しくぶつかり、絶対的な家長。
この父親に反発したからこそ、深瀬さんの暴走人生があったのだ。


イギリスのマーク・ギル監督が、深瀬さんの存在を知り、映画化に動いた。
もう一人の自分、鴉人間を横に置き、ぐっと映画の個性が増した。
洋子との関係、父との関係、そこに困難があるからこそドラマが生まれる。


最期の20年は転落事故で、病との闘いだった。
深瀬昌久さんのカメラに注いだ凄絶な日々。
自分らしく生きて燃え尽きた人生を我々に教えてくれた2時間だった。