マーティン・スコセッシが魅せる天国と地獄 | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


人間の栄光と挫折を描かせたら、マーティン・スコセッシの右に出る者はいない。
「午前十時の映画祭」での「カジノ」。
マーティン・スコセッシの代表作では、名前が挙がらない作品だ。


だが、この映画に自分はとても興奮した。
「レイジング・ブル」にしても「グッドフェローズ」、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」、最新作の「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」も、スコセッシお得意の栄光と転落が生々しく表現される。
しかも、イタリア移民である彼が実際に体験し、その目で見て肌で感じた裏社会のリアルが映画に根付いているのだ。


スコセッシの凄味はそこだろう。
低迷期に入る前のロバート・デ・ニーロがカジノのマネージャー役。
権力を手に入れた男の実話を元にして描いた力作だ。


相棒ニッキーを演じたジョー・ペシ、ここでもずば抜けて存在感を発揮。
「グッドフェローズ」でアカデミー賞助演男優賞を受賞しているが、こういった二面性のある役が何て似合う怪優なのだろう?
甲高い声と、キレたら止まらない暴走っぷりが見事だ。


昨年日本で公開された「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」も 絶賛されたスコセッシは、約50年トップを走り続けていることになる。
人間の暴力的本能や欲望をリアルに見せる天才である。
「カジノ」でも、上り詰める者と転落する者の駆け引きが恐ろしくもあり、物語としても息を呑む面白さだ。


「タクシードライバー」や「レイジング・ブル」は、自分の人生においても大切な作品。
多大な影響を受けた。
自分も役者やバンドで売れなかった頃、食えないのでバイト生活を繰り返し、随分裏社会のリアルを目撃した。


渋谷の円山町や新宿の歌舞伎町で。
人間の坩堝だからこそ、日常から外れたドラマが生まれる。
マーティン・スコセッシは、映画でそれを我々に教えてくれるパイオニアなのだ。