桃子よ、暴走せよ! | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


腹がもたれる程に見応え十分な快作が、「愛に乱暴」である。
何だか凄いものを観てしまった、鑑賞後に味わう。
江口のりこさんの怪演も含めて。


夫婦仲が上手くいってないのは明らかだ。
主人公の桃子は、すれ違う夫に歩み寄ることを諦めない。
だが、寧ろそれが距離を引き離していく。


彼女の行動は、あまりにも突飛で可笑しさも漂う。
観ていたら笑ってしまうが、彼女は傷付きながら自分を保とうと必死だ。
可笑しくて悲しい。


夫の小泉孝太郎さんや、その母親の風吹ジュンさんの受けの芝居も素晴らしい。
彼らの困惑がリアルだからこそ、余計に夫婦の問題が炙り出されるのだ。
主人公の暴走は、主人公が受け止め切れない程の戸惑いによる。


観客は夫婦の亀裂と崩壊を、こっそり覗き見るように見つめる。
多かれ少なかれ、このような夫婦は世界中に転がっているだろう。
決して他人事ではない。


こんな映画を観たかったし、こんな江口のりこさんを観たかった。
自分の中では、主演女優賞級の圧倒的な演技である。
いつまででも観ていたいと思った。


主人公の桃子に共感する方は多いだろう。
あれだけ追い込まれたら、何が正解なのか?
人と人が共に生きていくことの難しさを、嫌という程考えさせられる怒濤の105分だった。