
これは非常に通好みの映画。
「理想郷」
実に見応えあり。
フランス人夫婦が暮らすのは、スペインの小さな村。
夫は有機栽培で野菜を育てることに夢を抱き、慎ましく幸せに暮らすことを望んでいた。
だが、隣人兄弟は彼らを歓迎せず、嫌がらせが続くのだった。
兄弟達が抱えているのは、生まれた時からずっと続く貧困。
フランス人夫婦との意見も合わず、対立。
次第に不穏な空気が流れ始める。
監督は「おもかげ」でも評価された、スペインのロドリゴ・ソロゴィエン。
サム・ペキンパーのバイオレンス映画「わらの犬」とも比較される作品だ。
意外性もあり、サスペンス描写も心憎い程上手い。
見事なのは、長回しと省略である。
サスペンス描写にはたっぷりと時間を掛け、そこを切る?というところを敢えてバッサリと切る。
それがまた、前半と後半に分かれた映画の効果を上げている。
主演は自分も大好きな俳優、ドゥニ・メノーシェ。
パンフレットのインタビューにも掲載されていたが、自分も衝撃を受けた「ジュリアン」以降、オファーが殺到したと言う。
暴力的な父親を演じたあの時から、彼の演技はその体躯も生かした、彼だからこそやれる役で 場面をかっさらっている。
「理想郷」でも存在感は抜群だが、彼を脅かす隣人兄弟と、妻役のマリナ・フォイスの静かな演技に挟まれ、魅力的だ。
ドゥニは「羊たちの沈黙」のアンソニー・ホプキンスに影響を受けたそうだが、彼の演技を見ると納得だ。
映画には、仕掛けもいくつも散りばめられ、それぞれの役の思いが切実で、片方を悪とも言えない。
複雑な事情が絡み合っている。
世界中のどこででもありそうな話だ。
だからこそ怖い。
実際にスペインの村でオランダ人夫婦が受けた事件が元になっている。
今も絶えない戦争も、こんなところから始まるのだ。