パク・チャヌク、新機軸 | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


韓国のパク・チャヌク監督はファンも多いと思う。
カンヌ国際映画祭グランプリ作「オールド・ボーイ」等、復讐3部作は鮮烈だった。
エロスとバイオレンスに彩られた過激な作風で知られる。


新作「別れる決心」は、明らかにいつもの監督作とは異なる。
刑事と、被害者の妻であり事件の容疑者でもある女との、分かり易く言えばラブストーリー。
そこに激しい暴力やラブシーンはない。
正統派のサスペンス映画である。


あまりに抑えた演出に、こちらが拍子抜けする程だ。
主演は、中国の女優タン・ウェイ。
体当たりの演技を魅せた「ラスト、コーション」から早16年、もう彼女も43歳になった。


妖艶で男を狂わせていく未亡人は、彼女にぴったり。
それでも大胆な濡れ場もなく、目線や仕草、静かな佇まいで役を生きる。
翻弄され崩壊していく刑事に、パク・ヘイル。


ポン・ジュノ監督との共闘は有名だが、特に「殺人の追憶」で見せた容疑者役は絶品。
妻がいながらも容疑者に振り回されていく男を、今回絶妙な匙加減で演じた。
主演二人とも、大人の芝居だ。


そこに多少物足りなさを感じる自分は何だろう?
パク・チャヌクらしい爆発力を期待したのだろうか?
ラストもまるでフランス映画のようだ。
パク・チャヌクはこの作品でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞。


エロスもバイオレンスもいらない。
過剰な演出もいらない。
ただ、パク・チャヌク監督らしいヒリヒリとした痛みや緊張感はもうひとつだった。
その醍醐味を味わいたかったのは、自分だけではあるまい。