
この人の映画を観ていると、経験が違うのか全てにおいて敵わないんじゃないか、と思える映画監督がいる。
例えば、「バベル」のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。
「8人の女たち」のフランソワ・オゾン、達観しているというか、物語を紡ぐ能力だけじゃなく、自分よりもずっと太く生きてる感じがするのだ。
スペインのペドロ・アルモドバル監督も、そんな一人。
もちろん傑作ばかりじゃないけど、物語の強さ、その人となりが出て、圧倒されてしまうんだな。
新作「パラレル・マザーズ」を観ても、そう思った。
子供の取り違えを軸に、主人公の選択に迫るサスペンスを絡めた人間ドラマだ。
重い題材に、スペイン内戦の虐殺も描き、アルモドバルらしく腹に響く映画である。
もちろん彼の永遠のテーマである母の物語であり、鮮やかな赤に彩られている。
ジャニス・ジョプリンの「サマータイム」の重々しいイントロが流れた時、主人公の名前がジャニスであることが腑に落ちた。
主人公の母親はジャニス・ジョプリンが好きで、娘にジャニスと名付け、ジャニスと同じく27歳で早逝した。
ペネロペ・クルスは主人公を演じて、ヴェネチア国際映画祭主演女優賞を獲得した。
ジャニス・ジョプリンの「サマータイム」を初めて聴いたのは、新宿のゴールデン街だった。
18歳の時、田舎もんが強烈な環境で、あのしわがれた歌声を味わった。
それから、彼女のアルバムを求め、ドキュメンタリー映画にも出掛けた。
破滅的に生き、天に散ったアーティストや俳優に憧れた。
ジャニスもジム・モリソンも、ジェームズ・ディーンも、マリリン・モンローも。
飢え、もがき、苦悩し、ぶっとく生きた彼らを追い掛けた。
映画の中で主人公は葛藤する。
嘘をつき、現実から逃れ、 余計に苦しむ。
主人公を妥協なしで追い込むところも、アルモドバル監督らしい。
短編「ヒューマン・ボイス」も、同時公開中だ。
こちらはティルダ・スウィントンの歪んだ一人芝居が30分観られる。
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