
韓国で大ヒット、韓国の青龍映画賞でも最優秀作品賞と監督賞、韓国映画が好きな自分でも「モガディシュ~脱出までの14日間」を観るのを躊躇った理由があった。
リュ・スンワン監督、その人である。
「クライング・フィスト」や「ベルリンファイル」「ベテラン」等、アクション大作を得意とする映画監督だ。
確かに見せ場は大迫力なのだが、いわゆるハリウッド的で大味な印象。
ドラマ部分にいつも今ひとつ感情移入出来ないのである。
ソマリア内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員達の脱出劇。
実話の映画化だし、主演のキム・ユンソクは好きな俳優、なのに嫌な予感しかしなかったのだ。
しかし、予感は見事にハズレた。
この映画ももちろんカーアクションや戦闘シーンありで、実にリュ・スンワン監督らしい。
そのゴリ押しが続くかと思いきや、ここには沈黙や語らない魅力が詰まっている。
脚本はリュ・スンワン自身。
北朝鮮と韓国の分断は、ここでも描かれる。
追い込まれた2つの国の者同士の諍い。
だが、究極の状況だからこそ、育まれる友情もある。
映画では多くを語らない。
それを体現しているのが、「チェイサー」や「1987、ある闘いの真実」のキム・ユンソクである。
彼は普通の人をリアルに演じ、ソン・ガンホやチェ・ミンシクと並んで、韓国のトップ俳優である。
彼の表情や背中が語る語る。
物言わぬのに、思いがそこから溢れ、伝わってくるのだ。
そこを台詞にしなかったリュ・スンワン監督の演出にも痺れた。
だからこそ、銃撃を受けながらの激しいカーアクションが活きるのだ。
エンターテイメントとしても面白いが、この沈黙に泣かされてしまった。
韓国映画には絶対的な主題もあり、それがまた韓国映画の魅力でもある。
これだから韓国映画にハマってしまうのだ。
語らない彼ら、語れない彼らに、泣いてほしい。
リュ・スンワン監督、キム・ユンソク、これからも追い掛けますぞー!