
「ドライブ・マイ・カー」でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞した、今世界に通用する偉大な映画監督、濱口竜介監督。
彼とは思い出がある。
15年くらい前。
ある団体から声が掛かった。
その前に出演した作品を観ての依頼。
ヤクザ役で、途中で殺されるが、インパクトのある、いわゆる美味しい役。
その前の作品を手伝っていた濱口監督も、監督を依頼された。
お互いに外部からということもあり、やりにくさと何か意味のいるものにしたいという思いもあった。
目黒で待ち合わせしたのが、最初の出会いだった。
二人でコーヒーを飲んだ。
映画好きの二人だから、話は弾んでいたように思う。
多分。
レオス・カラックスの話と、ジュリエット・ビノシュの話が出たのは覚えている。
彼が撮った短編映画も見せてもらったが、本人の言う通り「汚れた血」の影響を感じさせた。
前のめりに演出するタイプではなかったが、自分が演じるヤクザの煙草のシーンにはきっちり演出をつけた。
「ドライブ・マイ・カー」の中でも、煙草のシーンは印象的だ。
あの時は板挟みで苦しかったはずだ。
今は自分で納得する本を書き、媚びることなく自分の世界を映画で伝えている。
あの頃、才能のあった監督を何人か思い出す。
濱口監督だけでなく、それぞれ世界観を持ち、面白い映画を撮っていた。
でも皆、やめてしまった。
俳優も必要とされなければ消えてしまうが、監督もそれで生きていける人間はほとんどいない。
だから、彼の存在は今、とても眩しい。
きっと、もっともっと遠くへ行ってしまうのだろうな。