映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


スイス・ドイツ合作映画「ナースコール」が絶賛されている。
オープニングからエンディングまでの92分、釘付けになる。
何故この作品がこれ程愛されるのだろう?


ダルデンヌ兄弟を思わせるドキュメンタリー・タッチ。
主人公はプロ意識の高い看護師。
人手の足りない医療現場に、彼女と共に我々も一気に放り込まれる。


患者のために薬を準備し、巡回し、ナースコールにも対応する。
電話は引っ切りなしに掛かって来る。
もちろん急ぎの用もあるが、些細な電話も向こうはお構いなし。


主人公を追うカメラに緊迫感が増す。
演じているレオニー・ベネシュにも隙がない。
「ありふれた教室」や「セプテンバー5」で彼女の演技は世界的に知られたが、今回はプロの看護師を完璧に演じる。


人が足りないから当然、対応も遅れる。
クレームも発生し、彼女の心は疲弊していく。
厄介なクレーマー、世界中どこにでもいるが、彼らには彼女の心は分からない。


遅れを取り戻そうと彼女は苛立ち、余計に空回りする。
そこは命を預かる現場。
切迫した状況に彼女はどんどん追い込まれていく。


世界のどこにでもありそうな話。
現実に今もどこかでこのような問題が繰り返されている。
医療関係者への愛がたっぷり詰め込まれた傑作だ。







「レンタル・ファミリー」
サーチライトピクチャーズ配給のアメリカ映画。
しかし、主演以外は日本人で、しかも全編日本での撮影だ。


ブレンダン・フレイザーの劇的な復活劇は記憶に新しい。
「ハムナプトラ」で主演を務め、順風満帆に見えたが、数々の問題で一線から遠ざかった。
特にセクシャルハラスメントの被害が大きく、鬱となった。


ブクブクに太った「ザ・ホエール(2022)」の主演で、彼の人生は変わった。
ブレンダン・フレイザー自身の苦悩を表したような主人公で、彼はアカデミー賞主演男優賞を受賞。
今回の「レンタル・ファミリー」でも、彼の人柄が滲み出る。


「ハムナプトラ」 の時はスタイルも良く、二枚目のアクション俳優だった。
ガラッと姿を変えたが、愛すべきキャラクターになった。
普通の芝居が必要な役で、濃い顔が浮くかなとも思ったが、彼は実はリアクションが上手い。


表情のない日本人との相性もバッチリ合う。
巨体で戸惑う様はユーモアたっぷり。
売れない俳優というのも、彼が共感した点だろう。


一度ブレイクしたものの仕事がない俳優、正に彼そのもの。
日本でレンタル・ファミリーという仕事を得て、関わる人々と心を通わせていく。
彼以上のキャスティングはない。


オスカーを獲得した後にこの役を選んだことも頷ける。
単なるハリウッド俳優ではないスタンスが、今の彼の魅力だ。
共演者とのアンサンブルも心地いい。


中でも、老優を演じた柄本明さんとのクライマックスは泣ける。
柄本明さんの腹の底から絞り出すような演技も凄まじいが、それを受け切るブレンダン・フレイザーも互角に渡り合う。
監督はアメリカを中心に活動するHIKARI監督。


人と人が触れ合うことの素晴らしさを映画は教えてくれる。
「ザ・ホエール」にも負けないブレンダンの渾身の演技を見よ!
挫折を経て、誰よりも輝いているではないか!








最近の時代劇は、全盛期のものに負けないようにと様々な工夫を凝らしている作品が多い。
殺陣が上手な俳優は明らかに減ったが、殺陣やアクションを前面に押し出した作品が増えた。
殺陣の面白さを追求したものも少なくない。


「侍タイムスリッパー」は、時代劇の面白さ、殺陣の素晴らしさを我々に教えてくれた。
「カメラを止めるな!」もそうだったが、映画を愛する者達の思いは伝わるのだということも教えてくれた。
「木挽町のあだ討ち」には、「侍タイムスリッパー」主演の山口馬木也さんが大事な役で出演している。


お笑い芸人にはM-1やキングオブコントがあり、そこから這い上がった芸人さんも多い。
彼らの優勝の瞬間は毎回感動するが、その裏では負けた者達の悔しさも見え隠れする。
自分も全く役に恵まれない俳優だったから、余計にそこは敏感だ。


俳優がある役に巡り会い、花が開いていく。
奇跡はそうそう起こらないが、その出会いによって羽ばたいていく姿は美しい。
さて、「面白い!」という声が溢れている「木挽町のあだ討ち」である。


この映画は殺陣の凄味やアクションの面白さだけではなく、物語が抜群に面白い。
永井紗耶子さんの優れた原作を、より映画的に仕上げた脚本の妙。
二転三転あり伏線ありで、映画の醍醐味、時代劇の醍醐味を十分に堪能出来る。


役者の力量も隙がなく、北村一輝さんの濃い顔が生かされて可笑しい。
美術やセットも名場面製造機のように力を貸した。
意外なのは、この映画が源孝志監督作品であること。


申し訳ないが、このベテラン監督はこれまでノーマークだった。
これほどの完成度の高いエンターテインメントを作れる監督だったとは!
いくつもの謎を回収していく巧みな展開で、しっかり映画の術中に嵌められてしまった。


時代劇が衰退と言われて久しい。
しかし近年の時代劇を観る度に、こんな面白いものを衰退させてはならないと思う。
役者として殺陣で貢献することは出来なくなったが、一観客としてこれからも時代劇を応援したい。