映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


「メイ・ディセンバー」
5月と12月。
歳の差のあるカップルを意味する。


アメリカでは、実際に「メイ・ディセンバー事件」が起きた。
36歳の女性と13歳の少年の不倫愛が世間を騒がせた。
女性は刑務所に入り、獄中で相手の子を出産した。


この事件を元に、トッド・ヘインズが映画化。
事件を映画化することになり、女優役のナタリー・ポートマンが、当人のジュリアン・ムーアに接近していく。
かつてのトッド・ヘインズが描いた「キャロル」同様、女優には演じ甲斐のある女性映画である。


「キャロル」では、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラが、お互いに一瞬で惹かれる様を映像化した。
「ダーク・ウォーターズ」では、強力な演技派布陣で汚染問題を訴えてみせた。
今回は、ナタリー・ポートマン演じる女優が、演技に傾倒する余り、暴走していく。


後半になるにつれ、二人の大女優を揃えた意味が分かる。
グレイシーがエリザベスに憑依していく様が怖い。
二人が1つになり、沼にはまったまま抜け出せなくなるのだ。


果たして。
36歳と13歳で 劇的に出会った二人は幸せなのだろうか?
困難を乗り越えた今、本当の幸せを掴んだのだろうか?


男と女にはいろんな形があり、それぞれの出会いや別れがある。
価値観も違い、時には後先も考えずに求め合う。
だからこそ面白いのだが、危険と隣り合わせでもある。






知らない監督さんの作品だと、観ようというきっかけはキャストだったり物語だったりする。
「大いなる不在」
キャストも申し分ないし、物語にも惹かれるので観たい 気持ちを後押しする。


主人公と父の関係は複雑だ。
幼い頃に、母と共に捨てられたからだ。
30年近く離れて暮らしていて、再会してもぎこちない。


ぎこちない関係の父親は認知症だ。
ますます父親のことが分からない。
謎だらけの父親を、息子が少しずつ探り、理解していく。


自分の父親は13年前に亡くなったが、亡くなった後に知ることも結構あった。
母親をその2年前に亡くしたことにより、老いも認知も激しくなった。
そんな父が、母のことを強く想っていたことが後に分かる。


若かりし母親に宛てられた手紙、いわゆるラブレターも残してあったし、白黒の若い頃の母の写真がわんさか出て来た。
朝のワイドショーでも取り上げられたが、母が亡くなった後にアルバムから母の写真を切って、枕元に忍ばせていた。
それを発見した時は、何だかこそばゆい感じがした。
自由で気まぐれで不器用な父の、別の顔だった。
家族が自分だけとなったその時の孤独感はかなりだったが、知らない父を知るのは良い体験だった。
今度は自分が父の年齢に近付いている。


以前よく藤竜也さんが駒沢公園を走ってる姿を見掛けたが、藤竜也さんはあの時のまま迫力ある佇まいでスクリーンに立つ。
老いて尚、巨大な壁のように息子の眼前に君臨する。
故に息子は、振り回され、圧倒されるのだ。


映画は詩的でアーティスティックで、決してストレートではない分かりづらさはある。。
サスペンスでありミステリーでもあり、知らない父親を知る旅でもある。
観ている間、謎多き自分の父の姿が頭から離れなかった。







今、男臭い映画を撮る監督と言えば、アメリカのマイケル・マン監督が思い浮かぶ。
ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが初めて絡んだ「ヒート」や、「アリ」、「インサイダー」に「コラテラル」。
男のムンムンとした熱い戦いが、マイケル・マン映画の特徴だ。


アメリカ映画には、古くから男と男の熱い物語の伝統がある。
ジョン・フォードの西部劇もそうだし、クリント・イーストウッドや、バイオレンスを売りにしたサム・ペキンパーもそう。
男が惚れる男を主人公にした熱いドラマに、男達は酔って来たのだ。


マイケル・マン監督の新作「フェラーリ」にも、もちろん男のドラマがある。
主人公はエンツォ・フェラーリ。
カーレースでは、当然男対男のドラマが見せ場だ。


だが、今回はフェラーリ自身の波乱の私生活がメイン。
 24歳の若さで息子を亡くし、冷え切った妻との関係、それから愛人ともう一人の息子との私生活が描かれる。
その狭間で苦悩するフェラーリの物語だ。


なのでペネロペ・クルス演じる妻と、シャイリーン・ウッドリー演じる愛人の気持ちに寄り添う女性達も多いかもしれない。
二人の間で揺れ動くフェラーリと、歯痒い私生活を送る二人。
物語の核はそこにある。


マイケル・マンが凄いのは、徹底してカーレースをリサーチしたのではないということ。
実際にこれまでもレースに何度も参加する、アマチュアのレーシング・ドライバーなのだ。
だからこそ、本物の命懸けのレースが分かる。


自分は車やレースには詳しくないが、私生活で追い込まれながらも1つのレースに情熱を注ぐフェラーリに、息を飲んだ。
クライマックスのリアル。
やはり男を描かせたら、マイケル・マン!