映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン -2ページ目


ジャズには詳しくない。
「1975年のケルン・コンサート」
この映画に興味を持ったのは、ケルン・コンサートを成功に導いた18歳の女性プロモーターの物語だから。


キース・ジャレットについても、無知だ。
マイルス・デイヴィスのバンドでキーボードだったということも、全く知らず。
ましてや1975年の即興演奏でのソロコンサートが伝説となった事実も。


実在の人物ヴェラ・ブランデスの物語。
まだプロモーターには不慣れだったが、キース・ジャレットのコンサートのために奔走する。
父親との対立、兄との不和、反発しながらも前を向く若い女性。


困難に立ち向かう姿は清々しく、力をくれる青春映画だ。
ジャズ・ファンなら、余計楽しめるだろう。
但し、クライマックスで肝心のキース・ジャレットの演奏は聴けない。


本人がケルン・コンサートの演奏を気に入っておらず、コンサートアルバムの曲を使うのを断ったのだそう。
昔デヴィッド・ボウイの映画でも彼の曲を一切使えない作品を観たが、これは痛い。
何せクライマックスだ。


映画がひとつになる最高の瞬間に、実際の音楽が使えない失速感と言ったらない。
主人公がキース・ジャレットを説得したように、監督は彼を説得出来なかったのだろうか?
実に勿体ない。


それでも、見所は多い。
本当は29歳の女優マラ・エムデ(これもどうかとは思う)がコンサート開催のために駆け回るシーン。
キース・ジャレットに演奏してほしいと熱い気持ちを吐露するシーン。


以前、ジム・モリソンのことを綴った本で、彼がブレイクする時に、あるティーンの女の子が行動してくれたことが大きかったと読んだことがある。
一人の力が、何ものをも動かす。
一人の行動が周りを大きく変化させ、時代を動かすのだ。








ジェシー・バックリー主演の「ザ・ブライド!」を観た翌日。
彼女が主演女優賞を受賞した「ハムネット」を鑑賞。
これは完全にやられた!


自分のように役者を長いことやって、シェイクスピアの芝居も勉強した身として、これは刺さった。
「ハムレット」の芝居シーン。
この手があったかと感心もしたし、感動もした。


シェイクスピアの演劇は古典だし、多くの人が本や演劇で通っている道。
しかし決して分かり易くはなく、言葉に溢れ、難しいと思う人も少なくない。
「ハムレット」で有名な台詞も、「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」とか、「尼寺へ行け!」とか、知らない人には何?って思うでしょう。


でもこの映画「ハムネット」は、ちっとも難解じゃない。
美しいラブストーリーであり、喪失の物語だ。
クロエ・ジャオ監督らしい映像詩である。


「ノマドランド」ではアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞し、ヴェネチア国際映画祭でも金獅子賞を獲得。
「天国の日々」のテレンス・マリックのように、映像で語る女性監督だ。
二人が出会う「ハムネット」の森の深い緑は、圧倒的に美しい。


この本には原作があり、原作者マリー・オファーレルが共同脚本も兼任。
全てが事実ではないと思うが、シェイクスピアの妻であるアグネスを軸にして、彼女の心の奥深くに入っていく優れたストーリーだ。
特にクライマックスの芝居シーンは必見である。 


クロエ・ジャオ監督は、「ハムレット」の演劇シーンをたっぷり見せる。
舞台の上、観客席のアグネス。
この劇場の張り詰めた空気から一体感を生んでいく演出に、心奪われる。


ジェシー・バックリーは「ザ・ブライド」とは真逆の演技でオスカーを得た。
客席ではもちろんほとんど台詞はないが、彼女の表情ひとつひとつにどれだけ引きつけられることだろう?
今後の彼女の出演作は、絶対観た方がいい!






「ザ・ブライド!」
クリスチャン・ベールがフランケンシュタインを演じる。
これは、観ないわけにはいかない。


女優のマギー・ギレンホールが監督・脚本。
マギー・ギレンホールと言えば、「ダークナイト」のヒロイン等を演じたハリウッド女優。
これが意外にも、パンク魂全開の逃走劇だ。


「フランケンシュタイン」は怪物映画の古典。
ドラキュラや狼男と並んで、何度も映画化されている。
「フランケンシュタインの花嫁」も、これまで何度も語られてきた物語。


最初の映画化「フランケンシュタイン(1931)」の続編で、1935年に公開された。
主演は前作と同じくボリス・カーロフ。
このボリス・カーロフ版が、皆さんのイメージするフランケンシュタインであろう。


今回のマギー・ギレンホール作品は、フランケンシュタインの逃避行を描いている。
1960~70年代に新しい波として生まれたアメリカン・ニューシネマの影響が大。
まるで「俺たちに明日はない」のボニーとクライドのようだ。


ギレンホールの演出もそこを意識し、ニューシネマにオマージュを捧げたような作り。
「ハムネット」でアカデミー賞とゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得したジェシー・バックリーが花嫁、脇の俳優陣も豪華だ。
ペネロペ・クルスやジェイク・ギレンホール、ピーター・サースガード、アネット・ベニング、面白いキャスティングである。


「ブライド」ではスティングが主演し、ジェニファー・ビールスが花嫁を演じた。
ロバート・デニーロが主人公を演じたケネス・ブラナー版「フランケンシュタイン」では、ヘレナ・ボナム・カーターが花嫁で怪演を魅せた。
公開から30年以上経っているが、強烈に焼き付いている。


昨年公開されたギレルモ・デル・トロ版の「フランケンシュタイン」も話題になり、評価された。
怪物の悲哀を感じさせる、シンプルな物語が映画人を駆り立てるのだろうか?
今回も怪物のラブストーリーにして、バイオレンス。


マギー・ギレンホールの自由過ぎる解釈のフランケンシュタイン。
荒削りな展開は気になるが、これも狙いだろう。
人間も一人では生きていけないが、怪物だって恋もしたいし、一人では淋しいのだ。