いつも通りの騒々しい昼飯の後。


俺はキッチンで、シンクに山積みになった皿を洗い、水切りカゴに立て掛ける。


俺の隣で、あらかた水が切れた皿を取り出して、布巾で拭いていく、華奢な手。


「…手際がよくなったな」


視線は洗う皿に落としたまま言うと、ん?と隣から俺を伺うような気配がした。


「ここんとこ皿割ることもねぇし」


俺の動きを遮らず、自分の作業も進めていくようになった。


こいつがいねぇ時は、たまにトワやハヤテにやらせたが。


食器の扱いが雑だったり、水滴が残ったままの皿を棚にしまったりと、二度手間になり却って仕事が増えていた。


ヤローと女の違いなのか、性格の差なのか。


…どっちもあるんだろうが。


と、クスクスと楽し気な笑い声がした。


「…何がおかしい」


セレス 「あ、ごめん、おかしいって訳じゃなくてね」


コトリ、と拭き終わった皿を置いたセレスが俺を見た。


セレス 「ナギも、最初の頃は『女はキッチンに入るな』とか『邪魔だ』とか、言ってたでしょ?変わったなー、って思って」


ふふ、とまた少し笑ってから、セレスは作業に戻った。


…まぁ、確かに、な。


自分でも、随分変わったと思ってる。


他人とはなるべく距離を置いて、深く関わらないようにしてきた俺が。


ちらり、と隣で皿を片付けるセレスを見る。


何が楽しいんだか、にこにこしながら鼻歌なんぞ歌いやがって。


はぁ、と一つ息を吐くと、セレスがキョトンとした顔で振り向いた。


セレス 「ナギ?溜息なんてついて、どうかした?」


「なんでもねーよ。これ終わらせて休んだら、そろそろシュトレンでも作るか」


セレス 「やったー!ホントに作ってくれるんだ!?うれしい!!」


ぎゅ、と背中に抱きついてくる体温。


「アホ、皿割っちまうだろーが」


セレス 「あ、ゴメン、ついうれしくて。ナギのシュトレン楽しみだなー」


数日前に寄った港町で、クリスマス用の食いモンをあれこれ見ていたセレスが、一番気に入ったのがシュトレンだった。


一番の食べ頃がクリスマスの日になるように、少し前に作っておくのだとか。


ドライフルーツやスパイスが入ったパンは、確かにうまかった。


セレスがやたらとうれしそうに食べるので、予定外だったが食料品店で材料とレシピを仕入れた。


…どうせ他の奴らも食うだろうしな。


作ってすぐのシュトレンは少しパサついているが、何日かするとしっとりとしてくるらしい。


クリスマスにうまく食えるように、そろそろ作った方がいいだろう。







セレス 「あ、そろそろお洗濯物取り込まなきゃ」


紅茶と菓子で一息入れたセレスが立ち上がった。


「…俺も倉庫に材料取りに行くか」


キッチンを出て、階段を下りる。


セレス「終わったら、シュトレン作り手伝うね!」


ひらひらと手を振って、セレスは甲板を走っていった。


コケんなよ、という言葉を飲み込んで、俺は倉庫へとさらに階段を下りた。








シュトレンの材料の他に、キッチンでなくなりかけていたいくつかの食材を入れた木箱を持って、地下から甲板へと階段を上がる。


視界の隅にセレスを捉えながらキッチンへ向かおうとしたが。


セレス 「きゃーっ、やだーっ!!」


考えるより先に持っていた木箱を放り出し、セレスに駆け寄った。


「…どうした?」


言うと、涙目のセレスが抱きついてきたので、受け止める。


…ケガは、してねぇな。


セレス 「ナギぃ…」


近くには一緒に洗濯物を片付けていたらしいハヤテやトワもいたが、唖然としているだけだ。


「…何があった」


ハヤテ 「いきなりコイツがでけぇ声出したんだよ、ワケわかんねー」


トワ 「僕も何がなんだか…」


まるで要領を得ない。


シン「どうしたんだ」


リュウガ 「なんだぁ?セレス、ハヤテに襲われでもしたか?」


ハヤテ「なっ、んなワケないっしょ、船長!」


ソウシ 「セレスちゃん、大丈夫?」


騒ぎを聞きつけ、船長達まで集まってきちまった。


セレス 「・・し」


「あ?」


抱きついたままのセレスがモゴモゴと何か言ったが、聞こえねぇ。


「なんだ?はっきり言え」


セレス 「…ど、どん・・む、…む、し・・っ」


…は?


セレス 「ドングリ…松ぼっくり…にっ」


松ぼっくり?


見ると、甲板の上には、松ぼっくりや木の実が入ったカゴがひとつ。


ひっついて離れないセレスを引きずるようにして、そのカゴに近付いた。


…もしかして、コレか。


カゴの中には、木の実以外に、何か動いているものがあった。


「…虫、か」


つぶやくと、俺にくっついたままのセレスがこくこくと小さく頷いた。


セレス 「リース作ろうとこの間寄った町で拾ってきたのに…なんでこんな…」

ハヤテ 「はぁ?なにお前、こんなちっちぇ虫であんなでっけー声上げたわけ?」


シン 「…馬鹿馬鹿しい、付き合ってられん」


あからさまにバカにしたような顔をするハヤテと、早々に航海室に戻るシン。


リュウガ 「はははっ、セレスもやっぱり女だな!!」


ソウシ 「木の実には冬ごもりする虫が入っているからね。今日みたいに日差しがあって暖かいと出てくるんだよ」


トワ 「なんだ、虫にびっくりしちゃっただけなんですね、あぁよかったー」


真相を知って、呆れたり安心したりしながら、他の奴らはそれぞれの持ち場に戻っていった。


甲板には、俺達だけ。


…何が起きたのかと思えば。


俺はセレスを絶叫させた原因に視線を落とした。


セレスは見るのもイヤだとばかりに横を向いたままだ。


こんな、釣りの餌にもならねぇようなモンが、怖いのか?


「…虫、嫌いなのか」


言うと、泣きそうな顔をして頷いた。


まぁ、確かに気持ちのいいモンじゃねーけどな。


以前、宝探しの最中にヘビを見て大騒ぎになったが、まさかこんな虫もダメだったとは。


「…で?クリスマスリース、どうするんだ?」


セレス 「うっ…作りたい、けど、、、」


カゴの方に目を泳がせながら、怯んだような顔をする。


「…一旦、鍋で煮立たせちまえば大丈夫だから、乾かしてから使え」


セレス 「…え・・」


「ただし、鍋が汚れるからな。倉庫から使ってない古い鍋持って来い」


セレス 「…ナギ・・ありが、と・・」


「…早く行け。シュトレンも、晩飯の仕込みもあるんだ」


潤んでくる声を遮るように言うと、泣き顔から弾けるような笑顔に変わった。


セレス 「アイアイサー!」


…敬礼までしやがったか、コイツは。


思わず額に手を当て、深い溜息をつく。


セレス 「あ、呆れちゃった?ゴメンね」


ぱちぱちと瞬きをしながら、俺の顔を覗きこむ。


…ったく。


「…さっさと鍋持って来い」


セレス 「はーい!」


パタパタと走り去る背中を見ながら、もう一度、深く息を吐いた。


…呆れてるな、確かに。


セレスではなく、俺自身に。


他の奴らが「虫ごときにあんな声出して」と呆れているセレスを、


俺にひっついて離れないセレスを、


泣いたと思うとすぐに笑顔になる、コロコロ変わる表情を、


…可愛いじゃねぇか、


なんて思っちまう俺に、自分で、呆れるぜ。


こんなこと、セレスにも、他の奴らにも、絶対、言えねぇけどな。


ニヤつきそうになる頬を引き締めると、


俺はさっき放り出した木箱を持って、キッチンへと向かった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

セレスさん、すみません!

先日の『チーズフォンデュDE夢の萌え晩餐会』の折に、


『クリスマスのお話が読みたいです~』


とのありがたいお言葉をいただいたワタクシ、調子に乗ってお名前拝借致しました・・m(__)m



木の実からニョロニョロで絶叫、は去年の私の実体験です。


30数年生きて色々な経験してきましたが、知らなかった、ドングリから虫が出てくるなんてショック!


保育園のお散歩で収穫したドングリを、週末にリビングの床にばらまいて遊んでいたちびゆり。


私はキッチンでお料理中。

「ママー、なんか白いのが動いてるよー」


と言われ、ゴミかホコリだろう、と思って見に行ったら…


うきゃぁぁぁぁ!!!


…二階にいた夫は、階段を転がるように下りてきました。


我が夫は私のあまりの怖がり様にウケて大笑いしながら、お掃除してくれましたけどあせる


無脊椎動物、ダメなんです、私ショック!


ミミズだったら、ヘビの方が、まだマシ。


かなちょろ(←うちの辺りではこう呼ぶけど…小さいトカゲみたいな、庭先によく出没する)なら素手でつかめるしチョキ



うっかり読んでしまった虫嫌いなお嬢様、不快な思いをさせてしまったら、大変申し訳ありませんあせる


そしてセレス様、お名前お借りしておきながら、こんなお話ですみません…






クリスマスまであと10日音符


ナギお手製のシュトレン食べたいなードキドキ




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目次もどきです。

何か不具合がありましたらお知らせくださいませ。




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↓気紛れ更新中




恋に落ちた海賊王 -妄想版CLUB SIRIUS-



               




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↓完結



恋に落ちた海賊王 NAGI SIDE 


         ⑥‐1  ⑥‐2                               21  22  23   24  25  26  27   28   29   30





繚乱



        ④(アメ限)   




病める時も 



               ⑧(アメ限)  ⑨(アメ限)  





お仕置き



           ④(アメ限)    ⑤(アメ限)   ⑥(アメ限)   





魅惑のカジノ船編 -NAGI SIDE- 



 前編   後編





-Squall- 



前編   後編






SS   



余香  女神降臨    待降節    セツナイオモイ   願うのは・・  



I'm Sweet On You 前編   後編      月冴    



海底神殿・秘密(アメ限)   海底神殿・ひみつ  





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