母 (1963) 近代映画社 | ゆうべ見た映画

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懐かしい映画のブログです。
ときどき、「懐かしの銀幕スター」「読書」など
そして「ちょっと休憩」など 入れてます。

 

新藤兼人監督 

タイトルの「母」は 岡本太郎さんです

 

私は一番たくさんの 作品を観ている監督さんは

小津安二郎監督、次が成瀬巳喜男監督なのですが

三番目に多いのが 新藤兼人作品で

 

特に 新藤監督が40代から50代頃に撮った作品

この『母』をはじめ

『狼』『裸の島』『人間』『わが道』などの作品が 

何べん観てるか判らないくらい 大好きなのです

 

 

大ネタばれ、ご免です

 

 

戦後の広島

 

32歳の民子(乙羽信子)は

初めの夫は戦死し 

極道者だった二度目の夫とも別れ

 

今は 幼い息子の利夫(頭師佳孝)を連れ

実家の母(杉村春子)の家に 身を寄せている

 

気丈な母は昔 民子たちの父である夫に逃げられ

それからは 海沿いの粗末な家で 

民子の弟・春雄(高橋幸治)と暮らしていた

 

 

だが春雄は 母に反抗的で 

苦労して通わせていた大学を 無断で止めバーで働いている

 

ある日、民子は

体調の悪い利夫を 病院に連れて行くが

脳腫瘍と診断され 手術を勧められてしまう

 

呆然と歩く母子

 

民子は母に手術代を無心するが

「そんな難しい病気が治るものか

 無駄金だよ、どぶに捨てるようなものさ!」

利夫の前で 平然と言う母

 

そして

「また結婚して その男に払わせたらいいよ」と

民子の意向も聞かず 相手の男を連れて来た

 

それが 在日朝鮮人の印刷屋・田島(殿山泰司)

 

田島には 妻に出て行かれた過去と 

小学生の娘が一人いる

 

民子は勿論、気が進まなかったが

他に手立てがなく 母の言うなりに 田島と結婚した

 

印刷屋と言っても 店舗など無く

体がぶつかり合うほどの 狭い畳部屋での作業

ここで朝6時から 夜11時まで働く

 

しかし 田島はいい人間で 

手術代目的の結婚と知りながら

 

民子にも利夫にも優しく

利夫も 田島の娘とすぐに仲良くなる

 

利夫の手術は 成功した

 

狭い仕事場で 夫婦は汗だくで 作業する毎日だが

貧しくも平穏な暮らしがつづく

 

だが いつまで経っても

民子はまったく 田島に馴染めなかった

 

「俺はあんたと ずっと一緒に暮らしていきたい」

 

 

 

しかし、しばらくすると

利夫の病気が再発した

 

もう手術は出来ず 余命4か月と宣告される

 

医者は言う

「もう痛い思いはさせないで 

 残った時間を楽しくさせてあげなさい」

 

「出来るだけ治療してやり 一日でも長く生かしてやろう」

 

この田島の言葉に 

民子ははじめて彼に心を打たれた

 

日に日に 目が弱っていく利夫の

学校に行きたいという 願いを聞いて

盲学校に通わせる

 

盲学校

 

点字の教科書を読む利夫を家族で囲む

 

ここらへんのシーンから  

絶えず胸の奥が ゆるゆると揺さぶられ続けます

 

母と子が川辺に座り 点字の勉強をするシーン

 

「ことりが ないている」

「かわが ながれている」

「くもが うかんでいる」

「おとうさん、おかえりなさい」

 

利夫の子供らしい澄んだ声による

簡素な言葉の連なりが 心を打つのです

 

またあるとき 利夫はオルガンが弾きたいという

民子は 先のみじかい利夫の願いを 

何でも聞いてやりたかったが

 

しかし

既に借金まである田島に 民子が言いだせずにいると

 

それを知った 弟の春雄が 

関係を持っている バーのマダム(小川真由美)から

融通して貰い 買ってくれる

 

春雄は 母親は嫌っていたが

姉の民子を 幼い頃から慕っていた

 

随所に入る 幼い姉弟の回想シーンもいいのです

 

けれどこの後、春雄は

マダムをめぐる三角関係から 刃傷事件を起こし

命を落とした

 

利夫を夢中にさせた オルガンを遺して・・

 

 

しかし やはりその日は来た

利夫の死

 

その日から

 

深い虚脱感に沈む民子

 

聴こえるはずのない 

利夫の弾くオルガンの音を聴いて 

錯乱する民子を 田島は抱きしめて泣いた

 

やがて 

辛い日々のなかで それでも次第に 

落ち着きを取り戻していった民子は

 

あるとき、田島の横顔を見て ふと想う

 

「私はこの人を 

 ほんとの気持ちで 抱きしめたことがあっただろうか」

 

やがて 民子は身籠った

 

子供を産むことに否定的な母に 民子は言う

「私は田島の子を産みたい」

 

ラストシーン

 

「ことりが ないている」

「かわが ながれている」

「くもが うかんでいる」

 

今は穏やかな表情で

 民子が口ずさむシーンは 深く深く感動します

 

 

他に 宮口精二、佐藤慶、加藤武さんなどが出演されてます