故郷 (1972) 松竹 | ゆうべ見た映画

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山田洋次監督

 

この映画『故郷』は 

1970年『家族』、1980年『遥かなる山の呼び声』と共に

主演・倍賞千恵子さんの 「民子三部作」の中の第二作目です

 

数々の賞に輝いた

『家族』『遥かなる山の呼び声』に挟まれて

ひとつも賞を取っていない この映画ですが

私はこの作品が 一番好きです

 

実は 私は山田洋次監督の作品は

あまり観ていない

 

その中でも この『故郷』は 

地味ですが 非常に優れた作品だと思う 

もっともっと、評価されても良かったと思うけどな

 

舞台は

広島県・瀬戸内海に浮かぶ 倉橋島


この島に住む

精一(井川比佐志)、 民子(倍賞千恵子)

こども二人、そして夫の父(笠智衆)の 五人家族

 

夫婦の稼業は 石船と呼ばれる砕石運搬船で 

埋立地に石を運ぶ仕事だ

 

採石場で ブルドーザーによって

船に満タンの砕石を積みこむ

 

手作業で石を移動させ 船のバランスをとる

 

 

埋立地で 

積み込んだ石を 海に落とすときは

ほぼ垂直に近いほど 大きく傾く船

この作業を 一日に何往復もする

 

ほんとうに キツイ重労働だが

この穏やかな 美しい島で 

家族はつつましく 平穏に暮らしている

 

軽トラックで 魚の行商をしている松下さん(渥美清)

 

この家に ちょくちょくと顔を出し

いつも明るく 家族の一員のような存在だが

 

両親も妻も亡くし 

うらぶれたアパートに住む 独り身の松下さんの

時おり滲み出る孤独感が 胸に沁みる

 

そして今、精一の仕事は

工業開発の波に追われ 運搬単価は下落したうえ

このちっぽけな ボロ船の横を 

一度に何倍もの石を積んだ 大型船が往復し

 

それも行く行くは ダンプカーによる陸送に

取って代わられようともしている現状だ

 

寿命9年と言われる 使いの荒いこの石船を

騙し騙し19年も使っている 精一の船も

近頃は老朽化が激しく 故障ばかりして 作業がはかどらない

 

行き先には まったく希望が見えず

 

かつて精一と一緒に 船に乗っていた 

弟・健次(前田吟)は 早くにこの仕事に見切りをつけ

今は 広島市内で勤め人になっている

 

ある日、人に勧められて

精一と民子は 呉の造船所を見学に行く

 

この巨大な造船所の 光景も凄い

そして遂に精一は この石船を捨て

 

爺ちゃんひとり残して この島を離れ

造船所で働く決心をする


最後の仕事に出た二人は 遠く過ぎ去った日を思い出す

 

民子が機関士試験に 合格した日のこと




大漁旗で飾った 舟上での賑わい

 

若かった祖父や 弟夫婦もいた

 

いろんな歴史が積み込まれた この船



「大きなもんには勝てんと人は言うけど

 大きなもんとは 何を指すんかいの

 なんで、この好きな海で 

 お前と二人 この仕事を続けてやれんのかいの」

 

精一が はじめて涙を見せる

          黄色い花

 

それにしても 出演俳優さんたちは

まったく、凄い

 

井川比佐志さん、笠智衆さん

それから 井川さんのお姉さん役の 阿部百合子さん

 

実際に この島に生まれ育ち 

何十年住み続けている人としか思えない

上手いなあ

 

そして、美しい島の風景をバックに流れる音楽
加藤登紀子さんの 挿入歌も素晴らしく 

いつまでも余韻が残る


          黄色い花

 

思えば・・山田洋次監督は

昭和の本当の味わいを描ける 最後の監督さんだな