黒澤明『蜘蛛巣城・裏話 1』 | ゆうべ見た映画

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「黒澤明・自作を語る」「野上照代・天気待ち」より

 

 

『蜘蛛巣城』は 

エピソードがたくさんあるので 2度に分けました

 

 

蜘蛛巣城の門の オープンセットは 
富士山の2合目の 火山灰地に建設された

 

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足場の悪い火山灰地での建設のため
進駐軍にも手伝ってもらい

ブルドーザーで火山灰を掘って 土台を建てた

 

門のセットは巨大なもので 晴れた日には
ふもとの御殿場市の街から見えたという

 

土屋嘉男や千秋実らは 撮影期間中
富士山のロケ現場と 麓の旅館を
三船敏郎のジープに乗せてもらって往復していた

全員、扮装も衣装も 劇中の武者姿のままだ

 

『蜘蛛巣城』はヨーロッパでも 大変、話題になったが
外国人の感想というのは
とにかく、怖い映画だということだった


撮影でも

あの千秋実の亡霊の姿を どうやって画面に出すか
いわゆる 昔のオバケみたいに 
暗い画面にダブらすのは嫌だし ・・と話し合っている時

ライトを当てて 真っ白にしてみようと 

黒澤監督は言った

 

黒澤さんの凄いところは こういうところだ

 

しかし、撮影は大変だった

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ライティングは勿論だけど 
三船さんが狂って 刀をふりまわし亡霊に立ち向かう

すると亡霊は消える、また現れる

 

それが1カットだから キャメラを移動している間に
千秋さんは 急いで逃げたり
また画面に入って、座ったり、タイミングが凄く難しかった

 

それからやっぱり、三船さん扮する「鷲津武時」が
矢の雨から 逃げ惑うシーンを
どうやって撮ったかを 外国では盛んに質問された

 

「あれは実際に本物の矢を射っているのです」

こう言うと 全員がええッ!と 驚愕する

当たり前だ
あんな役を引き受ける役者は 世界に三船しかいない
ジャッキー・チェンだって断るだろう

 

しかも矢を射るのは 那須与一でもなければ
免許皆伝の達人でもない

 

ただの、成城大学の、アルバイトで集められた

弓道部の生徒が十人ばかりである

 

それが櫓から 六メートルくらい離れた足場から
三船の横の板塀めがけて ばばばッといっせいに射る


 

これは黒澤と三船の関係でしか

成り立たないシーンである

 

極端に言えば もし万が一

矢が当たってもいい、

くらいの信頼関係がなかったら出来ない

 

三船は、ただ怖いだけじゃない

芝居があって 台詞もある

 

しかし 黒澤監督は 
三船は絶対、やってくれると信じていた
三船はここで断ることは 出来ないことを知っていた

 

それで三船に
「こっちへこう逃げますね、
 そしたらここへ矢の雨がばばばッと来ますから
 次はそっちに逃げて下さいね」
などと、演技の注文をしてる

 

すると三船も
「はい、ここからそっちに逃げるんですね」
なんて言っている

 

しかし当然、三船だって
心底、怖かっただろう

 

 

三船は撮影終了後も 自宅でお酒を飲んでると

ふいに矢を射かけられた場面を思い出し

あまりに危険な撮影をさせた 黒澤にだんだん腹が立ち

 

酔った勢いで 散弾銃を持って

黒澤監督の自宅に押しかけ 

「黒澤のバカヤロー! 出てこーい!」と怒鳴った

 

黒澤はそのたび、怖くて奥に引きこもっていたという

 

 

「2」につづく