五所平之助監督
67分という短さですが
ほほえましくて 大好きな映画です。
お話。
もうじき50歳の 福島省三 (斎藤達雄)と
たま子 (吉川満子)夫婦には 3人の娘と1人の息子がいる。
すでに嫁いだ長女 (坪内美子)と 次女 (田中絹代)
そして三女は、近々結婚することになっている。
その三女の結婚式が 無事に終わった夜。
「やれやれ、これで肩の荷が降りた」
ほっとする夫婦。
「娘三人を片付けるというのは、容易なことじゃなかったよ」
「ほんとですわ、あんまり見苦しい支度も出来ませんしね」
「どうだい、二人で2、3日、ゆっくり温泉にでも行こうか」
「駄目ですよ、寛一がいるじゃないですか」
「ああ、そうだった、あいつがいるんだった。
・・・あいつは幾つだったかな」
「9つですよ」
「えっ、去年も9つだっただろ」
「そんなことありませんわ、去年は8つですわ」
隣りで寝ている寛一。
「ああ、あいつが生まれたのは失敗だった。
遅まきに飛んでもない奴が生まれたもんだ。
これから中学、高校、大学と、学資だけでも生易しいもんじゃない」
「そんな・・あなた」
「いっそ小僧にでも出すか」
「あなた、それは酷いですわ」
「しかしあの顔じゃ、将来ろくな嫁も来ないぞ」
だいたい普段から この父子は性が合わないのだ。
寛一はあっけらかんとした いい子だが
父は娘には甘いが 寛一ばかりに厳しく
寛一は父を煙たがって ご飯も一緒に食べたがらない。
女中さんの世話で 台所でご飯を食べる。
さて、やがてこの夜の 夫婦のやりとりは
いつしか本格的な 争いになってしまい
「わかりました、あなたは
結局、あの子が可愛くないのですわ」
夫が息子を重荷としていることに
我慢出来なくなった妻は
翌日、寛一を連れて 次女の家に行ってしまう。
次女の家での居候が 数日つづきました。
「ねえ、お母さん、どうして家に帰らないの
ここからは学校も遠いし、友達もいないし、僕、嫌だよ」
そしてその頃、父もしょぼん。
夕べは 部下を誘って飲みに行ったけど
悪酔いして 今日は会社を休んだ。
すると、午後になって
「ただいま~!」
「あれっ、あれは寛一の声だな」
「あれっ、お父さんがいる!」
あわてて、逃げて行こうとする寛一に
「どうした・・何か用があったのかい」
「僕、間違って、こっちに帰って来ちゃったんだよ」
「そうかそうか、いいから早くお入り」
「こんなに冷たい手をして可哀想に・・」
お父さん、もう嬉しくて嬉しくて、えらい変わりよう。
ふたりでご飯を食べました。
連絡を受けたお母さんも もうじき帰って来ます。
斎藤達雄さん
私、大好きなんですよ。
大正の終わりに松竹に入社し
サイレント時代から トーキーの小津作品
『大人の絵本・生まれてはみたけれど』『戸田家の兄妹』など
23本に出演。
他、五所平之助、島津保次郎、吉村公三郎監督など
とにかく出演作品がもの凄く多い。
身長183センチ。
生まれは東京深川ですが 勉強そっちのけで映画館に入り浸り
心配したお父上が シンガポールの知人に預け
達雄さんは マレーシアの高校に入学したが
あちらでも映画三昧で
高校卒業後は 向こうの映画に出演したりしていた。
二番目の奥様が ドイツの方だったり
センスも外見も 外人みたいで
憧れる俳優さんも 多かったそうです。
映画の中で
夜のラジオで「求人案内」をやってました。
「日本橋の海苔問屋さんで 小僧さん2名募集
年は14、5歳、住み込みで お給金は3円~5円」
そんな時代でした。