☆ 名もなく貧しく美しく (1961) 東宝 | ゆうべ見た映画

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懐かしい映画のブログです。
ときどき、「懐かしの銀幕スター」「読書」など
そして「ちょっと休憩」など 入れてます。

 


松山善三監督



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秋子 (高峰秀子)

 

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 片山道夫 (小林桂樹)


秋子は 幼い頃の病気で
聴覚を失いましたが 聾学校で手話を学び
相手の唇の動きを見て 不明瞭だが会話も出来る。

 
終戦間近い、昭和二十年
当時、秋子は あるお寺の嫁でした。

あるとき、空襲の中で助けた アキラという孤児を
嫁ぎ先に連れて帰り 育てることにしますが

留守中、アキラは 家族によって孤児院に入れられ
その後、夫がチフスで死ぬと 秋子も離縁されます。

 
実家に戻っても 優しく迎えてくれたのは母だけで


姉(草笛光子)は 障がい者の妹を嫌い
弟(沼田曜一)は 身を持ち崩した前科者で 

ふたりは 秋子に冷たかった。

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母・たま (原泉)


ある日、秋子は 
聾学校の同窓会で 片山道夫と出逢います。
道夫は生まれつきの聾唖者で 話すことも出来ません。

はじめてのデートは 上野動物園。

 

以前から、秋子を知っていたという道夫は

 

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「僕と、結婚してください」

戦争により 動物はすべて処分され
空っぽの檻の前で プロポーズされますが 躊躇する秋子。 


その帰り、駅の改札で 呼び止められた道夫は
聞こえぬが故、気づかず通り過ぎ 駅員に殴られます。

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駅員 (南道郎)


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秋子の必死な、たどたどしい説明で
何とかその場を 切り抜けたふたり。

ここで秋子は 結婚を決心します。


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「私たちのような者は ひとりでは生きていけません」

 
やがてふたりの間に 元気な赤ちゃんが生まれる。



「聞こえてる、聞こえてる!」


しかしある夜、この子を事故で死なせてしまいます。

雪の降る夜 ふと目を覚まし
ハイハイで布団から抜け出した子は 玄関の土間に落ち
火が点いたような声で 泣き叫びますが

両親は寝入ったまま 気づかなかったのです。


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失意の中、路上の靴磨きで生計をたてる 道夫と秋子。


しかし、やがてまた 男の子が生まれ
秋子の母・たまも 同居することになった。

夜は、道夫の腕と 仕切りの向こうで寝ている
母の腕を紐で結び 子供が泣くと
母が紐を引いて知らせた。

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道夫は印刷工場に職を変え 秋子は洋裁の内職
かつかつの暮らしだが 平穏な日々が過ぎていく。

 

 

こうして、貧しいながらも 必死に育て 
小学生に成長した 息子・一郎だったが

 

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一年生の一郎 (島津雅彦)

 

しかし、成長と共に 次第に

障害を持つ 両親を疎んじるようになる・・・

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「子供など、産まなければ良かった」

 

 


この映画で 心を揺さぶられるのは
夫婦がお互いに 心底からの思いやりを持って
ひたむきに 世の中に立ち向かっている姿です。

言葉にすると薄っぺらいのですが
その姿が美しいのです。

秋子の弟に 道夫がお給料を騙し取られたり
内職用のミシンを奪われたりしたことに 秋子が絶望し
死を覚悟で 家出をする場面があります。

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追いかけて 同じ電車に飛び乗った道夫が
ふたつの車両を挟んだ 連結部のガラス越しに
秋子を説得する場面。


この映画のクライマックスとも 言える場面ですが
道夫の説得が 観る者の胸に強く響きます。

 

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「私たちは、もうおしまいです」

 

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「何故、あなた一人が苦しまなければならないのですか」

 

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「私たちは苦しむために 生まれてきたような気がします」

 

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「普通の人に負けないように、生きていきましょう」

 

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 「どうしても行くのなら 僕もいっしょに行く(逝く)」

 

この道夫のぎりぎりの想いを 

台詞や言葉ではなく 手話で、字幕で 

観客も真剣に 読まされるのです。

 

また、素晴らしいのは

原泉さん演じる 秋子の母・たまです。

たまは、いつも 明るく前向きです。
しかし勿論、幼い頃の秋子に 障がいを残してしまった
母親の責任を 片時も忘れることはありません。

 
ラストに近づいて 高学年になった息子・一郎は
両親を思いやる 精神的な成長も見せますが

母の内職の仕立て代が 
あまりに安いことに怒り、悔しがります。

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 五年生の一郎 (王田秀夫)


「お父さんもお母さんも、
 耳が聞こえないから みんなに騙されるんだ!」


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状況が呑み込めない秋子。

 

「この子は何を怒っているのですか・・」

 


このとき、たまは言います。
 

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「騙されたって、損したって
 こうしてみんなで無事に ご飯が頂ければいいじゃないか」


そして、静かに続けます。

 

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「おまえにも、いつか判るときが来る。
 お母さんたちは、いつも下に下にと謝るように生きて来た。
 そんな思いで 泳いで来た。 
 おばあちゃんはエライと思うよ」

 


お話の展開は
この先に、大きな衝撃が待っているのですが・・・


他、出演されている俳優さん。
見過ごしてしまうほど 小さな役の方もいて 

そんなところも 見どころのひとつです。

 

加山雄三  藤原釜足  中北千枝子  三島耕  織田政雄
 一の宮あつ子 中村是好 八波むと志 南美江 十朱久雄 

賀原夏子 河内桃子 小池朝雄 多々良純さん・・などなど



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