☆ 近松物語 (1954) 大映 | ゆうべ見た映画

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懐かしい映画のブログです。
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そして「ちょっと休憩」など 入れてます。

 

 


近松門左衛門 原作  溝口健二監督  モノクロ  


 近松門左衛門の「おさん茂兵衛」を元に
川口松太郎が書いた 戯曲の映画化。

溝口作品のなかでは 私、断とつ好きな映画です。



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茂兵衛・もへえ (長谷川一夫)

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おさん (香川京子)

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以春・いしゅん (進藤英太郎)

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お玉 (南田洋子)

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おさんの母 (浪花千栄子)

 


お話。

京都・烏丸四条の大経師・以春は 

宮中の経巻表装を職とし 
町人ながら名字帯刀を 許されている程の人物ですが

その地位や財力を鼻にかけた 傲慢不遜な男だった。

その妻・おさんは 傍目には幸せそうだが
心は味気ない日々を 送っていた。


あるとき、不意に表通りが騒がしくなり
店先に出てみると 市中引き回しの行列が通る。

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不義密通の罪で 捕らえられ男女が
馬上でさらし者にされた上 磔の刑場へ連れて行かれるのだ。 


以春をはじめ、おさんも、茂兵衛も、店中の者が
それぞれ、哀れみやら、蔑みを持って行列を見送る。


そんなある日、おさんの兄(田中春男)が
借金を頼みに来る。

実家の 再三のお金の無心に 

おさんは今度ばかりは 夫・以春に言い出すことが出来ず
切羽詰まって 手代の茂兵衛に相談する。


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すると茂兵衛は 思ったほどの大金でもなしと
軽く引き受け おさんを安心させ

ほんの一時、借りておこうという算段で

以春から 預かっていた印判を
白紙の用紙に押すが その様子を 
主手代の助右衛門(小沢栄太郎)に 見つかってしまう。
 
 
茂兵衛は 以春に告白し謝りますが
おさんの名を 口に出せない茂兵衛が
激しく理由を 問い詰められているところに

以前から茂兵衛に 想いを寄せていた
女中のお玉が 
それは自分が頼んだことだと 名乗り出る。
 


しかし、お玉に気がある以春は かえって激高し
茂兵衛を屋根裏部屋に 監禁した。


一方、この一件で 夫・以春がお玉の寝間へ 
夜な夜な忍んでいると知った おさんは

その動かぬ証拠を掴み 僅かでも以春より優位な立場で
茂兵衛の罪の許しを乞おうと

その夜、自分が入れ替わって お玉の布団に入った。

しかしそこに やって来たのは 
お玉に一言、昼間の礼を云おうと
屋根裏から抜け出して来た 茂兵衛だった。

運の悪いことに 
この女中部屋でのふたりの姿を 店の者に見られ 
不義だ、密通だと大騒ぎになり 

やむなくふたりは 騒ぎにまぎれて屋敷を逃げ出すのです。
 

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「人の運ほど判らないものはない。
 たった一日で、これほど変わるとは・・・」


こうして 逃亡を続けることとなった
おさんと茂兵衛でしたが ふたりの仲はどこまでも
主人と雇人の 主従関係でありました。


しかし 遂に追い詰められ 
琵琶湖で心中を決意したとき 茂兵衛は告白します。

 

「今わの際なら、バチもあたりますまい。
 この世に心が残らぬよう、一言お聞きください。
 茂兵衛はとうから、あなた様をお慕い申しておりました」

 
おさんは衝撃を受けます。 


 
「おまえの今の一言で 死ねんようになった。
 死ぬのはいやや、生きていたい」


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ここからふたりは 激しく愛し合うようになります。


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逃避行を続けるうち 着物は着崩れ、髪は乱れ
どんどん、汚れて行くなかで 
ますます怖いくらいに 美しくなっていく香川京子さんのおさん。

おさんを逃がし、自分ひとりが出頭しようと

こっそり山道を駆け降りる 茂兵衛に気づき

 

茂兵衛! 茂兵衛!と 

絶叫しながら後を追い 転倒した おさんに駆け寄る茂兵衛。


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「お前はもう奉公人じゃない、私の夫、旦那様や。
 もう、お前なしには生きて行けない」

 

 

引き離されても、引き離されても
絡みつくように 抱きしめ合うふたり。

おさんの痛めた足に 茂兵衛が唇を這わす場面など 

官能的な濡れ場であります。

 

もう、素晴らしい!

美しいお二人です。



ラストシーンは 


捕らえられ
市中引き回しの身となった おさんと茂兵衛。

騒然と見送る 野次馬の群れの中
馬上で笑みさえ浮かべ 固く手を握り合うふたり。
 


それにしても この時代の
不義密通に対する 刑の重さに驚きます。

本人たちだけでなく その橋渡しをした者も同罪。
それぞれの家も断絶。
以春の店も 取りつぶしになりました。

 
浄瑠璃の 太棹の三味線 鼓 笛 太鼓。

ふたりが引き裂かれる場面では
畳み掛けるように 拍子木が激しく打ち鳴らされます。

この素晴らしく、鮮烈な音楽は 
「七人の侍」などの 早坂文雄さん。


 スター俳優を嫌っていた 溝口健二監督は 
永田雅一・大映社長の強い要請で
長谷川一夫さんを 起用しましたが

監督と長谷川さんの確執は
後々まで 周りの人の口にのぼるほどの
ものだったと言われています。

しかし、そんな根深い由縁のお二人が
これほど完成度の高い 
素晴らしい作品を 生み出すというのは

心底ではお互いの 力量を認めた上での
緊張感というようなものなのでしょうか。

溝口監督にごく近い方が この作品を観て
「監督はもうじき死ぬのではないか」と
本気で恐れたそうです。


この二年後に 五十八歳で亡くなった

溝口監督の 美の頂点とも言える作品だと思います。

 

 


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