⑤ 休むことの大切さ

 

はじめての方はこちらもどうぞ!

 

アメリカの一般的なスクールカレンダーは8月に新年度が始まり8ー12月が前期(秋学期)、冬休みをはさんで1-5月が後期(春学期)、2か月以上の長い夏休みの後にまた新年度...というサイクルです。3学期制をとっている学校もありますし、スクールカレンダーは気候にも影響されると聞いたことがあるので、もしかしたら北部に位置する州や山間部は私達の住むテキサス州とは違う年間スケジュールが組まれているかもしれません(テキサス州以外で生活したことがないので、大きな違いがあれば是非教えてください)。

 

私たちのまわりでは、ジュニア年代のサッカー年間スケジュールも基本的にこのスクールカレンダーに沿って動いています。9-11月が秋季リーグ戦、冬休みをはさんで2-4月が春季リーグ戦(各リーグ戦では8試合前後が組まれます。)で、祝日を含む長めの週末やリーグ戦の合間に至るところで大小さまざまなトーナメントが開催されます。

 

 

この年間スケジュールに沿って活動し始めて3年ほど経ちましたが、最初に大きな違和感と戸惑いをもって受け止めたことがあります。それは、まとまった休みがあまりに多いことです。

 

アメリカでは、11月の感謝祭(サンクスギビング)と12月のクリスマスは、学校はもちろん企業も商店も完全に閉まる日本の「正月三が日」状態で、それにあわせて親が1週間ほどの休暇をとって家族みんなでバケーションをとることが珍しくありません。アメリカの多くの子どもたちにとって待ちに待った大イベントである夏休みも、さすがに子どもたちにあわせて丸々3か月近く休む親御さんはあまり見かけませんが、思い切って長期休暇をとり家族と時間を過ごす人は大勢います。

 

「個人主義」の国として知られているアメリカですが、四季折々に家族で集まって団らんの時間を大切にしようとする文化は根付いています。アメリカでは共働き家庭が一般的なので、子どもたちが学校に行っている時は親も忙しく働き、家族そろって食卓を囲んだり家族団らんの時間をとりにくい分、このような特別な祝日や休暇には家族の時間を最優先しようと意識的に努めている人が多いのかもしれません。

 

それは高校生、大学生ひいては指導者も同じこと。彼らも長期休暇をとってそれぞれの故郷へ戻り家族や友人とゆっくり時間を過ごしたり、自己研鑽をしたりします。つまり、サッカーの練習も一週間まるまる、時には数週間にわたって完全にストップすることが年に少なくとも3回あるのです。

 

正直なところ、当初はこれほど長く休むことが不安で、ゴールデンエイジの成長時期を一日でも無駄にしたくないとの思いから、休暇中私が考えた練習メニューを息子と一緒にやっていた時期もありました。しかし今は、このようにまとまった長期休暇が定期的にあるのは、アメリカでジュニアサッカー年代を過ごすメリットだと考えるようになりました。

 

長期休暇の有無だけでなく、そもそもこの国のサッカー少年少女たちの練習量の少なさは、日本で10歳からサッカーに没頭していた私には衝撃的でした。私は小学生の頃から一回の練習で3時間ほどグラウンドにいましたし、週末の試合は一日4-5試合は組まれていたと記憶しています。中学生になって部活動が始まれば練習はほぼ毎日、高校生になり全国大会出場を目指す強豪校に進学後は、一年のうち完全に休むのはお正月の三が日だけだったように思います。つまり小さなころから一年間ほぼ休みなくサッカーに明け暮れていたわけです。中学生以降に家族旅行に出かけた思い出はありません。これは30年近く前の話なので今の日本の子供達の状況とは違うかもしれませんが、どうでしょう?ひょっとしたらそんなに変わっていないのでしょうか?

 

一方現在8歳の息子の一週間のリズムを見てみると、彼の現所属チームはU9のカテゴリーでテキサス州内で上位にランキングされている強豪チームの一つであるにもかかわらず、練習は一回90分を週2回(ただし帰宅後に足がパンパンでベッドに倒れ込むほど練習密度は濃い)、週末に25分ハーフの試合が1-3試合組まれる程度で、それも一日に2試合を超えることはほぼありません。

 

ヨーロッパのジュニアサッカー年代では、一週間のサッカー活動は合計で250-300分ほどを目安にしていると聞いたことがあります。これはチーム練習、自主練習、ウォーミングアップを含めた試合すべてを合計した時間を意味します。これを今の息子に当てはめてみると、一回90分のチーム練習を週2回(180分)、週末に25分ハーフのゲームをたった1試合したとして(50分)、その前のウォーミングアップ(30分)を含めるとすでにその週のサッカー活動は合計260分に達していることになります。「それだけ?」「そんなんでいいのか?」と不安になりませんか?その気持ちよくわかります、私もかつてはそうでした。でもワールドカップで優勝を争うヨーロッパ強豪国の選手たちはそのような幼少期を過ごしているのです。

 

もちろん中には、このような長期休暇中にパーソナルトレーナーについてもらったり、コーチに特別練習を依頼する親御さんもいらっしゃいます。でも私はサッカー活動からは一旦しっかりと距離を置いて過ごすことを意識しています。息子が自分からどうしてもやりたい!と言ってきた場合はもちろん付き合いますが、私主導の自主練習は決して促さないように心に決めています。その時間息子は、外遊びをしたり図鑑を眺めて大好きな魚や爬虫類に没頭したり、姉の影響でキーボードや編み物を練習したり、私と一緒に釣りにでかけたり(親父の趣味です)、きょうだいでLEGOにいそしんだり、夏は毎日のように疲れ果てるまでプールで遊んだりします。サッカー以外の興味や趣味を見つけることは、将来サッカーで行き詰った時に必ず助けになると自身の経験から確信をもって言うことができます。また、サッカーから一旦完全に離れる時間があるからこそ、「サッカーしたい!」という強い欲求に再び火がつき、再開した時にフレッシュな気持ちで高い集中力をもって取り組むことができる気がします。

 

(試合のない週末は近所へ魚釣り。ブラックバス、ブルーギル、ナマズに冬場はニジマス釣りに没頭。)

 

(毎年夏休みにはメキシコ湾へ家族旅行。去年は念願のサメを釣りあげました。)

 

(サッカー以外の時間でも服装はいつでもサッカージャージー。)

 

(裏庭にSASUKE(サスケ) コースをイメージした遊び場を設計。日曜大工も私の息抜きの時間です。)

 

実際、定期的にしっかりと休みをとることは、様々な面で好影響を与えるといわれています。例えば、

  • 慢性的な怪我防止になる

  • 成長期の身体の発達が促される

  • 早い段階でのバーンアウト(燃え尽き症候群)を回避できる

  • 自発的にサッカーに取り組むようになる(モチベーションを維持、向上させることができる)

  • サッカー以外のことに視野や興味を広げ、より豊かな人間性を育むことができる

「なるほどな」と納得させられることばかりです。かつては「こんなに休んで大丈夫かな」と半信半疑だった私も、定期的にしっかり休むリズムを取り入れることで息子にあらわれ始めた顕著なプラスの効果を目にして、休む重要性を確信するようになりました。

 

私達家族は今年の夏に6年ぶりに日本へ一時帰国する予定です。息子が同年代の日本の子供達と楽しくサッカーができたらいい経験になるだろうな、と考えてはいますが、基本的にはしっかりと休ませる時間にしようと考えています。昔の私だったら、今から実家から通える範囲にあるサッカーチームやスクールを徹底的にリサーチして訪問スケジュールをたてていたことでしょう。自分でも数年でこれほど心境の変化があったことに驚いているのですが、これはアメリカサッカーに変えてもらった部分だと感謝しています。

 

環境によっては、休むことは非常に勇気のいる決断です。「休んでもいいんだよ」と言ったところで、コーチは来ている、練習は行われている、チームメイトはみんな練習に参加している、という状況であったら、休みたくても休めないかもしれません。また休んだら試合に出させてもらえなくなる、休んだらコーチに嫌味を言われる、休んだ途端にポジションを奪われる、休んだら下手になる....といった代償ありきの休みの捉え方は、休んだとしても本当の意味の休息にはなりえません。

自分自身のサッカー人生を振り返って、もしかしたら自分もそんな一人であったのかもしれないと考えさせられます。当時は「やりたくてやってるんだ」と信じ込んでいましたが、よくよく考えれば休むことが怖かったのでしょう。

 

特にジュニア年代は、子どもたちが休むためにはまずコーチや親自身が率先して休むことが必要不可欠な気がします。コーチや親が心からリラックスして休息を楽しんでいる姿を見て、子どもたちも罪悪感やうしろめたさ、代償を気にすることなく安心して休むことができるようになるのではないでしょうか。その点、アメリカは一年に数回「みんなが、すべてが、一斉に止まる」時間があるため、そして大人が本気モードでバケーションを楽しむ傾向があるため、休むことの重要性、休みの有意義な過ごし方を幼少期から体感として学ぶ環境が整っている気がします。これはアメリカでジュニアサッカー年代を過ごすメリットだと今の私は捉えられるようになりました。

 

もちろん、このような幼少期を過ごした息子が将来プレーヤーとしてどこまで進化するかはその時になってみなければわかりません。でも「サッカー大好き!」「サッカー楽しい!」という気持ちを膨らませながらプレーヤーとしてもゆっくりと、でも確実に成長し続け、同時にごくごく普通の小学校2年生らしい生活も送れている息子をみると、自分が育った価値観を押し付けなくてよかったと感じます。

 

みなさんの周りのサッカー環境では、休むことはどのように捉えられていますか?皆さん自身はどのようなご意見をお持ちですか?DMやコメントからシェアしていただけると嬉しいです。

 

 

 

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