~ゲルハルト・フォン・シャルンホルスト~ | 自炊・電子書籍化応援ブログ

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 社会が、国家が、閉塞感の中で鬱々とした日々を繰り返す時、必ずといってよいほど新たな次代を構築する素地となる人物が登場する。
そのことはこれまで積み上げられた人類史をひも解けば必然にも等しい………。

18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパでは、長きに渡り社会を支配し国家を統治してきた王侯貴族達・特権階級による支配体制に軋みが生じ始めた時代でもあった。

…1755年11月12日、ハノーファー(現ドイツ:ハノーファー州)に1人の男児が生まれる。彼の名はゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・シャルンホルスト、後にプロイセン軍を実動面および精神面から改革し近代参謀本部の生みの親として歴史の1ページに名を残す人物である。

                    (シャルンホルスト↑)
彼は1778年士官学校を卒業後、ハノーファー軍に少尉として任官、1783年にハノーファー軍・中尉に昇進した頃より多くの論文・書籍を発表する、また創刊・編集を務めた雑誌「軍事ジャーナル」はヨーロッパ諸国で読まれ、1788年著書{士官のための応用軍事科学」や1792年著書「野戦必携」は彼の軍事理論家としての名を広く知らしめることとなる。

1793年すでに大尉に昇進していた
シャルンホルストは英領ハノーファー軍の将校としてフランス革命戦争に参加、フランス軍との交戦の最中、包囲・殲滅の危機にあった友軍の救出に成功、この戦功により少佐に昇進を果たす。このことは彼が単なる理論家ではなく実戦指揮官としても有能であることの証ともなった。

1801年、シャルンホルストは貴族の称号であるフォンと中佐という地位でプロイセン軍に迎えられる。ここで彼は最初ベルリン士官研究所の教官の任を与えられ、後のプロイセン軍改革の大きな原動力となるクラウゼヴィッツグロルマンティーデマンらと言った有能な人材を育成する。その後1806年に大佐に昇進、しかし第四次対仏大同盟に参加していたプロイセン軍はイエナ・アウエルシュタットの戦いでフランス軍に大敗をきし後にシャルンホルストは捕虜となる。

捕虜交換で解放されたシャルンホルストはテルジット条約でプロイセンとフランスが講和を締結した後より将官に昇進、そして軍備再編委員長に任命されたことで本格的な軍制改革に乗り出すのである。
シャルンホルストはそれまで貴族で占められていた将校に平民出身者が任官できる門戸を開いた。また軍事の一切を組織的かつ効率的に行うための軍事省を誕生させ、軍の編成も含め命令系統の不備を是正した。しかしこれらの改革はやがてナポレオンに不快と警戒感を与え、国王フリードリヒ・ヴィルヘルム三世の命により中断されることとなる。

                   (ナポレオンとモスクワ↑)
1813年、ナポレオンがモスクワより敗退すると、再びシャルンホルストは軍制改革に取り組むこととなる。加えて彼は中将に昇進し、フランス軍(ナポレオン軍)との戦いに備えることとなるのである。
この年の3月、プロイセン軍はナポレオン率いるフランス軍に攻撃を開始するも5月2日・リュッツェンの戦いで敗退、この戦いで負傷したシャルンホルストだったが負傷を押してオーストリアに助力を求めるべくウィーンに向かう。だがそれが元で傷が悪化しプラハで絶命する。

…彼は軍隊における組織の在り方を根本的に変えることに腐心した。
今日では近代参謀本部制度の基礎を作り上げた人物としてその業績は高く評価されている。また当時平民出身者は政治にはまったく関与できなかったが、シャルンホルストが軍という組織を通じて平民に将官への道を開いたことで、極々わずかではあるが平民の考えが国政に反映されるという状況を生み出したことは称賛に値する。

彼の改革は後も引き継がれ、ナポレオンのような非凡な才能を持つ個人が戦争を主導・勝利に導くという図式から、組織という集団による戦争遂行と勝利する時代へと変わっていくのである。(現にナポレオンは最終的に組織化されたプロイセン軍を含むイギリス・オランダ連合軍にワーテルローで敗北、退位後・セントヘレナに流されている)。

                      (モルトケ↑)
シャルンホルストに始まった軍制改革(組織改革)はグナイゼナウグロルマンクラウゼヴィッツらの手を経て、半世紀の後モルトケによりドイツ統一の原動力となる。
彼の思考は間違いなく時代を超越したものであり、軍隊という器での改革であったにせよ、王侯貴族が支配する世界にあって近代民主主義に近い思想を実践したことは誠に驚くべきことである。

…現在在る私たちが生きる時代は、シャルンホルストらが生きた時代と比べようもなく開放的であり自由な社会である。
それでも感じるこの閉塞感のようなものは何なのだろうか?………。
私などには考えもつかない次世代への変革の姿があるのかも知れない……そして再びシャルンホルストのような時代の寵児が現れる刻が近づいているのかも…………。