例の中古品の自動車の買い取りナンバーワンをうたっていた『BIG モーター』、その実態は、『BIGモンスター』であったことが明らかになりつつある。

 

今や、いろんな行政機関やら、金融機関、損保会社などが一斉に、『BIGモーター』をたたいているのだが、なかには、『自分たちの責任』を隠蔽し、忘れさせるためにそうしたことをやっているのではないかと思わせるようなところも多数存在している。

 

実は、一昨日(7月28日)にも、この事件に関連して、私はこのような記事を書いたのだが、書いていることがわかりにくかったのではと反省する。

 

 

 

今回の【BIGモーター】の事件では、創業者親子の株主二人だけの『資産管理会社』が実は、『BIGモーター』の100%の親会社で、創業者親子が何でも決めることができるという体制(このような規模で、しかも公的資金でのさまざまな補助を受けている企業が、こうした閉鎖的な体制が認められたままで、果たしてよいのか)が問題になっている。

(少なくとも、さまざまな公的な資金を企業が活用できるようになった時点で、100%の閉鎖的な体制は、何らかの方法で、『オープンなもの』へと転換させられるべきであったのではないか?という疑問である。)

 

これは、(2006年に施行された)『会社法』で決められている内容に関連した話であるらしい。

2006年当時、いろんな本が出版されて、いかに『会社法』という法律が重要な内容を決めているのか?などが縷々、解説された。

 

例えば、岩波新書から出されている、この本などもその一つであり、相当、読まれたのだろうと思う。

 

というのは、この本は、神田秀樹という法学者が執筆したものであり、岩波書店からこれまで出されてきた多くの本がそうであるような、『左派系』あるいは『体制に批判的な人物』の執筆によるものではない。

 

むしろ、神田秀樹という人は、わかりやすくいうと『体制側』に近い学者と言えるのではないかと私自身は感じている。

 

この本の初版が2005年?に出されたころ、私は(生活のために)、ある資格の取得の予備校で、講師をしていて、またそこで使用する教材の編集なども担当していた。

 

私自身が、その資格=面倒くさいから書いてしまえば、『中小企業診断士』という資格である=を取得していたからこそ、そのような仕事に就くことが出来た。

本来、『中小企業診断士』の固有の仕事、簡単にいうと『経営コンサルティング業』で飯を食うことが出来れば、そのような『副業』に就く必要はないはずである。

 

しかし、多くの資格が今でもそうであるように、大半の資格は、それを取っただけでは到底、飯を食うことは出来ないのが実情である。

当時、正式な『国家資格』として、いろいろ整備しつつあった『中小企業診断士』というのも、そのような資格の一つであった。

 

今でもそうだろうが、こうした資格の取得の学校を運営している側は、このような『資格の裏の真実』は受講生に知らせたがらないというのが、実情である。

ただし、当時私が勤務していた、資格の学校は今では、『中小企業診断士』の分野からは撤退してしまっているようである。

 

当時でもそうだったが、『資格自体、取ることが非常に困難である』『仮に資格を取ったとしても、学生など、その他何も経験や知識のないものが、その資格だけで食っていくことは、これまた非常に困難だ』、こうした真実が、次第に受講生全般に伝わるようになって、徐々に、この資格取得のために勉強する人の人数自身、停滞をするようになったらしい。

 

言い換えれば、この『資格取得のための予備校』というビジネス市場自体が縮小していったと言えるのだろう。(そもそもが、厚生労働省の『教育訓練給付金』という雇用保険の制度に基づく助成金をフル活用して、受講生をかき集めているというのが、当時の『予備校業界』の内情だった。

(ところが、『資格取得のために勉強する人たちの人数の低下』といったビジネス環境の悪化のなか、『中小企業診断士』の講座を設けていた、『予備校』『資格取得スクール』の多くが、お客がいなくなっていったので、どんどん撤退していった。)

 

話は脱線したが、この『会社法』という新しい法律が、2005年に施行?されたころ、ちょうど私は、『中小企業診断士』講座で、『経営法務』という科目があり(これは、そのころ『中小企業診断士』の資格自体がいろいろ手直しされて、新たに『必修の受験科目』として設けられた科目である)、ここで働き続けるのなら、この科目も担当しなさいというような話になって、いつの間にか『勉強せざるを得ない』ような状況に追い込まれてしまった科目である。

 

(なお、あらかじめ断っておくと、私自身は、2008年以降、中国に出掛けたりして、ますます『中小企業診断士』という資格を重荷?に感じ始めたので、それ以降、『資格の更新』をしていない。今や、以前取得した資格は、『無効』になっているはずなので、既に『中小企業診断士』ではなくなっている。)

 

まあ、そのような(私にとっては、若干)苦い思い出とともに、『会社法』というものが存在している。

 

ともかく当時、『会社法』というものを勉強する際に、その骨子をコンパクトに説明しているということで、『岩波新書』の『会社法入門(初版)』は大変、評判になったという記憶がある。

(もっとも、Amazonなどに書かれている読者のコメントを読むと、この本は、『民法を既に学習した人』あるいは、『民間企業に在職経験があり、企業というものがどういうものかわかっている人』にとっては有益だが、そうした知識のない人たちには、『入門書的な書き方ではない』ため、わかりにくいであったり、『読み始めたが、途中で挫折してしまった』といったコメントが多数書かれている。もし読んでみようと思う人があれば、そうした点は注意してもらったほうが良いと思う。)

 

そこで、この本を使用しながら、当時、『会社法』というものが、どのような触れ込みで世間に評判になったのかについて記述してみたい。

 

神田秀樹氏(この本の執筆当時は、東京大学大学院・法学政治学研究科教授という肩書だった。今は、東大大学院の名誉教授である。なお、東大の名誉教授というのは、一定年数以上、東大で教授を務めると、ほとんど自動的に名誉教授になるという『仕組み』になっているようだ。)は、『会社法入門(第三版)』において、次のように解説している。

(当時、使用していたのは『会社法入門(初版)』であって、現在発行されている『会社法入門(第三版)』との間には、改定作業が二回なされている。)

 

<会社法は会社の基本法と言われるが、私たち一般の市民にはなじみにくい法律である。

それは、「会社」というと、普通は働く所だというイメージがまず浮かぶからではないかと思う。><会社法には従業員はほとんど登場しない。…では会社法は何を求めているのか。条文を読むだけでは理解が難しい会社法について、この一冊で解説する。>

 

<本書の初版において、私は、日本の株式市場についての法制度の改革を強調した。とくに、株式市場についての信頼の回復・確保が必要であり、法がそれをすべきことを述べた。公正さと透明さを法は守り抜かねばならない。具体的には、相場操縦やインサイダー取引その他の不公正な取引を法が厳しく監視・禁止し、受託者責任(業者が顧客に対して負う義務のこと)を厳しく問うなど、法がもっと前面に出る必要がある。>

 

こうした流れのなかで、2005年に会社法が施行され、ほぼこれと並行して、<2006年6月に、株式市場を含めた資本市場分野の基本法である「証券取引法」という法律がその題名を「金融商品取引法」と改めて大改正され、2007年9月30日に施行されるに至った。>

 

このようなことを、『会社法入門(第三版)』においても神田氏は書かれているのである。

これを読んで、『なんだ、まるで今、BIGモーターで問題になっていることと、真逆ではないか?』と驚きになるかもしれない。

 

そうなのだ。

『会社法』では、いろいろと新しい仕組みが導入された。

例えば、『委員会等設置会社』という新たな類型。ここでいう『委員会』には、次期役員の候補を選任する『指名委員会』、あるいは役員の報酬を決定する『報酬委員会』、その他業務や会計に不正がないかを監督する『監査委員会』など各種が存在している。

 

そして、社外取締役などが選任されたり、随分と会社の執行部に対する監視の体制が強化されるようなイメージもあった。

ところが、今回、BIGモーターで問題とされた『株主二人による資産管理会社』が事業会社の親会社となって、事業会社が全くといって良いほど、世間(あるいは市場)から閉ざされているような形での、『株式会社の存在』も一方では認められていたのだ。

 

また、それに随分と世間で話題となった『社外取締役の導入』にしても、実際は、会社の社長や会長が、自分の『お友達』をたまたま『社外取締役』にしてしまったような場合、ほとんどチェック機能を果たしていないといった事実もその後、明確になってきている。

 

つまり、『新たな仕組み』にもさまざまな欠点があったことが指摘されているのだ。

ところが、『会社法』のなかで、特別の猶予の措置として、お目こぼしにあった『仕組み』(昔のイメージでの『盲腸』みたいなものだ。)、それを徹底的に悪用しているのが、BIGモーターという会社の姿である。そのことを明確にしておきたい。

 

世の中というのは、10数年~20年近くたってしまうと、まるで『以前議論されていたことが完全に忘れ去られ』、そしてしばらくの間は、多少なりともおとなしくしていたように見えた(ライブドア事件の)『ホリエモン』こと堀江貴文氏が、今ではまるで他人事のように、『BIGモーター』事件に関して、『有識者』みたいなコメントをメディアでまき散らしているので、『一体、どうなっているんだろう?』とあきれるばかりである。

(つづく)