お節介を焼いたら酔っぱらいおじさんに気に入られてしまった話 | おもいでのヤンゴ

お節介を焼いたら酔っぱらいおじさんに気に入られてしまった話


僕はどちらかというとおせっかいな方なのかもしれない。


母がおせっかいな人なので、その血がそうさせるのだと思って納得することにしている。




$おもいでのヤンゴ-酔っぱらいおじさんに気に入られてしまった話



数日前の夜11時、電車に乗って帰宅中していた時の話。



金曜だったのでお酒が入ったサラリーマンがいっぱい乗車していた。


イスに座っていた僕は、正面が気になって仕方がなかった。


正面には一際酔っぱらったおじさんが座っていた。


おじさんは50代といったところで、それくらいの年齢にしてはスタイリッシュな格好をしていた。
シュッとしていて俳優の大杉漣に似たおじさんだった。


そしてそのおじさんは、隣の人に苦い顔をされるほど右へふらり左へふらりと上半身を揺らしていた。


わざとやっているのかと思えるほどの豪快なスイングだった。



何より気になるのは、おじさんのカバン。


手に持っているというより、人差し指に引っ掛かってギリギリ落ちずにいるというのが正しいか。


そのうち手から離してしまうんじゃないかと心配になった。



やがて僕が降りる駅が近づいてきた。
まだ電車は減速に入ったところだったが、僕は立ち上がった。


おじさんが気になって仕方がなかったので、降りる前におじさんの前に向かった。


そして、おじさんのカバンの位置をお腹の辺りに修正して、こう注意した。


「ちゃんと持ってないと失くしちゃいますよ。
こうやって、カバンに腕を通しておいた方が良い」


僕はおじさんの腕を強引に持って、カバンの取っ手に腕を通した。


おじさんは聞いているか聞いていないかわからなかったけれど、別に構わなかった。



そうして、ちょうど電車のドアが開いたので、急いでドアから降りた。



ホームから階段で降りようとした時、後ろから声を掛けてきた人がいた。


振り向くと、そこにいたのは向かいに座っていた酔っぱらいおじさんだった。



「あ、ここの駅で降りるんでしたか。でしゃばって余計なことをしてすいませんでした」


「いや、君に感心して降りたんだ。
君は若いのにフェアなんだな」



さっきのは酔っ払っている人間相手だから出来たことで、相手の意識がハッキリしていた事にちょっと恥ずかしくも感じた。


おじさんは呂律(ろれつ)が回らない程に泥酔しているものだと思っていたが、そんなことはないようで、おじさんはハッキリとした口調で僕に言った。


「一杯付き合いなさい」



どういう訳かおじさんに気に入られてしまった。



おじさんと駅前のファミレスでビールを飲むことになった。


話していてわかったのは、
・おじさんの息子&娘は僕と同じくらいの年齢だという事
・石油大手の会社で役職に就いているという事
・若い部下…というより若者全般が気に食わなくて仕方がないという事、だった。



とにかく、「最近の若者は」という言葉を多用する人だった。



おじさんは僕を買い被っているようで「最近の若者にしては珍しい」の様な言い方をしていた。


褒められるのは嬉しかったが、率直に思ったことを言ってみた。


「僕が電車であのように振舞ったのは、母譲りのおせっかいなだけですよ。
今回は僕のプラス部分が見られただけで、一ヶ月も一緒にいたらマイナスの方が目に付くはず。
たぶん、僕が◯◯さんの部下だったりしたら、他の若者と同じようにダメに映ると思いますよ」



納得してもらえたかとおもいきや、おじさんはこう言うのだった。
「やはり君は違う。視点が主観に偏らずフェアだ!」



1時間ほど話してわかったことはというと、おじさんはフェアな人間が好きだということ。


一回だけはそんなことはないと言ってみたが、それ以降は、お褒めの言葉としてありがたく頂戴することにした。



突然訪れた、何とも不思議な1時間だった。


でも、おじさんがちょっとでも若者を好きになってくれたのなら、意味のあった時間なのだろう。







引用符 左

帰り際、「君の電話番号を教えなさい」と言われて、紙に携帯番号を書いた。


おじさんはその紙を内ポケットにしまっていたけど、たぶん後日見ても「何だコレ?」ってなると思う。


酔っぱらった時の感動は、酔っぱらっている時だけ続くもの。
素面(しらふ)になったら跡形も残らないだろうからね。

引用符 右




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