会心の還暦ギャグ
昨年の秋、両親はイギリス旅行に行ってきた。
結婚後に海外旅行に行くのは、還暦にして初めてのことだった。
無事日本に帰ってきた両親は、それはそれは満足の旅行だったと口を揃える。
そして、海外旅行に行き慣れていないせいかイギリスに並々ならぬ愛着が湧いたようで、どうやらイギリスを「第二の祖国」とでも思い込んでいるフシがある。
という訳で、日本人であり準イギリス人(笑)であるわが両親は、テレビで「イギリス」という言葉が出てくるたびに「おお誇り高きわが祖国」と言わんばかりの顔でテレビに振り向く。
イギリスの風景が映し出されるたびに
「父ちゃんと母ちゃんはちょうどここで写真撮ったのよ」
だとか
「ここは行ってないから次行こーねー」
などと旅行話に花を咲かせる。
ある日、リビングのテレビからロンドンの風景が流れてきた。
「父ちゃん!イギリスだよ」母は叫ぶ。
基本的には、母が一方的にあーでもないこーでもないと話し、親父が仏頂面で聞いてるだけだった。
でも、有名な時計台である『ビッグベン』が映しだされた時、珍しく親父が口を開いた。
「ビッグベンに着いた時、母ちゃんがトイレに行きたいっていうから一人で待っててな。
なかなか帰ってこない母ちゃんを待ってたらビッグベンの鐘が『ゴーン』って鳴りだしたんだよ」
「その時思ってな」
どういう訳か父は徐々に得意顔になっていく。
「こんな長いってことは、さては母ちゃんビッグ便してるなって!」
「アッハッハッハ」と笑うのは、父の絶対の味方である母だけ。
笑い声のあと押しを受けてか、父は続ける。
「ビッグベンの鐘が鳴ってる中、母ちゃんはきばってBig Be~n」
今度はネイティブ風の発音で、語尾を伸ばしてみせる父。
「アハハハ、ヒヒ、ヒ」
母は笑いすぎて息も絶え絶えといった様子で、涙目になりながら親父の背中をバンバン叩く。
僕はというと、自分の親のギャグセンスの片鱗を見て、自分の“お笑いの限界”を知らされたような気がしてとてもやるせなくなった。
そもそも親父はギャグを口にするタイプの人間ではない。
しかし、どうやら準イギリス人になったあたりから笑いを取りにいくのが増えた気がする。
オチがある話をする時、親父はいつも「今からオモロイ話するぞ」という雰囲気を顔から匂わせる。
笑いを取るのにあまりに致命的なクセだとは思うが、嘘がつけない親父の良い所でもある。
ひょっとしたらその親父の血を引く僕も、笑いを取りにいく時は相手にこう映っているのかもしれない。
そう思うとさらにやるせなさは募る。
親父のギャグセンスと母さんの笑いのツボが合っているようなので、もはや僕が言うことは何もない。
親父の気が済むその時まで、笑いころげる母を黙って見つめているだけだった。
「会心の還暦ギャグ」
“ビッグ便”の件(くだり)は僕ら姉弟の中ではそう呼ばれており、親父の知らないところで末永く語られることになるだろう。
ビッグベンの鐘といえば、キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムの元となったあのメロディですね。
あと、さらにブログをカスタマイズしてかなり軽くなったので、PC・フルブラウザ携帯の方は再読み込みしてみてね!
強制ではなく任意ですが。
・関連記事
テーマ:つよきのヤンゴ
母さんと紳士の国 マイシチューミーチュー
外国かぶれとグラクソ・スミスクライン社