有終の親父 | おもいでのヤンゴ

有終の親父

つよきのヤンゴ

ある男が8月に誕生日を迎えた。
それはつい3週間ほど前のことで、年齢は60歳になった。


8月も終わりの31日、その男はめでたく定年退職を迎えた。
定年を迎えた男は今、どんな気持ちなのだろうか。



$おもいでのヤンゴ-有終の親父 父親を家族で見送るシーン


男は単身赴任で、家族とは3つほど離れた県に住んでいた。
リーマン・ショックのあおりを受けての転勤だった。
一人暮らしに心踊らせる年齢でもないので、週末になるたびいそいそと家族のもとに帰っていた。


男は真面目・律儀・寡黙の三要素で出来たような人間だ。
男に対しての家族の評価はずっとそうだったが、、つい最近の男はちょっと違って見えるそうだ。



歳のせいか、弱い所が目立つようになってきたせいなのかもしれない。
男が弱音を吐いたのを、家族はつい最近になって初めて聞いたという。
毎週末に家に帰ってくるのを「命からがら逃げてきた」と表現していることからも見て取れる。
全身を覆うご自慢の体毛に若い頃の面影はなく、眉毛やすね毛からは哀愁さえ漂う。
それに加え、家にはハルンケアの空きビンが目につくようになってきた。
(※ハルンケア=頻尿改善薬)



男には息子がいて、歳は20代は後半に差し掛かろうとしている。
男のゴツゴツとした見た目には似ておらず軟弱者だった。



定年退職を迎えた日、男は一人暮らしの家へと帰った。
引っ越しが残っているため、まだ家族のいる家には帰れなかったのだ。
家には帰ってこない事を知った息子は、男にメールを送ることにした。


外見は似ていない親子だったが、真面目・律儀・寡黙の三要素は判を押したように息子に継がれていた。



息子は持ち前の真面目さを駆使した飾りっけのないメールを男に送った。
簡潔でいて淡白、他人が見たら事務的とも取れる内容の文章。


ただ、最後の一文だけはそれまでとは違った文句だった。


「今度二人でお酒を飲みに行きましょう。親父がどんな人生を送ってきたのか聞かせて下さい。」



息子は今まで父親の人生に興味を持ったことがなかった。
でも、息子も社会でたくさんの人と出会ううちに、どんな人にもドラマがある事を知った。
「僕にとって親父は死ぬまで親父だけど、そこから一旦離れて一人の人間としてどんな人生を送ってきたのか知りたい」
そう思った息子が、こそばゆさを感じながらも送ったメールだった。




やがて男から息子にメールの返信があった。
「最後の送別会が終わってやっと総てが終わりました。過去に数えきれない人が辞めていった中で、辞めようかどうか何度も真剣に悩んだこともあります。自分でもよく持ったと思います。お前たちがいてくれたおかげです。ありがとう。お酒の話、楽しみにしています。」



息子にとって“仕事”という要素があっての父親だった。
だから、それがなくなってしまうことに寂しさを感じていた。


「仕事一辺倒。はたして父親の人生は満足のいくものだったのか?」
息子はそんな疑問を感じたが、それ以上は止めておこうと思った。


今はただ「お疲れ様」という言葉だけ。
野暮な言葉はいらない。




◆◆◆
最後に、
このブログを書いている楊胡という人が「ある男」だの「息子」だの言っているのは、シャイな性格からきているのだと思う。
広い心で許してあげてほしい。

(*´ω`*)
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