読書会資料 『竹取物語』  R7.3.15(土)9時半~に計画しています。

 

1 『竹取物語』とは?

*テキストは、角川ビギナーズクラシックスが入手しやすい。全文ある。新潮の古典集成の解説が詳しい。

 

・現存最古の作り物語。「物語のいできはじめのおや」と言われる。

・『伊勢物語』など歌物語の系譜と、『竹取物語』など作り物語の系譜を、総合したのが『源氏物語』と言われる。

・『竹取物語』は作者不詳。内容から、朝廷の事情に詳しい貴族の誰かか。藤原氏の支配に批判的な人物か?

・成立は9世紀末(800年代末、平安時代前半)か。かな書き(のはず)。

・伝本多数。最古の写本は1592年の武藤本。

・呼称も『竹取の翁の物語』『かぐや姫の物語』。主役は竹取の翁なのかかぐや姫なのか?

・『竹取』以前に神話・伝説・、昔話があったに違いないが、それらにヒントを得つつ、中国渡来の教養も交えて創造したのが、この『竹取』。

『丹後国風土記』(比治山の天女の羽衣)。『帝皇編年記』養老7年(723年)にも『近江国風土記』の余呉の白鳥羽衣伝説の逸文がある。天女と結婚するが天女は昇天。『万葉集』3791~3793~3802(竹取の翁と9人の乙女)。『今昔物語集』31-33に類話(短い)。他にも伝承が?

・異常な出生(神の申し子)(竹や桃から生まれる、異世界から来る)

・小さ子伝説(一寸法師なども)

・異常・急速な成長(同上)

・海を渡って冒険するのは男たち(一寸法師は川を渡る。桃太郎は海を)

・異世界からと富を得る(桃太郎や一寸法師も同じ)

(参考:神話伝説昔話は同根。神武天皇の東征神話と桃太郎は同型。どちらが先か? 後者が先で、神武東征神話が別格のものとして祭り上げられたのでは? ヒント柳田国男『日本の昔話』)

媼は本来出てこず、翁と姫の恋愛話だったかも?(異類婚姻譚、浦島太郎や鶴女房など)

(注意:「媼」(おうな、おみな)は老女。反対語は「翁」。「女」(をんな)の反対語は「男」。)

老荘思想(月の世界が清浄な永遠の世界)、月の天人たちの迎えは阿弥陀如来来迎の図と同じ、など、大陸から来た思想の影響が見える。「仏の御石の鉢」(『西域記』)、「蓬莱の玉の枝」(『列子』)、「火鼠の皮衣」(『神異記』)、「竜の頸の玉」(『荘子』)。(←小学館世界大百科事典など)

四川省アパ・チベット自治区に「斑竹姑娘」があり、五人の求婚者。

・それらの影響を受けつつも、『竹取』独自の魅力とは? 

 

・大きな構造は、

(1)  冒頭:竹取の翁が姫を発見、急速な成長、翁は富裕に(昔話の型にマッチ。異常な出生、急速な成長、異世界からの富で富裕になる)

(2)  男たちの求愛と冒険譚・・・ここが長い。(桃太郎なら本人が海を渡って冒険)

(3)  帝の求愛を退ける、月を見て泣く、身分の告白、天人の迎えと帝たちとの別れ、昇天、残された帝の動き

 

2 読んでみよう

 

(1) 冒頭

竹取とは? 稲作農耕民ではない。竹の生えているところで竹細工をする民。竹にまつわる信仰を持っていたかも? 神事に関わる? 

讃岐のみやつことは? サカキのみやつこ、と書いている本も。香川に住んでいるのかと思うと、そうではなく、都近くにいたようだ。奈良県広陵町三吉(散吉)に讃岐神社あり。ミヤツコは「伴造(トモノミヤツコ)」なら職能集団、「国造(クニノミヤツコ)」なら地方を支配。「宮つ子」なら宮中に奉仕。翁は今とりあえず貧しい。あとで富裕に。

・日々竹で生活している。その竹の中にいたから私の子になるはずの子、と確信。神の申し子。「子になり給ふべき人」と敬語を使っている。

・空洞(岩穴、木の洞など)は異世界との通路。

・急速な成長。

・裳着をする。12才か13才? 

・光輝く美しさ。至福感。(光源氏と同じ)・・親は娘がいると嬉しい。娘のいる人が書いた?

・竹の中に黄金を見つけて富裕になった。月世界からの贈り物とあとでわかる。。

三室戸忌部の秋田とは誰? 三室戸は地名。御室戸は神のそばの意味だとか。忌部氏(斎部氏)は古い神官の一族で、中臣=藤原に駆逐されたグループ。(『古語拾遺』は忌部広成で800年代初頭。)古い権威のイメージを押し出している。(今で言えば徳川の子孫とか、ヤタガラスの一族とか。)秋田がワカラナイけど多分秋の実った田んぼで豊饒のイメージ。香川県さぬき市の多和神社の祭神は讃岐忌部氏の祖神。

・「なよ竹のかぐや姫」とは? 細くしなやかな竹のようで、光り輝く美しい姫。

・翁は姫をお披露目して聟撰びをする。

・男たちは姫に夢中。「よばひ」の語源も書いてある。

 

(2) 五人の貴公子の求愛と無理難題(無理難題も昔話によくある)

・最終選考に残った五人。何度も求愛。

石作の皇子・・仏の足の鉢・・インド

庫持の皇子・・蓬莱の玉の枝・・東方海上

右大臣阿部御主人・・火鼠の皮衣・・中国・インド・・モデル阿倍御主人。天武に仕えた。

大納言大伴御行・・竜の首の珠・・日本の海・・実在。壬申の乱で活躍。武将っぽい人。

中納言石上麻呂足・・燕の子安貝・・宮中・・モデル石上麻呂(物部氏)。天武に仕えた。

・なぜこの5人か? 皇室から中納言まで、貴族階級の最高ランクを網羅。

・モデルあり、読者はあの人だな、と想像して楽しんだろう。

グローバルな視野。海外貿易も行っている。天武天皇の頃(600年代)は大唐帝国。8世紀にはユーラシア大陸の東半分を占める巨大帝国。(遣唐使廃止は894年。)

・全員が失敗、人びとは笑う。読者も笑う。権威を笑いのめす?

 

(3)-1 帝との関係

・最初から最後まで求愛を退ける。

・内侍(ないし)が使者となるが拒否。内侍の名は中臣房子・・藤原氏を連想させる名?

・帝は翁を官位で釣ろうとするが姫が拒否。

・帝は狩りと称して姫に会う。姫は超能力を発揮して姿を消す。

・帝は断念するが未練が残り歌の贈答。

・二人の歌の贈答が続く。姫の心の成長?

 

(3)-2 姫は月を見て泣く・・

・姫の告白。翁は「我こそ死なめ」と泣き騒ぐ。翁は急速に老化。(浦島太郎と同じ?)

・帝は天皇の軍隊(六衛の司あわせて2000人)を送り込み護衛。勅使は少将・高野大国

・翁は天人たちと戦闘するつもり。

・姫はやさしく翁に語る。帰国延期願いは許可されなかった。老いももの思いのない月世界に行くのも嬉しくはない、介護できずにすまない、と。

(遣唐使の帰国延期願いも同様?)

 

(3)-3 月からの迎えと別れ、その後

・天人の降下。奇跡的な明るさ。天皇軍は戦闘意欲自体喪失。

天皇の軍隊は月の軍隊に完敗。「帝は太陽神の子孫」というイデオロギーがすでに成立していた時代。それを相対化し批判しているとも読める。

・天人の王らしき人が翁に呼びかける。(姫に敬語)「少しばかりの善行」とは。姫の「罪」とは。(貴種流離)時の流れの違い。翁のウソ。

・姫への呼びかけ。地上は「きたなき所」。浄土教の影響か。

・超能力で扉がすべて開き、姫は外に出る。人力を超えた力。

・翁の嘆き。姫の手紙。

・羽衣と不死の薬。羽衣を着ると人間の心が分からなくなる。羽衣は飛行の道具ではなく浄め、非人間化の道具。

・帝への手紙。「今はとて・・・」

頭中将を介して帝に薬を謹呈。頭中将と先の少将高野大国は同一人物か? 頭少将を平安中期の読者が頭中将と書き改めたか?(久下裕利「姿を消した「少将」」『学苑・日本文学紀要』第760号8~23、2004年1月)

・羽衣を着ると人間の感情がすべて消失。

・なぜ不死の薬を帝に謹呈したのか?

(不死で老い続けたらすごいことになる、とスウィフト『ガリバー旅行記』にある。)

・帝は手紙と不死の薬を勅使・調石笠(つきのいわかさ)に命じ富士山で焼かせる。不死の世界への断念・諦念がある。死すべき人間の生を引き受けていく覚悟がある。だが煙はもうもうと立ち上る。願望は燃え続けている。

・活火山でコノハナサクヤヒメを鎮魂するため?

調石笠とは誰か? 山陵使(国家的な大事変に皇室の大礼や大事件を御陵に告げる勅使)だった調使王(つきのつかいおう、つきおう)(8世紀後半に実在」」をイメージさせる? 小嶋菜温子「竹取物語〝富士の山〟をめぐる一試論」(『中古文学』 中古文学会 編 (通号 37) 1986.06 p.p1~11)

・帝はなぜ焼いたのか? 異世界のもの(オニ、邪気など)を境界で焼き捨てることで共同体を守る発想(追儺=ついな=の鬼遣らいの発想)(三谷邦明)。韓国に「焼紙(ソジ)」の風習あり。帝が紙を焼いたのは国家儀礼(小嶋菜温子)。煙の中に故人の面影を見る反魂香(室伏信助)。しかし帝は山に登らない。←藤田景子「『竹取物語』「富士の煙」攷―反魂香影響説をめぐって」(東京女子大『日本文學』 97 77-90, 2002-03-15)

・武士が行ったので「ふじのやま」と言う。不死の山ではなかった。オチ?

 

3 全体から感想

・姫は何の罪を犯したのか? 地上で何をしたから許されるのか?・・人間の愛と無常を学ばせる期間? だが、これはそもそも問えないのでは?

翁と姫、帝と姫の心のやりとりが細やか。人間とは愛し合い別れては悲しむ存在である。人間とは死すべき存在である。ここに読むべき内実がある。それまでの昔話とも違う、作者が力を入れて書き込んでいるところに注目。(同時に、それまでの昔話を引きずってもいる。)

・上に見たように、実在の人物やそれに近い人物を登場させては失敗させ笑っている。当時の朝廷の権力者や権威を相対化している

(まだ途中)