James Setouchi

2024.12.9

 

 『ルポ貧困大国アメリカⅡ』堤 未果著 岩波新書122  (2010年1月)

 

1 著者:堤 未果

 東京生まれ。ニューヨーク市立大学大学院国際関係学科修士号取得。国連婦人開発基金(UNIFEM)、アムネスティ・インターナショナル・NY支局員を経て、米国野村證券勤務中、9・11同時多発テロに遭遇(そうぐう)。以後、ジャーナリストとして各種メディアで発言、執筆(しっぴつ)・講演活動を続ける。著書に『クラウンド・セロがくれた希望』(ポプラ社、のち扶桑社文庫)『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(海鳴社)、『正社員が没落する』(角川pneテーマ21)『アメリカは変われるか?』(大月書店)など。(著者紹介から。)

 

2 内容:

プロローグ/第1章 公教育が借金地獄に変わる/第2章 崩壊(ほうかい)する社会保障が高齢者と若者を襲う/第3章 医療革命vs.医産複合体/第4章 刑務所という名の巨大労働市場/エピローグ/あとがき

 

3 コメント:

 『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書)の続編。その後“Change!”“Yes,we can!”の掛(か)け声とともにオバマ大統領が当選したが、何が変わったのか、変わっていないのか、ではどうすればよいのか、をレポートする。

 

 第1章では、高学歴をめざす中下流層を食い物にする学資ローン(注1)の恐るべき正体を明らかにする。学生(とその親)は気がつけば借金地獄に陥(おちい)っている。しかも学資ローンに関しては消費者保護法が適用されないので、逃げ道がない。

 

 第2章では、年金崩壊をはじめとするアメリカの社会保障の崩壊の現実を描く。経営難に苦しむ大企業が次々と生涯保障型の給付型年金を中止している。高齢者と若者双方にそのつけは回ってくる。GMの前CEO(注2)のワゴナー氏の退職金は5年間で1000万ドル(10憶円)と言われているのに!

 

 第3章では、オバマ大統領の医療改革がいかに敗退したかを描く。単一支払い皆保険制度(注3)については多くの国民が知らされてさえいない。医療現場は悲鳴を上げている。原因は「医療を商品にしてしまった」ことにあるとある看護師は言う。(p.152)稼(かせ)いでいるのは医産複合体だ。

 

 第4章では、スリーストライク法やゼロ・トレランス法(注4)などの厳罰化により逮捕者を急増させ刑務所内で安価(あんか)な労働力として使い捨てる様子が報告される。第三世界よりも安い労働力が安定的に供給(きょうきゅう)できる、刑産複合体は投資家にとっても有望な投資先だ、というわけだ。

 

 遠いアメリカの話ではない。同じシステムを導入(どうにゅう)すれば数年後には日本の話になる。いや、それに近い事態(じたい)はすでにあるかもしれない。

 

 「一番こわいものはテロリストでも大不況(だいふきょう)でもなく、いつの間にか私たちがいろいろなことに疑問を持つのをやめ、気づいた時には声すら自由に出せない社会が作られてしまうことの方かもしれません。」とある女性は言った。(p.213)

 

注1 サリーメイという巨大な学資ローンがあり、株式公開の結果、株主の利益追求のためのものになっている(p.31)。

 

注2 GMはゼネラル・モータース。アメリカの自動車会社最大手の一つ。CEOはchief executive officer。最高経営責任者。絶大な権限がある。

 

注3 単一支払い皆保険制度は、日本、カナダ、イギリスなどで適用されている(p.115)。

 

注4 スリーストライク法とは犯罪者が三度目の有罪判決を受けた場合、最後に犯した罪の重さに関係なく自動的に終身刑にするという法律(p.158)。ゼロ・トレランス法とは、軽犯罪を徹底的に取り締(し)まることが凶悪犯罪を含む全犯罪の抑止(よくし)になるとする思想のもとニューヨーク市が導入した治安対策(p.188)。

 

(経済・格差・貧困・税金・都市・地方)堤未果『(株)貧困大国アメリカ』・『沈みゆく大国アメリカ』、青砥恭『ドキュメント高校中退』、関水・藤原『限りない孤独 独身・無職者のリアル』、三浦展『下流社会』、アマルティア・セン『貧困の克服』、ムネカタミスト『ブラック企業の闇』、今野晴貴『ブラック企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』・『タックス・イーター』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、湯浅誠『反貧困』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、服部茂幸『アベノミクスの終焉』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、暉峻淑子『豊かさとは何か』、橋本健二『階級都市』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、三浦展『東京は郊外から消えていく!』、増田寛也『地方消滅』、増田・冨山『地方消滅 創成戦略編』、藻谷浩介『里山資本主義』、井上恭介『里海資本論』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』