James Setouchi

2024.12.9

 

 ブレイディみかこ『ワイルドサイドをほっつき歩け』筑摩書房2020年6月

 

1 著者 ブレイディみかこ:1965年福岡市生まれ。1996年から英国の南部のブライトン在住。著書『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『花の命はノー・フューチャー』『アナキズム・イン・ザ・UK』『ヨーロパ・コーリングー地べたからのポリティカル・レポート』『THIS IS JAPAN』『いまモリッシーを聴くということ』『労働者階級の反乱―地べたから見た英国EU離脱』『女たちのテロル』など。

 

2 『ワイルドサイドをほっつき歩け』:筑摩書房から2020年6月に出た本だが、2020年1月の「あとがき」に2019年12月の総選挙で労働党が大敗した記事があり、この頃までに書かれた文章とわかる。

 著者自身は日本生まれ、福岡の高校を出た後いろいろあってイギリス在住。夫はイギリス人。

夫(本文では「連れ合い」として登場)は1956年生まれ。著者と共にイギリス南部の(イギリス海峡に面した)ブライトンという町の丘の上の公営住宅地に住む。子どもがいる。

著者の周囲には、夫の友人をはじめさまざまな「おっさん」たちが存在する。その「おっさん」たちの横顔を描いたエッセイがこの本。どこまで事実かは知らない。「おっさん」たちの多くはいわゆる労働者階級。1970年代の労働者階級の子どもたちで反抗的な少年たちを分析した『ハマータウンの野郎どもー学校への反抗・労働への適応』(ポール・ウィリス、1977年)という本があり、その少年たちが、その後人生の様々な苦労を経てなんとか「おっさん」になった。この『ワイルドサイドを…』はその「おっさん」たちの現状のレポと言っていい。階級社会、緊縮財政、移民、EUからの離脱などイギリス社会の現実が背景にある。

 

第1章「This Is England 2018~2019」では、「おっさん」たちの失敗だらけだがけなげに生きている姿を、愛情を込めてユーモア混じりに描く。

 

第2章「解説編 現代英国の世代、階級、そしてやっぱり酒事情」では、現代の英国の社会について多少理論的に解説する。ここも勉強になる。英国の世代論については、Aトラディショナリスト世代(1945年までに生まれた)、Bベビー・ブーマー世代(1946年から1964年までに生まれた)、CジェネレーションX(1960年代初頭または半ばから1980年までに生まれた)、DジェネレーションY(ミレニアル世代)(1981年から2000年代初頭までに生まれた)、EジェネレーションZ(ポストミレニアル世代)と分類し、著者自身はCに、著者の夫をはじめ本書に登場する「おっさん」たちはBに分類されることになる。日本とはやや違うようだが、「政府がきっちり財政支出をして、若者たちに巨額の学生ローンを抱えさせたりせず、個人請負業やインターンという無給の仕事をさせたりしないように働き方を改革し、世界中の民間投資家が英国の住宅を買い漁って住宅価値が高騰しないように制度を整え、若者たちが手頃な家賃で住める公営住宅をたくさん建てるなどの、政治・経済的な取り組みで若者を生きやすくしていれば、…」(220~221頁)と著者が言うのは、日本でも同じように感じるが、どうか。

 

 階級論については、①エリート(6%)②エスタブリッシュメント・ミドル・クラス(25%)③テクニカル・ミドル・クラス(6%)④ニュー・アフルエント・ワーカーズ(15%)⑤トラディショナル・ワーキング・クラス(14%)⑥イマージェント・サービス・ワーカーズ(19%)⑦プレカリアート(15%)の七つの分類(BBCラボUKによる2013年の分析)を紹介している(222頁以下)。そのくせ、英国人の6割が自分は労働者階級だと考えている(227頁)。階級の固定化に対し労働党は「すべての人にチャンスを」のスローガンを掲げた(229頁)。白人労働者階級が困難な状況にある、という言説があり(230頁以下)、他方その言説は移民の困難を視野に入れていないとの反論がある(234頁以下)。そもそも「労働者階級は…経済的階層」であり(237頁)、「白人労働者と移民労働者が繋がることは、不可能ではない」(239頁)と著者は言う。

 日本が現在また将来直面する課題と相当に近似した課題が描かれている点でも参考になり得るだろう。  

                            R2.9.12

 

(国際関係)ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』(アフリカと中国と日本)、勝俣誠『新・現代アフリカ入門 人々が変える大陸』(2013年現在の政治経済)、中村安希『インパラの朝』(中央アジアやアフリカ)、中村哲『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』、パワー『コーランには本当は何が書かれていたか』、マコーミック『マララ』、サラミ『イラン人は面白すぎる!』、高橋和夫『イランVSトランプ』、中牧弘允『カレンダーから世界を見る』、杉本昭男『インドで「暮らす、働く、結婚する」』、アキ・ロバーツ『アメリカの大学の裏側』、佐藤信行『ドナルド・トランプ』、堤未夏『(株)貧困大国アメリカ』、岡部伸『イギリスの失敗』、トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』、熊谷徹『びっくり先進国ドイツ』、暉峻淑子『豊かさとは何か』、竹下節子『アメリカに「no」と言える国』、池上俊一『パスタでたどるイタリア史』、多和田葉子『エクソフォニー』、田村耕太郎『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、ジム・ロジャーズ『日本への警告』、東野真『緒方貞子 難民支援の現場から』、野村進『コリアン世界の旅』、明石康『国際連合』、石田雄『平和の政治学』、辺見庸『もの食う人びと』、施光恒『英語化は愚民化』

 

(商学・経営学・経済学・社会学など)川上徹也『「コト消費」の嘘』、芹澤健介『コンビニ外国人』、飯田泰之他『地域再生の失敗学』、藻谷・山田『観光立国の正体』、藻谷浩介他『里山資本主義』、井上恭介他『里海資本論』、増田寛也『地方消滅』、矢作弘『「都市縮小」の時代』、ロジャーズ『日本への警告』、スィンハ『インドと日本は最強コンビ』、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、池上彰『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、榊原英資『中流崩壊』、大塚信一『宇沢弘文のメッセージ』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』『日本が売られる』、富岡幸雄『税金を払わない巨大企業』、神野直彦『「分かち合い」の経済学』、暉峻淑子(てるおかいつこ)『豊かさとは何か』『豊かさの条件』、松原隆一郎『日本経済論』、和田秀樹『富裕層が日本をダメにした!』、今野晴貴『ブラック企業』、高橋俊介『ホワイト企業』、斎藤貴男『消費税のカラクリ』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』、朝日新聞経済部『ルポ税金地獄』、森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』、中野剛志『TPP亡国論』、小幡績『円高・デフレが日本を救う』、橋本健二『階級都市』、橘木俊詔『格差社会』、堀内都喜子『フィンランド 豊かさのメソッド』、アマルティア・セン『貧困の克服』、宇沢弘文『社会的共通資本』、などなど。

 

(政治学、法学)丸山真男『日本の思想』、石田雄『平和の政治学』、高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』、橋場弦『民主主義の源流 古代アテネの実験』、湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』、小林節『白熱講義! 日本国憲法改正』、木村草太『憲法の創造力』、松元雅和『平和主義とは何か』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、林信吾『反戦軍事学』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、石破茂『国防』、兵頭二十八『東京と神戸に核ミサイルが落ちたとき所沢と大阪はどうなる』、中島武志・西部邁『パール判決を問い直す』、田中森一『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』、読売新聞社会部編『ドキュメント検察官―揺れ動く「正義」』、原田國男『裁判の非情と人情』、秋山健三『裁判官はなぜ誤るのか』、志賀櫻『タックス・ヘイブン』『タックス・イーター』、大下英治『小説東大法学部』(小説)、イェーリング『権利のための闘争』、大岡昇平『事件』(小説)、川人博『東大は誰のために』、川人博(監修)『こんなふうに生きているー東大生が出会った人々』、加藤節『南原繁』、三浦瑠璃『「トランプ時代」の新世界秩序』、池上彰『世界を動かす巨人たち<政治家編>』『世界を動かす巨人たち<経済人編>』、堤未果『政府はもう嘘をつけない』『日本が売られる』、山田正彦『売り渡される食の安全』、平野秀樹『日本はすでに侵略されている』、施光恒『英語化は愚民化』などなど。