James Setouchi
2024.12.9
『奇跡のプレイボール 元兵士たちの日米野球』 大社充(おおこそみつる)著
金の星社 2009年12月
ノンフィクション。つまり小説ではなく、事実の記録。
2007年12月、アメリカと日本の、もと第2次世界大戦の兵士であって今はスーパーシニアのおじいさんたち(ほぼ80歳)が、ハワイに集まって親善野球をした。そのプロジェクトのはじまりからの一部始終の記録。
著者は、NPO法人グローバルキャンパス理事長で、町おこしやスポーツ振興に活躍している人。(本書の著者紹介による。)
きっかけは、アメリカの球団からの申し出(オファー)だった。フロリダにKids & Kubs という野球チームがある。メンバーの全員が退役軍人で、平均年齢は80歳。入団資格が75歳以上というからすごい。
「おれたちは日本人が憎くて戦ったわけじゃない。戦争は終わったが、決着がついたとは思っていない。ついては野球で決着をつけたいのだが、どうだろうか?」
この申し出を受け、テレビ映像制作の石田彰一氏とNPO法人グローバルキャンパスの大社充氏(著者)が動く。
もと日本兵で今も野球が好きなスーパーシニアを募集(ぼしゅう)しチームを作る。球場を探し試合の舞台を整える。スポンサーを探す。マスコミにも連絡を取る。
球場はハワイに決まった。日米の中間点にあり、パールハーバー(真珠湾=日米開戦の地)があるからだ。選手はあちこちから集まってきた。野球界のビッグネームの協力もあった。戦争ゆかりの地(日本兵墓地のあるマキキの丘、アメリカ人戦没者が眠るパンチボウルの国立墓地、パールハーバー)の訪問や交流パーティーも日程に組み入れた。
こうして、スーパーシニアたちの親善野球は始まった。過去の戦争体験を乗り越えて、ほぼ80歳のおじいさんたちは野球にうち興(きょう)じる。
実は、この本の半分は戦争の話だ。日本から参加した選手たちは、空襲(くうしゅう)で友人が死んだ、松山の航空隊から呉(くれ)に行き水際特攻隊「伏龍(ふくりゅう)」の訓練をした、予科練(よかれん)にいた、15歳で少年兵となり朝鮮半島で終戦になった、特攻隊に志願し満州(まんしゅう)で終戦を迎えた、ゼロ戦のパイロットだった、トラック諸島で飢えを経験した、などの経験を持つ。アメリカから参加した選手たちも、そのころ海軍でトラック諸島の近くにいた、ゼロ戦に攻撃された、特攻で空母が沈み漂流した、フィリピンで日本人捕虜(ほりょ)を人道的に扱(あつか)うよう命令した、などなどの経験を持つ。世話をしてくれたハワイの日系人ホカマ(外間)氏の父親もMIS(Military Intelligence Service)(日系アメリカ人で、通訳や情報収集を任務とした)で、日本と戦った・・・
皆でパンチボウルの兵士たちの墓参りをした時、巨大な虹(にじ)がかかった。「それはまるで、ここに集まった選手たちに対する戦没者たちからのメッセージであるかのようでした。」(p.130)と著者は記す。
戦時に捕虜として虐待(ぎゃくたい)された経験を想えば参加できないと参加を拒否したアメリカの選手もいた、パールハーバーでは戦争(歴史)の解釈にギャップを覚えた日本の選手もいた、などの事実も著者は書き込みながら、全体としてはこの交流で相互理解・和解が深まった、という事例を多く報告している。この本が、戦争について深く勉強し直すきっかけになればよいのではないかと思う。
付言
ノモ、イチロー、マツイ、オータニと、今や大リーグで日本人選手が当たり前に活躍する時代になった。平和で仲良くできるのが一番だ。野球なんて戦時中は「ストライク」「アウト」など英語(敵の言語)は使うな、甲子園大会も中止、だったのだからな・・・
正岡子規(明治31年)
久方(ひさかた)のアメリカ人のはじめにしベースボールは見れど飽かぬかも
国人ととつ国人と打ちきそふベースボールを見ればゆゆしも
今やかの三つのベースに人満ちてそぞろに胸の打ち騒ぐかな
2024.12.9
(スポーツ関係。フィクションも含む。)『スポーツとは何か』(玉木正之)、『近代スポーツの誕生』(松井良明)、『オフサイドはなぜ反則か』(中村敏雄)、『変貌する英国パブリック・スクール スポーツ教育から見た現在』(鈴木秀人)、『日本のスポーツはあぶない』(佐保豊)、『スポーツは体にわるい』(加藤邦彦)、『アマチュアスポーツも金次第』(生島淳)、『文武両道、日本になし』(キーナート)、『スポーツは「良い子」を育てるか』(永井洋一)、『路上のストライカー』(マイケル・ウィリアムズ)、『延長18回終わらず』(田沢拓也)、『強うなるんじゃ!』(蔦文也)、『巨人軍に葬られた男たち』(織田淳太郎)、『海を越えた挑戦者たち』『和をもって日本となす』(R・ホワイティング)、『「東洋の魔女」論』(新雅文)、『相撲の歴史』(新田一郎)、『力道山の真実』(大下英治)、『わが柔道』(木村政彦)、『アントニオ猪木自伝』(猪木寛至)、『大山倍達正伝』(小島・塚本)、『武産合気』(高橋英雄)、『氣の威力』(藤平光一)、『秘伝少林寺拳法』(宗道臣)、『オリンピックに奪われた命 円谷幸吉、三十年目の新証言』(橋本克彦)、『タスキメシ』(額賀澪)、『オン・ザ・ライン』(朽木祥)、『がんばっていきまっしょい』(敷村良子)、『オリンポスの果実』(田中英光)、『敗れざる者たち』(沢木耕太郎)、『古代オリンピック』(桜井・橋場他)、『オリンピックは金まみれ 長野五輪の裏側』(江沢正雄)、『オリンピックと商業主義』(小川勝)、『学問としてのオリンピック』(橋場弦他)
(戦争関連)竹山道雄『ビルマの竪琴(たてごと)』、遠藤周作『海と毒薬』、森村誠一『悪魔の飽食』、石川達三『生きている兵隊』、日本戦没学生手記編集委員会『きけわだつみのこえ』、吉田満『戦艦大和の最期(さいご)』、曽野綾子『生贄(いけにえ)の島』、大岡昇平『俘虜(ふりょ)記』『野火』『レイテ戦記』、井伏鱒二(いぶせますじ)『黒い雨』、原民喜(たみき)『夏の花』、大江健三郎『ヒロシマ・ノート』、永井隆『長崎の鐘』、高史明(コ・サミョン)『生きることの意味』、坂口安吾(あんご)『白痴(はくち)』『堕落(だらく)論』、野坂昭如(あきゆき)『火垂(ほた)るの墓』、半藤一利(はんどうかずとし)『ノモンハンの夏』『ソ連が満洲に侵攻した夏』、藤原てい『流れる星は生きている』、宇佐美まこと『羊は安らかに草を食み』、高杉一郎『極光のかげに』、共同通信社社会部『沈黙のファイル』、大内信也『帝国主義日本にNOと言った軍人 水野広徳(ひろのり)』、吉田裕『アジア・太平洋戦争』、半藤一利『昭和史』、早坂暁(あきら)『戦艦大和日記』、島尾敏雄『魚雷艇学生』などなど。