James Setouchi

2024.12.9

   滝沢三郎『「国連式」世界で戦う仕事術』集英社新書2019年9月

                      

[1]      著者

 滝沢三郎(1948~):長野県生まれ。東洋英和女学院大学院客員教授。国連UNHCR協会特別顧問。カリフォルニア大バークレー経営大学院修了(MBA,USCPA取得)後、81年国連ジュネーヴ本部に採用。UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)、UNIDO(国連工業開発機関)を経て、最終キャリアはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)駐日代表。専門は移民・難民政策。編著書に『世界の難民をたすける30の方法』、共編著書に『難民を知るための基礎知識』など。(集英社新書の著者紹介から)

 

[2]      目次

はじめに/第1章 私はこうして国連職員になった/第2章 国連はグローバル化の先取り組織/第3章 難民問題と国連―いま世界で起きていること/第4章 私が見た世界の人々/第5章 国連という視点から見た日本と日本人/第6章 個人としての国際競争力をつける9カ条/付録 外務省JPO試験とは/おわりに

 

[3]内容からいくつか

はじめに:本書の狙いは、⑴国際機関に就職してからの生き残りと貢献術を示す(国際機関は入ってからの生き残りの方が厳しい)⑵グローバル競争にさらされる日本の企業に働く人に働き方、生き方のヒントを示す⑶定年後の人生をどう生きるか、人のために働くというオプションを示す(8~11頁)

 

第1章:著者は中学高校時代病で死ぬと言われたが、埼玉大教養学部(東大に落ちた)で苦学して法務省(上級職)に入り在外研究院制度に応募、カリフォルニアのバークレーで2年間毎日12時間の猛勉強をした。MBA(経営学修士)とUSCP(米国公認会計士)に合格、国連就職にエントリーし法務省を辞しジュネーブへ(14~24頁)。

 

第2章:著者はMBA,USCPを取得しており、国連機関で専門分野で勝負できた。給与・待遇面は非常によい。年齢はアメリカにいたため日本国内での昇進は不利だった。当時は書類選考と面接だけで国連職員になれた。(26~28頁)国連機関には、安保理、事務局、UNESCO,WHO,WB(世界銀行)、UNICEFなどがあり本部はNYたジュネーブ、ウィーンなどにあるが、現在は紛争地や途上国の現場に重きを置く現場方の組織や活動が増えている(29~30頁)。ほとんどの雇用は短期契約(2年)(37~38頁)。本部勤務は2割、途上国勤務が8割(39頁)。英語はできて当たり前で、課長職以上はもう一つ言語が要る(41頁)。国連は政治的競争社会で、日本人の伝統的価値観は通用しにくい(46~55頁)。国連職員には①誰かのために働く強い気持ち②実際に外国で人を助ける能力③絶え間ない努力ができる、という資質が必要(55~57頁)。

 

第3章:パレスチナ難民など世界の難民問題、日本は難民を受け入れていないがお金は出している、などについて言及(60~94頁)。

 

第4章:バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプ、中部アフリカ・カメルーンの難民キャンプ、レバノンのシャティーラ・パレスチナ難民キャンプなどについてのレポートを示してあり、非常に勉強になる。国際問題に関心のある人は必読(96~127頁)。

 

第5章:国際機関には日本人が少ない。①言葉の壁②日本の雇用制度の壁③国際機関は専門職を求めるが日本はジェネラリスト重視の風潮がある、などが理由だ(132~133頁)。①言葉の壁は、前提となる文脈の説明から入るべきという内容も含む(135~139頁)。日本人は議論が下手で、スピーチの訓練などをするとよい(140~144頁)。主張すべきアイデアがないので、答えを探す力でなく問いを立てる力をつける訓練をすべきだし、会議のあり方も変わるべきだ(145~148頁)。CNNやBBCのニュース番組を見るべきだし、もっと世界に発信すべきだ(149頁)。若者が途上国で研修をすると視野が広がる(150~152頁)。

 

第6章:国際機関では採用されて100日間で成果を出すべき(156頁)。リーダーシップを取れ(158頁)。上手に自己主張せよ(160頁)。異文化コミュニケーションをつけよ(165頁)。上司を管理せよ(173頁)。オフィスで政治的行動をせよ(179頁)。裸の王様になるな(185頁)。自分の仕事+20%の追加的努力で守備範囲を広げよ(188頁)。ユーモア力も要る(192頁)。

 

(感想)大変な職場だ。多少英語ができ世界に貢献したい若者は多いが、事はそう簡単ではない。が、人を助ける仕事は大きな充実感を与えてくれる、と著者も言っている(200頁)。できる人はやるといい。異文化コミュニケーション力については同感だが、政治的活動をすることがいいとする価値観には私は依然違和感がある。世界には独裁政権もあれば謀略もあるので甘いことではないが、他方信頼関係を失っては人間社会は成り立たないからだ。孔子も言う、「人、信無くんば立たず」と(『論語』)。

 

(国際)白戸圭一『アフリカを見る アフリカから見る』(2019)、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、勝俣誠『新・現代アフリカ入門 人々が変える大陸』(2013)、中村安希『インパラの朝』、中村哲『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』、パワー『コーランには本当は何が書かれていたか』、マコーミック『マララ』、サラミ『イラン人は面白すぎる!』、中牧弘允『カレンダーから世界を見る』、杉本昭男『インドで「暮らす、働く、結婚する」』、アキ・ロバーツ『アメリカの大学の裏側』、佐藤信行『ドナルド・トランプ』、高橋和夫『イランVSトランプ』、堤未夏『(株)貧困大国アメリカ』、トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』、熊谷徹『びっくり先進国ドイツ』、ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』、暉峻淑子『豊かさとは何か』、竹下節子『アメリカに「no」と言える国』、池上俊一『パスタでたどるイタリア史』、多和田葉子『エクソフォニー』、田村耕太郎『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、柳澤協二『自衛隊の転機』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、東野真『緒方貞子 難民支援の現場から』、野村進『コリアン世界の旅』、明石康『国際連合』、石田雄『平和の政治学』、辺見庸『もの食う人びと』、施光恒『英語化は愚民化』、ロジャース『日本への警告』,滝澤三郎『「国連式」世界で戦う仕事術』                                                   (R2.12.20)