James Setouchi

2024.12.9

 

  髙橋和夫『イランVSトランプ』ワニブックスPLUS新書2019.9

 

1 髙橋和夫:国際政治学者。福岡県生まれ。大阪外国語大学ペルシア語科卒。コロンビア大学国際関係学修士。クェート大学客員研究員等を経て、放送大学名誉教授。著書『中東から世界が崩れる』(NHK出版新書)など。(新書の著者紹介から。)

 

2 『イランVSトランプ』内容からいくつか

第1章 トランプの中東政策の合理性:トランプの中東政策は国内向けに合理的だと言うことを明らかにする。

 第一に、シェール革命をはじめとして、アメリカはエネルギーを大量に生産し、サウジアラビアやロシアと比肩するほどのエネルギー大国となった。ゆえに石油価格は大幅には上昇しにくくなった。ロシアや中東の経済力に制限を設けることになる。また、アメリカは中東への介入の必要性が低下した。エネルギー政策に関連してアメリ各国内に雇用を生み出した。環境問題を重視するEUなどの動きとは逆行しているが。(~22ペ)

 第二に、イスラム諸国七か国からの入国禁止を行った。イスラムの脅威を煽る選挙運動を行ったトランプにとっては支持者に答えるものだ。実際にはサウジアラビア(9.11テロの実行犯22人のうち19人はサウジアラビア市民であったにもかかわらず)などは除外されている。(~24ぺ)

 第三に、エルサレムの首都を認定した。アメリカ国内にいるキリスト教福音派(イスラエル支持)の支持を取り付けるためである。(~35ペ)

これらはアメリカ国内でのトランプ支持層に答えるものであり、その限りにおいて合理的だ。かつ、その背景には、アメリカに脈々と流れる孤立主義の伝統がある(39ペ)。トランプはイラク戦争を批判して大統領になった。「アメリカ・ファースト」を言った人物には、チャールズ・リンドバーグパット・ブキャナンらがいる(43ペ)。

 

第2章 福音派とイスラエルの「記録男」:イスラエルのネタニエフ首相について言及する。実はネタニエフとトランプは、娘婿ジャレード・クシュナーやカジノ王シェルドン・アデルソンを介してきわめて近い関係にある。福音派とユダヤ人も近しい。(~60ペ)しかし、実はイランとイスラエルは、上層部は別としても、一般の国民感情としては、さほどの反感があるとは思えない。相互の「敵はアラブ諸国」である。かつてユダヤ人をバビロニア補習から解放したのはペルシアのキュロス大王だ。在米ユダヤ人の大半はリベラルで民主党支持だ。(~77ペ)

 

第3章 イランとアメリカの因縁オバマ政権はイランのローハニ大統領と歴史的な核合意にこぎつけた。それをトランプは覆した。米国民はイランの米大使館占拠事件(1979年)でイランに対し悪いイメージを持っている。トランプがイランを追い詰めるとイランと中国が接近する。(~119ペ)

 

第4章 蜃気楼上の王国―サウジアラビア:サウジアラビアについて言及する。豊富な石油を背景にして、サウド家(とワッハーブ派)の支配は安泰だった。が、やがて石油が枯渇すれば? そこで改革をしようとしているのがムハンマド皇太子だ。バーレーンは石油が最初に枯渇して、民主化を求めたが、サウジアラビアの戦車によって踏みにじられた。ムハンマド皇太子の改革で国民に労働を求めた時、国民亥政治参加をさせる方向に進むのかどうか。トランプの不動産業に多額の資金がサウジアラビアから流入しているとの推測がある。イランには反政府勢力(「民主勢力」)がいてその資金はサウジアラビアだとの証言がある。ボルトンなどもつながっている。(~159ペ)

 

第5章 アメリカ政治の新しい潮流:バーニー・サンダースや、アレクサンドリア・オカシオ・コルテスだ。ガザの虐殺をアレクサンドリアは批判した。アメリカのユダヤ人社会も、イスラエルは支持するが占領地での抑圧は批判する、という人が増えてきた。2018年11月には女性イスラム教徒やパレスチナ系の連邦下院議員も誕生した。

 日本は、中東では企業が誠実な仕事をしてきたので信用がある。それをベースにした外交を展開したいものだ。(~193ペ)

 

3 コメント

 全体として、極めて有益である。平たい言葉で書いてあり読みやすい。一読を勧める。(2019年に出た本です。)

 

(国際)ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』(アフリカと中国と日本)、勝俣誠『新・現代アフリカ入門 人々が変える大陸』(2013年現在の政治経済)、中村安希『インパラの朝』(中央アジアやアフリカ)、中村哲『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』、パワー『コーランには本当は何が書かれていたか』、マコーミック『マララ』、サラミ『イラン人は面白すぎる!』、高橋和夫『イランVSトランプ』、中牧弘允『カレンダーから世界を見る』、杉本昭男『インドで「暮らす、働く、結婚する」』、アキ・ロバーツ『アメリカの大学の裏側』、佐藤信行『ドナルド・トランプ』、堤未夏『(株)貧困大国アメリカ』、岡部伸『イギリスの失敗』、トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』、熊谷徹『びっくり先進国ドイツ』、暉峻淑子『豊かさとは何か』、竹下節子『アメリカに「no」と言える国』、池上俊一『パスタでたどるイタリア史』、多和田葉子『エクソフォニー』、田村耕太郎『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、ジム・ロジャーズ『日本への警告』、東野真『緒方貞子 難民支援の現場から』、野村進『コリアン世界の旅』、明石康『国際連合』、石田雄『平和の政治学』、辺見庸『もの食う人びと』、施光恒『英語化は愚民化』