2024.12.9

James Setouchi

   白戸圭一『アフリカを見る アフリカから見る』ちくま新書2019年8月

                      

[1]著者 白戸圭一:1970年埼玉県生まれ。立命館大国際関係学部卒。大学院を経て毎日新聞入社。2004~08年南アフリカ、ヨハネスブルグ特派員。2011年からワシントン特派員。著書『ルポ資源大国アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄』『社会開発論』『南アフリカを知るための60章』など。(筑摩書房の著作者紹介を参考にした。)

 

[2]目次

Ⅰ アフリカを見る アフリカから見る

 第1章発展するアフリカ(1 援助で無く投資を 2 激変する世界―躍進と変革のエチオピア 3 「危険なアフリカ」の固定観念) 第2章アフリカはどこへ行くのか(1アフリカ農業―アジアで見た発展のヒント 2 「愛国」と「排外」の果てに 3 「隣の友人」が暴力の担い手になる時 4 若き革命家大統領は何を成し遂げたか) 第3章 世界政治/経済の舞台として(1 中国はアフリカで本当に嫌われているのか 2 中国がアフリカに軍事拠点を建設する理由 3 北朝鮮は本当に孤立しているのか 4 アフリカに阻まれた日本政府の「夢」 5 アフリカの現実が迫る「発想の転換」) 第4章 アフリカから見える日本(1 武力紛争からテロへー変わり安全保障上の脅威 2 南アフリカのゼノフォビアー日本への教訓 3 アフリカの小国をロールプレイする 4 忘れられた南スーダン自衛隊派遣)

Ⅱ アフリカに潜む日本の国益とチャンス(東京外大総合国際学研究院教授・篠田英朗との対談)

 

[3]内容からいくつか

・この本のⅠは、2017年4月~19年4月までの「朝日新聞GLOBE+」の連載したエッセイ集が元になっている。時にアフリカ側に視座を定めて日本を観察したものでもある。(7ペ)Ⅱは、2018年秋に新潮社のウェブサイト「Foresight」で篠田英郎と対談した者が元。(10ペ)

・1990年代には日本のODAの総額(ドルベース)は世界最大だった。が2018年には日本の一人あたりGDPは世界24位に低下。年収の低い人も増えている。アフリカは一部では武力紛争が続くものの平和と民主主義が各地で定着し経済成長が長期持続し初頭就学率も上昇、乳幼児死亡率も低下。アフリカは貧困削減支援を受け入れるだけの大陸から、各国企業がしのぎを削る大陸に変貌した。(8~9ペ)

・サブサハラ・アフリカは人口が増えている。2015年には9.7億人。2050年の予測は21.3億人。2100年の予測は40億人。この時人類の3人に一人以上がサブサハラの住人になる。(15~16ペ)それにともない食糧増産は必須で、農業生産性を上げるために日本の企業にできることがある。(17~20ペ)2017年のアフリカへの投資はフランスが640億ドル。オランダが630億ドル。アメリカ500億ドル。イギリスと中国430億ドル。イタリア280億ドル…などと続き、日本は88億ドル。日本は出遅れている。(25ペ)

・東アフリカのエチオピアは資源依存でなく製造業中心で経済と人口が成長し、GDPでは2016年にケニアをGDPで抜いた。人口は1億人を超えアフリカ2位となった。対中債務が過大ではあるが。(30~37ペ)

・西アフリカのコートジボワールは2002年以降の内戦を乗り越え、2012年以降順調に経済成長している。コートジボワールが内戦の混迷に陥ったのは、高度成長(60~70年代)後の経済低迷、政府債務、生活水準の低下、長期一党支配、与党ベッタリの政治メディア、排外主義の台頭、苛立ち・閉塞感と他者への攻撃、扇動型政治指導者、ヘイトスピーチ、近隣諸国との関係悪化などなどの積み重ねの後に内戦が始まったのだ。(62~69ペ)

・中国はアフリカで嫌われている、という見方が日本であるが、実際にはそうではない。製品は粗悪だがインフラ投資や開発は期待できる、など、冷静な反応が多い。(94~99ペ、233~236ペ)

・中国はジプチ(アメリカ軍の基地がある)に巨大な基地を建設した。(100~102ペ)

・北朝鮮はコンゴやウガンダに武器輸出や軍事専門家派遣をして外貨を獲得、これはアフリカ諸国にとっては軍事力強化のための安価な手段だ。(106~108ペ)

・2005年、国連の安保理で常任理事国を増やし日本もその中に入るべく合意を取り付けようとしたが、阻まれた。反対したのはジンバブエ、背後には中国の思惑があった。(111~118ペ)

・南アフリカにはゼノフォビア(外国人嫌悪)があり、日本も他山の石にすべきだ。(141~146ペ)

・篠田英郎は「南スーダンで貢献すべき」と言う(217ペ)が、柳澤協二「むしろ『自衛隊を海外に出さない』とはっきり言った上で、では日本として非軍事で何ができるのか」を追求すべき(NHK出版新書『自衛隊の転機』206ペ)を紹介しておく。

 

(国際)白戸圭一『アフリカを見る アフリカから見る』(2019)、ムルアカ『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』、勝俣誠『新・現代アフリカ入門 人々が変える大陸』(2013)、中村安希『インパラの朝』、中村哲『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束』、パワー『コーランには本当は何が書かれていたか』、マコーミック『マララ』、サラミ『イラン人は面白すぎる!』、中牧弘允『カレンダーから世界を見る』、杉本昭男『インドで「暮らす、働く、結婚する」』、アキ・ロバーツ『アメリカの大学の裏側』、佐藤信行『ドナルド・トランプ』、高橋和夫『イランVSトランプ』、堤未夏『(株)貧困大国アメリカ』、トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』、熊谷徹『びっくり先進国ドイツ』、ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』、暉峻淑子『豊かさとは何か』、竹下節子『アメリカに「no」と言える国』、池上俊一『パスタでたどるイタリア史』、多和田葉子『エクソフォニー』、田村耕太郎『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!』、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』、柳澤協二『自衛隊の転機』、高橋哲哉『沖縄の米軍基地』、岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』、東野真『緒方貞子 難民支援の現場から』、野村進『コリアン世界の旅』、明石康『国際連合』、石田雄『平和の政治学』、辺見庸『もの食う人びと』、施光恒『英語化は愚民化』、ロジャース『日本への警告』,滝澤三郎『「国連式」世界で戦う仕事術』                                                   (R2.12.12)