James Setouchi
2024.11.29
栄西『興禅護国論』柳田聖山校注 岩波思想体系16
1 栄西(1141~1215):日本臨済宗の祖。鎌倉幕府の帰依を受けた最初の禅僧。号は明庵。岡山県吉備津神社の社司賀陽氏の出。叡山で台密を学ぶが、28才で5ヶ月、47才で5年、2度入宋。天台山に巡礼し天童山で虚庵懐敞(きあんえしょう)より臨済宗黄竜派の禅と戒を受けた。第2次入宋では、西域より印度を巡礼する計画だったが、金軍の南下で断念。帰朝後京都で大日能忍(だいにちうのうにん)と共に叡山の弾圧を受け、『興禅護国論』を上進して仏法の総府、諸教の極意としての禅宗の立場を弁明する。幕府の帰依で、寿福寺や建仁寺を創し、東大寺再建の大勧進となるなど、日本仏教の中興に努める。晩年源実朝に献じた『喫茶養生記』は医薬としての茶の効用を説いたもの。ほかに『教時義勘文』『菩提心論口訣』『出家大綱』など。(岩波仏教事典を参照した)
2 『興禅護国論』:鎌倉初期の禅籍。栄西著。3巻。1198年著述。(栄西57才。)仏教における戒律の重要性を説き、禅を興すことはすなわちその国を守護することになる、禅は古来より多くの僧が修し、教外別伝・不立文字の教えは古くよりある、などを諸経論を引用して証明し禅の大綱を論じた。既成宗派からの攻撃に対し、禅の本旨を論じて禅が一宗として独立すべきことを説いた。(岩波仏教事典を参照した。)
3 構成:原漢文。序、本文は第一から第十まで、これに未来記をつける。本文は、(1)法を久住せしむるの門、(2)国家を鎮護するの門、(3)世人の疑ひを決するの門、(4)古徳が誠に証するの門、(5)宗派の血脈の門、(6)典拠もて信を増すの門、(7)大綱もて参を勧むるの門、(8)建立の支目の門、(9)大国の説話の門、(10)廻向し発願するの門、となっている。
4 内容からいくつか:
(1) 序文は、「大いなるかな、心や」で始まり、この大いなる「心」が釈迦から摩訶迦葉を経て達磨大師に伝わり、さらに朝鮮半島や日本に伝わることを述べ、日本は五家の禅(潙仰、臨済、曹洞、雲門、法眼の五派)を学ぶべきだとする。しかるに弾圧者がいるので、反論するためにこの書を著す、とする。
(2) 「第一、法を久住せしむる門」:仏法を永く存続せしめるためには、青年男女の出家、未成年男女の出家、在家男女の信者、出家の準備期にある女子(学戒尼)、が清浄であれば仏法は永く存続する。その際禅宗の禅苑清規(教団規則)が重要だ。このように栄西は述べる。ここで栄西は戒律を重視しており、例えば浄土門系の弥陀仏によって皆が救われるという思想とはずいぶん異なる思想だという印象だ。上座部仏教(いわゆる南伝仏教)と同様の姿になるようにも感じるが、どうですか。
(3) 「第二、鎮護国家門」:仏は般若の教え(禅宗)を現在や未来世の小国王らに示し護国の秘宝とした。国内に戒を保つ人がいれば諸天がその国を守ると。:確かに菩薩が国王になり仏法を用いて統治することもあるだろう。また弾圧され反論するために書いたとすれば仕方がないのかもしれない。が、これを前面に押し出す栄西は、親鸞(浄土門)や道元(曹洞宗)(弾圧され北陸に移動し権力と距離をとった)とは印象が異なる。
(4) 「第三、世人決疑門」:例えば次のような問いを出し、逐一答えていく。「大集経所説の第五の五百年にあたる今日、人々は機根も鈍く智恵も少ない。どうして禅宗を学べようか」「禅宗が不立文字ならば拠り所がないはずだ。また栄西は不肖の者ではないか」「禅宗が諸宗に通じるものなら、別に一宗を立てるのはおかしい」などなど。栄西はこれらの問いに、諸経典を引用しながら答えていくのだが、あなたならどう答えますか?
(5) 「第八、建立支目門」:大事なのは、寺院、受戒、護戒、学問、行儀、威儀、衣服、徒衆、利養、安居。禅院の年間行事で大事なのは、天子の誕生日を祝う、毎月6回念仏と誦経、土地の神事、皇帝への報恩のために般若経を講ず、年中月次行事(羅漢会、舎利会など)、安居中の行事、読経(毎日一切経から一巻を読む)、などなど。:年中行事を通じて信仰心が再生産されることはある。が、多忙すぎる年中行事に縛られると精神が不在化することもある。皆さんは、どう考えますか?
(6) 巻末の「未来記」:ある人が言ってくれた、宋の仏海禅師は予言した、「自分の死後二十年で東海の上人がやってきて禅宗を伝えるだろう」と。栄西は言う、「自分がそれだ」と。栄西は予言する、「自分の死後五十年でこの教は隆盛になるだろう」と。:自分についての予言である。栄西の使命感がよくわかる。栄西死後数十年で蘭渓道隆が来日して臨済宗を伝えた、とはしばしば言われる。
(十代で読める哲学・倫理学、諸思想)プラトン『饗宴(シンポジオン)』、マルクス・アウレリウス・アントニヌス『自省録』、『新約聖書』、デカルト『方法序説』、カント『永遠平和のために』、ショーペンハウエル『読書について』、ラッセル『幸福論』、サルトル『実存主義はヒューマニズムである』、ヤスパース『哲学入門』、サンデル『これからの「正義」の話をしよう』、三木清『人生論ノート』、和辻哲郎『人間の学としての倫理学』、古在由重『思想とは何か』、今道友信『愛について』、藤沢令夫『ギリシア哲学と現代』、内田樹『寝ながら学べる構造主義』、岩田靖夫『いま哲学とは何か』、加藤尚武『戦争倫理学』、森岡正博『生命観を問いなおす』、岡本裕一朗『いま世界の哲学者が考えていること』などなど。なお、哲学・倫理学は西洋だけではなく東洋にもある。日本にもある。仏典や儒学等のテキストを上に加えたい。『スッタ・ニパータ』、『大パリニッバーナ経』、『正しい白蓮の教え(妙法蓮華経)』、『仏説阿弥陀経』、法然『選択本願念仏集』、道元『宝慶記』、懐奘『正法眼蔵随聞記』、唯円『歎異抄』、『論語』、『孟子』、伊藤仁斎『童子問』、吉田松陰『講孟劄記(さっき)』、内村鑑三『代表的日本人』、新渡戸稲造『武士道』、相良亨『誠実と日本人』、菅野覚明『武士道の逆襲』などはいかがですか。 (R2.11)