James Setouchi

20204.11.10

歴史

   『あんぽん 孫正義伝』佐野眞一   小学館 2012年1月

 

 ソフトバンクの孫正義についての伝記、というよりも、その父方・母方の三代にわたる苦闘の歴史を書いた本。孫正義がいかにビジネスで成功したか、はあまり書いていない。だから経営のノウハウの参考にはならない。だが、祖父の代から「在日」として歯を食いしばって努力し、ついに傑物・孫正義となった、という、一族の苦闘の物語としては、きわめておもしろい。私はソフトバンクについても孫正義についても今まであまり知らなかったが、この本を読んで、孫正義はすごい! と改めて認識した。とにかくスケールがでかい。傑物だ。「在日」の物語でもあるので、いわゆる「在日」問題に関心のある人にも有益なはず。ほんの少しだけ、紹介する。

 

1 祖父は日本軍に朝鮮半島の土地を奪われ日本に来た。貧しくて、九州の炭鉱で働いた。石炭から石油へのエネルギー革命のころ、母方の叔父が炭鉱事故で死んだ。孫は東北大震災・原発事故の時被災者を積極的に援助しようと動き回り、かつ脱原発の自然エネルギー開発に資金をつぎ込むが、これは上記の父祖の歴史と関係があるのではないか。

 

2 孫の父方の家系は両班(ヤンパン)の家系。つまり朝鮮半島における支配者・教養人階級の家系だ。貧しい時代にもその誇りを忘れず、(ゆえに男尊女卑でもあり)単なる商売人・実業家ではだめで天下万民への志が常にあった。

 

3 孫を育てたのは父親の三憲だ。この三憲がまた一種の傑物だ。著者の佐野眞一は三憲に惚れこんでいる。

 

4 孫は子供のころから優秀で、勉強のできない子にも親切で優しく、礼儀正しく大人びていた。高校の時、海外留学の資金をためるため塾を開こうとして、中学の時の先生をスカウトしようとした・・・!

 

5 孫は高校を中退しアメリカへ。大学に進み一日一発明のノルマを自分に課して頑張った・・・

 

*なお、Amazonの「商品説明」ではこうなっている。

「ここに孫正義も知らない孫正義がいる
今から一世紀前。韓国・大邱で食い詰め、命からがら難破船で対馬海峡を渡った一族は、豚の糞尿と密造酒の臭いが充満する佐賀・鳥栖駅前の朝鮮部落に、一人の異端児を産み落とした。
ノンフィクション界の巨人・佐野眞一が、全4回の本人取材や、ルーツである朝鮮半島の現地取材によって、うさんくさく、いかがわしく、ずるがしこく……時代をひっかけ回し続ける男の正体に迫る。
“在日三世”として生をうけ、泥水をすするような「貧しさ」を体験した孫正義氏はいかにして身を起こしたのか。そして事あるごとに民族差別を受けてきたにも関わらず、なぜ国を愛するようになったのか。なぜ、東日本大震災以降、「脱原発」に固執するのか――。
全ての「解」が本書で明らかになる。」

 

 

その他の参考図書(いわゆる「在日」問題を考えたい人に)

『生きることの意味』高史明 ちくま文庫

『コリアン世界の旅』野村進 講談社プラスα文庫