James Setouchi
2024.11.10
『37歳 中卒 東大生』ひろじぃ 高陵社書店 2010年1月
1 著者紹介
1971年生まれ。中学にいじめられるなどし、高校は初日で中退、大学入試検定試験を経て、紆余曲折(きょくせつ)ののち、37歳で東大合格。現在東大生。妻有あり。
2 内容紹介とコメント
本人の自伝なので、第三者が客観的に見たら何というかは、わからない。が、本人の目で見た自分史が具体的に書かれており、中学時代、大検受験時代、その後の苦労などなどがわかる。同じ境遇にある人は参考にすることができるし、そうでない人も、現在の学校や社会を考えるために様々な問題点をこの書の中に見出すことができる。
まず、本人によれば、母親の過干渉がよくない。自分の果たせなかった夢を息子で果たすためにピアノなどを習わせ、遊び相手も決める。本人には不満が残った。
中学ではいじめられた。ここは読んでいて腹が立つところ。柔道の時間に有段者に投げられ椎間板ヘルニアになるが、教師の対応も悪い。(柔道って危ないんだよな、とあらためて感じた。)不登校気味になり、高校へは行かないと決め、合格した公立高校は初日で中退。
大検(今は高認検になっているが)めざし勉強、合格。ここはすごい。が、合格しても、「高校に行っていないことに対する世間の風は冷たかった。アルバイトもろくにない。専門学校にも入れない。フリースクールに行っても、新聞配達をしても、彼に居場所はなかった。
容姿にコンプレックスがあり、顔の手術をした。唯一の話し相手だった弟を殴ってしまった。ひきこもってしまった。超人願望があり、むやみに体を鍛えた。過食と拒食を繰り返し、食べては吐いた。家で、駅のトイレで。この辺の描写はむごく、痛ましい。ついに家庭内暴力。母親が大事にしていたピアノを破壊した。それは一種の親殺しの代替行為だった。
気功の道場に通い、鍼灸の専門学校に学んだ。そこを卒業し、いくつかの国家資格を取り、いざとなったら食べていけるという自信がついた。専門学校卒の肩書でバイト探しも可能になった。整体家の野口晴哉の本に出会った。英語学校で彼女に出会った。心理学を学ぼうと思い受験勉強をし慶応の文学部に合格した。
塾でアルバイトをした。アフェリエイト(サイト運営をして広告を出し収入を得る)と株でも稼いだ。官能小説も書いた。生活のためである。
ヘルニアで腰が痛いのと心理学が思っていたものと違っていたので慶応は中退したが、自分と同じように困っている人のためにならないかと始めたいくつかのプロジェクト(独学支援サイトなど)があった。そのために東大に合格する必要を感じた。「東大にも通ってないくせに」うんぬんというバッシングを受けたのである。で、彼女(既に結婚していた)の協力を得て、東大受験に専念することにした。株価値下がり等で資金の不安はあったが、困難な挑戦を敢行した。一度目は失敗したが、二度目で合格。
現在は東大生で、駒場に通っている(2010年8月現在)。順当にいけば、教育学部に進んで気功への関心をひきつぎ、身体教育学を研究していることだろう。
彼は「三十オヤジの東大キャンパス日記」のほか、不登校や中退者のための「賢者の卵」「高認ナビ」というサイトを持っている。さらにその先の希望もあり、自分のやってきた道のりを参考にしながら、同じように困り迷っている子供たち・若者たちを支援したいという志を持っている。その志は、立派だと感じた。
途中に、塾講師時代の、ある少女との出会いが書いてあるが、ここでは略。詳しくは自分で読んでみてください。
H24.5.6