James Setouchi

2024.11.10

 

 ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

                     新潮社2019年6月

 

1      ブレイディみかこ

 1965年福岡生まれ。福岡の高校を出た後音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン(ブリテン島の南端)在住。ロンドンの日系企業勤務の後英国で保育士資格を取り、保育所で働きながらライター活動をする。他の著書『子どもたちの階級闘争』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』など多数。(本書の著者紹介などから)

 

2      『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

 初出は新潮社の『波』(2018年1月~2019年4月)。イギリスのEUからの離脱(ブレグジット)の是非を巡りおおいにもめていた頃だ。イギリスは執筆当時保守党政権。かつて「ゆりかごから墓場まで」と言われた高度福祉社会の名残はあるものの、サッチャー政権が福祉を切り捨て、その直撃を貧しい層がくらった、という社会背景がある。

 

 著者は福岡のエリート高校を出たが大学に進学せず上記のような生活をし、今はイギリスのブライトンに住んでいる。本書によれば配偶者はアイルランド出身の運転手で、つまり労働者階級。著者が日本人なので、息子は「ぼくはイエローでホワイト」ということになる。「ブルー」の意味については読みどころのひとつなのでここでは省略。

 

 著者の住むブライトンは、低所得者の多く住むところのようだ。イギリスの階級社会(階層格差のある社会、と言うべきか?)の現実がいくつも書き込んである。私立名門中学の生徒は勉強も出来るがスポーツも勝れている。対して公立中学の生徒は水泳大会でも負ける。「親の所得格差が、そのまま子どものスポーツ能力格差になってしまっているのだ。」「いまや親に資本がなければ、子どもが何かに秀でることは難しい。」(93頁)その中で著者一家は、著者曰く、「地べた」の生活者だ。子どもたちもひどい目に遭う。だが、それをカバーする福祉や教育もあるところに注目したい。

 

 リアルに貧しい子らがいて、フリー・ミール制度(低所得家庭は給食費無料)がある(45頁)、中古の制服をボランティアの保護者が繕い50円や100円で販売する(101頁)。児童特別補助という補助金制度がある(104頁)。取り残される生徒を作らないように、教室の外に机と椅子を置き教員と生徒2,3人とが少人数で勉強している学校もある(228頁)。移民が多く、多様性重視の「シティズンシップ・エデュケーション」(政治教育、公民教育、市民教育)を行う。そこでは「エンパシーとは何か」を強調する(72頁)。LGBTQについても嫌悪(フォビア)は絶対にいけない、ジェンダーのステレオタイプも間違っている、と教える(175頁)。それでも貧困があり、差別がある。親の貧困が再生産される。親の差別的言辞を子どもが受け売りする。そこをなんとか乗り越えていこう、と努力している。

 

 著者の息子はかなりしっかりした、大人びた子だ。配偶者も結構頼りになる親父だ。日本に帰省してかえって心ない差別を受けた話(10章「母ちゃんの国にて」)は実に残念なエピソードだ。 

 

 どこからどこまでが事実か。ある程度創作を交えているのか、は知らない。イギリスの階級社会の現実と、その中で具体的にどう対策しているか、を知ることが出来る本だ。日本はこれからどこへ向かうか? いかなる方策があるか? 考える参考になるかもしれない。